見出し画像

幽刃の軌跡 #1

第一話目醒


高松市の朝はいつもと変わらなかった。灰色の雲が低く垂れ込め、少し湿った空気が漂う中、真夜中 朱留(まよなか あける)は目を覚ました。昨夜も遅くまで飲んでいたせいか、頭が鈍く痛む。朱留はベッドから起き上がり、薄暗い1LDKの部屋を見回した。

「また今日も、同じ一日が始まるのか…」

彼は自嘲気味に呟き、しわくちゃのシャツを手に取りながらため息をつく。彼の日常は単調で退屈だった。ハウスメーカーの営業としての仕事は思った以上に辛く、成績はいつも低迷している。上司の「お前はお先真っ暗だな」という言葉が、まるで呪いのように頭をよぎる。

しかし、この日は何かが違っていた。朱留は、目が覚めてから感じていた妙な違和感を振り払うように、キッチンへ向かい、コーヒーを入れようとした。だが、カップに手を伸ばした瞬間、彼の視界が一瞬揺れ、次の瞬間、まったく見知らぬ場所に立っている自分に気づいた。

「…ここはどこだ?」

朱留は目を見開いた。周りは薄暗い森で、風が木々の間をざわめかせている。先ほどまで自分のアパートにいたはずなのに、いつの間にか異世界に迷い込んだようだった。恐る恐る周囲を見渡すと、彼の前には古びた神社が佇んでいた。石段を登り、神社の境内へと進むと、突然、朱留の前に影が現れた。

「待っていたぞ、朱留。」

その声は低く、どこか厳かな響きを持っていた。朱留が声の方向を見ると、そこには鞍馬天狗のような姿をした霊的な存在が立っていた。朱留はその異様な存在感に圧倒され、思わず後ずさりした。

「お前は誰だ? ここはどこだ?」朱留は恐怖を隠しきれないまま叫んだ。

「我は、天幽の刃(てんゆうのやいば)の化身。お前に課せられた運命を共に歩む者だ。」

天狗の姿をした霊は、朱留に向かって静かに告げた。「この世界と現実世界を行き来し、お前の運命を切り開く時が来たのだ。」

朱留は混乱した。これは一体何の冗談だ? 普通のサラリーマンである自分が、なぜこんな状況に置かれているのか理解できなかった。しかし、天幽の刃の力が自分に宿っていることを直感的に感じた。

「運命…か」

朱留は自分の胸に手を当て、その鼓動を感じた。今までの退屈な日常とは全く異なる、新たな何かが始まろうとしている。それは恐怖と興奮が入り混じる感覚だった。

「俺にできることは何だ?」

朱留は覚悟を決めたように天狗に問うた。これがただの夢か、あるいは現実かはわからない。だが、彼はこの運命に立ち向かう決意を固めつつあった。

天幽の刃の化身はゆっくりと頷いた。「お前が抱える闇と共に戦え。この力は、お前自身の闇を切り裂く刃となるだろう。」

こうして、真夜中 朱留の新たな冒険が始まった。現実とパラレルワールドを行き来しながら、彼は自分の運命と向き合い、次第にその力を手にしていくことになる。しかし、それはまだほんの始まりに過ぎなかった…。

いいなと思ったら応援しよう!