幽刃の軌跡 #30
第30話: 軍国会議と密告の影
平場国軍の本陣。厳格な雰囲気の中、八人の隊長たちがそれぞれの席に着き、総大将である平真男を見据えている。会議の開始を告げる鐘の音が鳴り響く。
総大将・平真男は険しい表情で口を開いた。 「皆の者、最近の大和国の動きが影天部隊より報告されている。彼らは戦力を着実に強化しており、国境での警備を強化せねばならん。」
真男の言葉に、隊長たちの間で緊張が走る。しかし、その静寂を破ったのは、七番隊長である牛若吉常だった。
牛若吉常(うしかわ よしつね)が冷笑を浮かべながら口を開いた。 「総大将、それは防御に徹するということですか?いい加減こちらから仕掛ければよいのではないでしょうか?それとも皆様、大和に怯えているのでしょうか?」
その挑発的な言葉に、一番隊長の平朝光(たいらの よりみつ)が表情を曇らせ、静かに言った。 「牛若よ。お前の武力は確かに認めるが、我々は侵略国家ではない。自国の平和を守るのが我々の使命だ。」
五番隊長の平茂道(たいらの しげみち)もそれに続く。 「右に同じく。朝光殿の意見はごもっともです。それに真男様も、その方針を支持しておられる。我々はまず、国内をしっかりと強化せねば。」
しかし、若い二番隊長の平琳守(たいらの りんしゅ)が大きなため息をつき、椅子にふんぞり返りながら不満を漏らす。 「はぁ~、ほんまに平家の方々は古い考え方ばかりやな…。今こそ大和を侵略して、国土を広げたほうがええんちゃいます?」
その言葉に、三番隊長の那須昇治(なす しょうじ)が慎重に口を挟む。 「若い勢いは良いが、無計画な侵略は危険だ。まずは状況をきちんと分析するべきだろう。」
会議は徐々に緊迫感を増していく。総大将・平真男は深いため息をつきながら、牛若や琳守を制するように話を続けた。 「お前たちの意見は理解している。だが、今はまず大和国の内情を掴むことが先決だ。それに、我が国最強と言われた霊域血統の存在も、今はない。」
その言葉に、牛若吉常は薄く笑いながら答える。 「またそんな伝説を語るつもりですか。もう過去の話でしょう?面白くありませんね。」
琳守も口を挟む。 「ほんなら皆で神社にでも行って、藤原さんとこの出産願いでもしましょうか?(笑)」
四番隊長の藤原綾香(ふじわら あやか)が冷たい目で二人を睨む。 「笑えない冗談はやめてください。それよりも、軍内で変な噂が流れています。」
その言葉に、会議室内の空気が一変する。静寂が訪れ、全員が総大将・平真男に視線を向けた。
真男は重々しくうなずき、話を続けた。 「その噂については俺から説明しよう。大和国のことも確かに重要だが、今、我々の内部にも問題がある。九国方面に関してだ。影天部隊の情報によれば、六番隊から八番隊の中に、九国へ密告を行っている者がいるという噂が広まっている。」
六番隊長・藤原明清(ふじわら あけきよ)が顔をしかめる。 「九国に一番近いのは、八番隊エリアです。私の軍も含まれているとは心外ですが、真男様の指示なら従います。」
八番隊長の平誠範(たいらの せいはん)は薄く笑い、揶揄するように言った。 「まあ、疑うだけ疑っていただいて結構です。真相解明後には土下座でもしてもらいますが。」
真男は激怒し、手を叩いて静止させた。 「やめい!まだ噂だ。お前たちを信頼しての情報だ。まずは慎重に真相を解明するのだ。」
会議室内は再び静寂に包まれる。平真男は再び重々しくうなずき、会議を締めくくった。 「この件は軍員には一切漏らすな。隊長たちだけで動くのが必須だ。これ以上の混乱は許されん。いいな?」
牛若はつまらなそうに視線を逸らしながらつぶやいた。 「おもしろくない会議ですね…。どうせ、何も変わりはしない。」