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幽刃の軌跡 #11

第11話: 瀬戸内海の異変と戦乱の予兆

夜の瀬戸内海は、静けさに包まれていた。月明かりが穏やかな波を照らし、備前港に集う平安国第四軍の兵士たちは、その静寂を見守っていた。だが、その平穏は長くは続かなかった。那須弘明(なすの
こうめい)は、指揮官としての鋭い直感で、何か異常を感じ取っていた。海の向こう、遠くの水面が揺れ動き、重々しい不安が胸を締めつけた。


「何かが来る…」


那須はつぶやき、その言葉が吐息のように夜空に溶けて消えた。その時、彼の視界に広がったのは、無数の軍船が月明かりの下に浮かび上がる光景だった。四国軍が、闇に紛れて2万もの兵を率い、平安国の備前港に向けて進軍しているのだ。


「これは…総攻撃だ…!」


那須はすぐに決断を下した。彼の命令で、足軽部隊の数人が急いで駆け寄り、那須のもとに集まった。


「お前たち、直ちに王都へ伝令に向かえ!このままでは備前港が陥落する!」


命を受けた足軽たちは、すぐに馬に飛び乗り、夜道を駆け抜けた。那須は湾内に広がる敵軍を見据えながら、歯を食いしばった。


平安王都。伝令が到着し、王宮内に緊張感が走った。報告を受けた兵士たちは次々と行動を開始し、王宮内はまるで戦時下のような慌ただしさに包まれた。


王座に座する平安王、藤原真彦は、顔を険しくしながら報告を聞いていた。彼は、平安国の命運を握る者として、すぐに指示を下さねばならなかった。


「源尊(みなもとの たける)率いる第一軍は、大和国の偵察から戻り次第、備前港へ向かわせよ。第二軍は和泉湾から、第三軍は神戸港から、それぞれ備前港へ援軍として派遣するのだ!」


平安王の命令は即座に伝えられ、軍勢が動き出した。その光景を見つめていたのは、明菜だった。彼女は、朱留が今こそ平安国の力となるべき時だと確信した。父である平安王のもとに歩み寄り、力強く言葉を発した。


「朱留を現世から呼び戻さねばなりません。彼の力が、今の平安国には必要です。」


平安王は、娘の言葉に頷き、明菜の決意を感じ取った。


「行け、明菜。朱留を迎えに行くのだ。」


明菜はすぐさま準備を整え、現世へと旅立った。その表情には、平安国の未来を担う覚悟と、朱留を信頼する強い思いが浮かび上がっていた。



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