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幽刃の軌跡 #29

29話 - 霊域家の運命と平家の内乱の影

平場国には三大名家が存在する。霊域家、平家、藤原家。それぞれが深い歴史と強力な霊域を持ち、国の中心を支えてきた。しかし、そのバランスが崩れ始めている。

霊域家は、かつて「霊域の元祖」と称され、国一つを支える力を持つ家系だった。だが、ここ半世紀にわたり、霊域家には男子が生まれておらず、霊域家の血筋は絶えようとしていた。現在、霊域家の最後の後継者は静香であり、その運命は彼女に委ねられている。

静香は藤原家の真彦と結婚し、二人の間に娘が生まれた。これにより、霊域家の血統は続いたが、男子が生まれないことで、霊域家の強力な霊域は途絶える可能性が高まっていた。このことは、平家と藤原家の勢力バランスにも影響を及ぼしていた。

平家の当主、平政丸は、静香を息子の真男と結婚させることを望んでいた。真男は粗暴で戦闘的な性格を持ち、強力な霊域を備えていたが、静香はその荒々しさに魅力を感じることはなかった。彼女が心を寄せたのは、気品と優しさを持つ藤原真彦だった。

政丸は当初、この選択に失望していたが、真彦を息子のように可愛がり、一番弟子として育ててきた。真彦の霊域は他と比べて目立つほど強くはなかったが、戦略と戦術に優れ、平政丸の軍人たちから直接教えを受けていた。結果として、真彦は平家内でも一目置かれる存在となった。

時は流れ、静香と真彦の間に2人目の子供が生まれた。しかし、またしても女の子だった。このことは霊域家にとって大きな問題だった。霊域家の男子が国一つを支える霊域を持つと言われる中、男子が生まれないことで、その伝説は絶えようとしていた。

一方、平政丸は、真彦の娘を自身の孫として血縁関係を結びたいと考えていた。彼は、自身の家系と霊域家の血を結びつけることで、平家の勢力をさらに強固にしようと目論んでいた。しかし、平家の内部では、この動きに対する批判の声が上がっていた。

平場国軍内でも不穏な動きが見られるようになっていた。影天部隊の平琴太と源尊は、軍内の内乱の兆しを察知し、強硬派と穏健派の間に生じた緊張感を報告した。強硬派は、隣国大和国への進行を強く望み、積極的に軍事力を拡大しようとしていた。一方、穏健派は内政を優先し、領土拡大よりも国内の安定を重視していた。

特に、七番隊長・牛若吉常(うしわか よしつね)は、最も危険視される人物だった。彼は最年少で隊長に上り詰め、他の隊長たちの中でも際立つ存在だった。吉常の霊域「漆黒駿影」は、馬のような霊体を駆使し、圧倒的な速度と破壊力を誇る。その武術や戦術のセンスは天才的であり、周囲から恐れられていた。

吉常は他国への侵略欲が強く、彼の言動は徐々に強硬派を刺激し、軍内部の亀裂を広げていった。彼の野心は止まることを知らず、いずれ平場国全体を巻き込む大きな争いへと発展することは明らかだった。

平場国の王宮内では、政丸が静かに考え込んでいた。彼は静香と真彦の娘を平家の血統に取り込み、平家と霊域家の結びつきを強めることで、平家の未来を守ろうと考えていた。しかし、同時に軍内で巻き起こる内乱の兆しにも目を向けざるを得なかった。

「影天部隊よ、すでに動き出しているのか…?」

政丸はそう呟き、国の未来に対する不安を募らせる。平場国の内乱がどのように発展していくのか、そして、霊域家と平家の運命がどのように交わっていくのか。すべてが、今動き出そうとしていた。

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