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スポーツで学ぶ会計・税務 #移籍金②

スポーツビジネスの領域で話題になるテーマを題材にして、会計及び税務の解説を行うコラムを開始します。

第1弾の移籍金シリーズ2回目のテーマは、【移籍金支払の費用】の計上方法です。シリーズ1回目の【移籍金収入】はこちら

  • ①【移籍金収入】

  • ②【移籍金支払の費用】<- 本日のテーマ

  • ③【選手の交換 (追加の支払・受取)】

  • ④【移籍金に係る税金(法人税・消費税)】


移籍金支払の費用の計上方法

移籍金が発生するケースでの登場人物は、次の3人となります。(再掲)
移籍先クラブが現所属クラブに在籍している選手を獲得するため、移籍金を支払って費用を負担します。

  1. プロスポーツ選手及び代理人(以下、選手)

  2. 1の選手が現在所属しているクラブチーム(以下、現所属クラブ)

  3. 1の選手が将来移籍するクラブチーム(以下、移籍先クラブ)

この場合に移籍先クラブは費用を「いつ」・「いくら」・「どのように」するか説明していきます。

(1)「いつ」

移籍金を支払う移籍先クラブは、その移籍金を「1度に全額」「ある期間に分ける」の2つの方法が考えられますが、原則は 企業会計原則の "費用収益対応の原則" に従って判断することになります。

 費用及び収益は,その発生源泉に従って明瞭に分類し,各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示しなければならない。 (損益計算書原則・一のC)

企業会計原則(損益計算書原則)
  • 費用を「1度に全額」計上する場合は、売上と費用が「個別的・直接的」な関係にある時です。

例えば、サッカークラブがチームの公式ゲームシャツを販売した時に、そのゲームシャツを製造した費用や輸送に係る費用は、売上と費用が「個別的・直接的」な関係にあります。ゲームシャツが売れた時点でその費用を「1度に全額」計上できます。

  • 費用を「ある期間に分ける」ことにより計上する場合は、売上と費用が「期間的・間接的」な関係にある時です。一般的によく言われているのが、減価償却という考え方です。

UEFA(欧州サッカー連盟)が欧州各国リーグに所属するクラブチームに向けた会計原則を照会すると、移籍金を支払って選手を獲得したクラブは、その移籍金を(資産として計上した後)選手の契約期間(5年超の契約期間の場合は最大5年間まで)に応じてその費用を計上していくことになります。

For each individual player’s registration, the depreciable amount must be allocated on a systematic basis over the duration of the player’s original contract, up to a maximum of 5 years. This is achieved by the systematic allocation of the cost of the asset as an expense from the date the player’s registration is acquired and over the period of the player’s contract, up to a maximum of 5 years. If the period of a player’s contract with the club is extended, then the intangible asset carrying value of the player’s registration plus any additional directly attributable contract negotiation costs (e.g. agent/intermediary fees) can either be amortised over the remaining period of the original contract, or be amortised over the extended period of the player’s contract, up to a maximum of 5 years from the date of the contract extension.

Annex G3.4 - Accounting requirements for the preparation of financial statements「UEFA Club Licensing and Financial Sustainability Regulations」

(2)「いくら」

移籍金の費用の計上方法はこの減価償却と全く同じ考え方になります。
つまり移籍金を年数で割った金額が、その年間の費用となります。

事例として、元サッカー日本代表 中田英寿選手の移籍履歴を掲載しました。

出典:https://www.transfermarkt.it/hidetoshi-nakata/transfers/spieler/5875

1998年7月1日に当時の所属先クラブ:ベルマーレ平塚から移籍先クラブ:ペルージャへは、移籍金約5億円 (3.5百万ユーロ)で5年契約でした。従い、ペルージャは、移籍金5億円を無形資産として計上して、毎年1億円(5億円÷5年=1億円)を移籍金の費用として計上していたことが考えられます。

出典:https://www.calciogrifo.it/2021/06/26/grifo-allasta-il-castello-di-torre-alfina-li-dove-gaucci-ospitava-la-squadra/

ペルージャが行った仕訳としては、
1998年7月1日 (借方)無形資産 5億円  /(貸方)未払金 5億円
1999年6月30日 (借方) 償却費用 1億円 / (貸方)償却累計額 1億円

もし、ペルージャがベルマーレに4年間の分割払いで合意していたら、
1999年6月30日(借方) 未払金 1.25億円/ (貸方)預金 1.25億円

その後、ペルージャは2000年1月1日にASローマに中田選手を当時のレートで約35億円(21.69百万ユーロ)で移籍させることに合意しました。この時にペルージャは移籍金収入をいくらで計上したでしょうか?

ASローマからペルージャへは、恐らく何年かに分けた分割払いで35億円が支払われる契約になっていたはずですが、移籍金収入は(A)移籍金による受取額 - (B) 選手の簿価 = (C) 移籍金収入の計算式 (前回の再掲となります。

・(A)移籍金による受取額 :35億円
・(B)ペルージャ所属時の中田選手の簿価(1999年12月31日時点):1998年7月1日(ペルージャ入団時)~ 1999年12月31日(ペルージャ所属最終日)までの期間は、1.5年になります。その期間発生した移籍金費用は1.5億円(5億円÷5年 x 1.5年)になります。
そして、簿価は、5億円 - 1.5億円 = 3.5億円と計算されます。
(A)移籍金による受取額 35億円 - (B) 選手の簿価 3.5億円 = (C) 移籍金収入 31.5億円

ペルージャは移籍金収入を31.5億円で計上したことになります。

ペルージャが行った仕訳としては、
1999年12月31日(借方)償却費用 0.5億円 / (貸方)償却累計額 0.5億円
1999年12月31日(借方)償却累計額 1.5億円 / (貸方)無形資産 5億円
2000年1月1日    (借方)未収金 35億円 / (貸方)移籍金収入 31.5億円         

この結果、ペルージャは中田選手が在籍した1.5年間で顕著な活躍をしたことにより、31.5億円に到達する移籍金収入を得たことになりました。

尚、ペルージャの現金のフローの動き方に着目すると、収入と費用とは違う動き方になるのが分かります。
分割払いは以下の想定とします。
・ペルージャはベルマーレに4年間の分割払い
・ローマはペルージャに5年間の分割払い

長期間に渡って分割払いが行われる契約では、移籍金収入は即座に計上するものの現金の受取が全額完了するのはかなり先となるため、キャッシュマネジメントを短期的な視点で自転車操業で行っていると黒字倒産のリスクはあります。

銀行でお金を借りる、移籍金収入の未収金をファクタリング(銀行に手数料を払って現金化する)すること等を計画することも必要になるでしょう。

尚、雑談になりますが中田選手がペルージャとの入団会見をおこなった場所は、当時ペルージャの会長ルチアーノ・ガウッチが所有していた城Castello di Torre Alfinaです。
8ユーロで見学することができ、現在結婚式やイベント等で貸切すること利用可能です。https://www.castellotorrealfina.it/

次回は、【選手の交換 (追加の支払・受取)】について説明します。

アルフィナ塔城 Castello di Torre Alfina
アルフィナ塔城 Castello di Torre Alfina

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