垂水文弥「The bird crossed the twilight moon」 角川俳句賞2024


The bird crossed twilight moon


ゆふぐれの手毬にひとびとに唄が
神見えてゐるなる父の寒さかな
狸らがこまかく見えて雨の中
機械に思想水仙に雪がふる
ずつとゐるまんさくに貧相な犬
寄居虫は夜のさびしさを昼も負ふ
電柱へ死者が歩いてゆきやなぎ
中年や流れつきたる蝌蚪の国
春はきさらぎ鳩もつどへば話し込み
あちらから見えてこちらの椿かな
月に水ありてふてふに死が近い
雛飾る日本に軍人の時代
目まぐるしい昼だ蜂来て鳥が食ふ
あはうみの色の衣よ春の鹿
巫のさんにん春を惜しみけり
いつからか夜を愛してヒヤシンス
ライラックいくたび鳥に生れても
まぐはつてゐる修司忌の機械と火
葉桜や少女の裡に聖書棲み
ぼんくらと金魚に思はれてゐたる
なにもない子と夕焼を見てゐるよ
アマリリス地球の裏に雪がふる
一輌にただよふナイターの記憶
花束が五月の網棚に残る
瓶ビール犬もさびしいのだと知る
噴水にこの世の姉を待つてをり
病む肺のとうめいに雷鳥がくる
昼顔や月のかわいてゆくにほひ
洗ひ髪ゆゑみづからを塔と呼ぶ
ならぶ夜店まぼろしのやうに川のやうに
いうれいのくたびれてゐる草雲雀
ほほゑめば川のにほひの生身魂
椋鳥や鈴木を信じてはならぬ
秋の蜂とはひそめきに似るむくろ
古着屋は他人の匂ひ秋風鈴
つぶやきのやうに鰯雲がふえる
生きるのが下手で詩人で草の花
鶏頭がフィルムのやうに褪せてゆく
戦争よ月の双手として月光
うれしくてすこしかなしき菌かな
さざんくわの國でやつぱり一人になる
よみがへりつづける火事跡のにほひ
道化師の歩いてくるは霙かな
咽喉ひらかれて風花のひるひなか
枯れすゝめよ血の幾筋を我が身ぬち
耳打つは月籠めの白鳥のこと
着ぶくれてゐて死者の名を言ひ交す
むかし父とあふぎし聖樹いまもあふぐ
はばたいてゆく真つ黒な鳥は雪
葱よどこかにゆふぐれだけの国がある

2024年度第70回角川俳句賞応募作品です。予選を通過し、小澤實先生の並選をいただきました。小澤先生の選んでくださった10句抄は角川「俳句」11月号からお読みいただけます。
高2で初応募で予選通過(https://note.com/shiny_yarrow599/n/na3d4f635001dからお読みいただけます)以来三年連続での落選には、客観的に過去から自分が成長できていないことを提示され続けているようで正直相当落ち込んでいました。それらを経ての本作は、大学生になり所属も得、自分の書きたい内容と形式の模索とその中での前進を感じ続けた一年の結晶でした。今年予選を通らなかったらもう角川は一生無理だろうなと思うほどの覚悟と自信を持って自分の50句として編んだ一連です。そんな作品に対してのこの結果、大事に受け止めたいと思います。
そして、小澤先生にも「磨いていけば、さらに良くなる作品だったのではないか」と講評の中で言っていただきましたが、今の自分にとってもこの五か月前の作品は物足りないところがいくつもあります。それを一つ一つ達成していった先が角川俳句賞の受賞なのかはまだわかりませんが、今はこの俳句という詩形の広がりと、そして自分の俳句の広野の可能性にワクワクしています。自分の作品を、自分で胸を張って背負える俳人で居たいです。
まだまだ、まだまだだと思っています。もしよければ今後もよろしくお願いします。

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