君ヲ見ルモノ1〜3

  君ヲ見ルモノ1

 此処は、無作為に溢れていく戦火から逃れた避難民が集まるとある避難民キャンプである。各地で起こる戦火は、弱者を僻地に追い遣り彼等の物であった生活の術を奪い破壊して広がって行った。
帰るべき所を奪われた者達は、少ない水と食料を摂りながらテント内で照り付ける陽の光と夜に吹き抜ける冷たく焦げた臭いが混じる風を凌ぎながら忍耐強く戦争が終わるのを待つだけの日々を過ごすのであった。

 此の日の太陽は、崩れて瓦礫と化した建造物向こうに有る山岳地帯に沈み僅かに見えている一部分が周囲の空を夕陽に染める。到頭夜の帷が降りつつある空には、星々が風に晒される蝋燭の様に夕陽の明かりで掻き消されそうに瞬いていた。
暫くして、到頭太陽が山岳地帯に沈み込むと避難民の人々は自ずとテントの出入りを覆う幌を掻き分けて中に潜り込んで行く。そして、避難民キャンプに夜の帷が降り静寂に包まれるのであった。
 しかし、二人の少女のみテントに戻る事はせずに夜空を見上げている。彼女達は、何かを探すかの様に星が輝く夜空を見上げていた。
「あっ」片方の少女が短く声を上げた。
彼女が見上げる夜空に一本の光の線が走り消え去る。すると、それを皮切りに次々と光の線が走っては消えて行くのであった。

 流れ星である。今日は、戦争前から話題になっていた流星群が流れる日であった。しかし、二人の少女を除いて今の人々に流星群を見上げる余裕は無かった。

 すると、空の向こうから微かに轟音が聞こえて来た。テント内からその音を聞いた数人の避難民が幌を掻き分けて身を乗り出すと辺りの様子を伺う。そして、火球を見上げると歓声や悲鳴を上げるのであった。

 瞬く星と流れ星が流れる夜空に、一際大きい火球が流れて行く。それは、光に照らし出される煙の尾を引き轟音を鳴り響かせながら空を横切るのであった。
すると、少女は火球を見上げながら祈る様に両手を組む。もう一人の少女が、その様子を怪訝そうな雰囲気で眺めていた。

 「戦争が終わりますように」手を組む少女は、頭上に差し掛かった火球を見上げて願うのであった。「戦争が終わりますように」そして、横に流れて行く火球を目で追いながら再び願う。「戦争が終わりますように」少女が三回目の願いを呟くと、火球は空に煙を残し溶け込む消え去るのであった。
「やったぁ!流れ星に三回願い事を言えたよ‼︎本当に願い事が叶うかも⁉︎」少女は、横に居るもう一人の少女に微笑みながら言うのであった。「うん、そうだね」しかし、その少女は素っ気ない様子で返すのであった。

 流れ星に三回願い事を言うと必ずその願いが叶う迷信が有る。少女は其れにあやかって願い事を言ったのだ。しかし、もう一人の少女はその行為に否定的な雰囲気であった。

      ※       ※

 長い歳月により遺跡と化した廃墟の間を、凄まじい勢いで飛翔体が進んだ。
大気を突き破り進む其れは、空気との摩擦熱により白熱し轟音を伴う衝撃波と気流の乱れを纏いながら突き進む。衝撃波が廃墟を激しく揺さぶり時には倒壊させ、地上に降り積もった塵を巻き上げると気流の乱れが其れを棚引かせた。

 すると、反対側から飛翔体を迎え撃つかの様にに向かって行く三機の飛行機が来る。否、其れは飛行機といえるか?胴体から翼が生えてなければエンジンすら存在していないのだ。金属製の菱形が宙を浮き空を飛んでいるのである。正に、不可解なテクノロジーで作られた飛行機だ。

 飛翔体は、軌道を塞ぐ様に飛び交う菱形に向かって行く。すると、菱形に備え付けられた謎の装置から短く青白い光線が放射される。飛翔体は、予測していたかの様に軌道を逸らし光線を躱わすのであった。飛翔体の傍を通り過ぎた光線は、舞い上がる砂埃の内に有る遺跡に当たると膨張してバァン‼︎と凄まじい音を立て破裂すると遺跡と砂埃を吹き飛ばす。どうやら、これは凄まじい威力を持つエネルギー弾の様だ。

 飛翔体に向かって、次々と菱形の装置から光線が打ち出される。飛翔体も数発は避けていたが、到頭迫る光線に突き進むのであった。光線が飛翔体に直撃すると、膨張する光が飛翔体を覆い尽くすとバァン‼︎と破裂音と衝撃波を起こし弾け飛ぶ。しかし、飛翔体は止まる事無く其れらを掻い潜りまだ突き進むのであった。

 飛翔体は、牽制するかの様に迫る飛行機の集団に突っ込む。一機目の胴体の下を潜り抜け、二機目へ衝突し爆発させると爆炎を掻い潜り、三機目の頭上を通り過ぎた。行手を遮る事が出来なかった一機目と三機目の飛行機は、縦に旋回すると体勢を整えるて通り過ぎた飛翔体を追いかける。だが、その速度は絶望的に差が有り飛翔体は飛行機との差を一方的に広げて行った。

 飛翔体の前方に、新たな飛行機の群れが迫って来る。そして、総出で飛翔体に向かって光線を打ち込み始めた。だが、狙いを定めさせない様に緩急を付けながら軌道を曲げて飛ぶ飛翔体に当たる事は無かった。

 飛翔体は、獲物を見付けた猛獣の様に飛行機に突っ込んで行く。手前の一機目と二機目に連続して衝突し爆発させるとた三機目と四機目の下を潜り抜けたら急上昇して五機目を貫き六機目に飛び掛かり爆発させた。

 飛翔体が先に進んで行くと、前方の地表を埋め尽くす管が横へ伸びている砲塔を上に乗せた戦車みたいな物と胴体から四本の縦長の脚が生えるロボットの群れが飛翔体の進行を遮る様に立ち塞がった。すると飛翔体が近くと否や、戦車は管の先を飛翔体に向けた途端爆炎と衝撃波を吐き出しながら弾を打ち出し、ロボットは胴体に付けられた装置から飛行機よりも長く太く強く光る光線を放つのであった。だが、飛翔体は、左右上下に飛び回り当たらない。しかし、意地でも目標に当てようと、砲弾や光線が打ち込まれるのだが当たる気配が全く無かった。

 飛翔体は、戦車の群れに突っ込む。手前の戦車に飛び込むと、装甲を紙の様に破り内部に潜り込むと砲塔を押し除け内部に備え付けられた機器を巻き上げながら空高く飛び上がった。そして、飛翔体は、戦車であった残骸の上に降り立つ。其れは、人型の幾何学的なデザインの装甲を持つ人型ロボットであった。飛行機を振り抜く速度で飛び、光線を弾き、装甲に飛び込んだと言うのに、機体には傷一つ付いて無い。その姿は、局面において突然降り立つ機械仕掛けの神の様に神々しく英雄的であった。

  君ヲ見ルモノ2

 此れは、遥か彼方より更に遥か彼方て行われる宇宙戦争である。侵略戦争と言う名の戦争だ。

 戦車の上に立つ人型ロボットは、敵勢力に奪われた領土を取り返す為の英雄的な存在ではない。此れは、侵略者がこの星に存在するあらゆる文明を殲滅する為に送り込んで来た破壊兵器であった。
 しかし、今この星を支配する者達も以前は侵略者である。辺りに点在する遺跡の様な廃墟も、本来の原住民達の文明の名残であった。侵略者は常に侵略側では無い。到頭、彼等は侵略する側から侵略される側に回ったのだ。

 防衛側は人型ロボット一機を総掛かりで包囲し、圧倒的な戦闘能力を誇る人型ロボットは大群に取り囲まれているにその場に彫像の様に佇んでいるのであった。 
 すると、人型ロボットの背後に居る四脚ロボットの胴体に備えられた装置から不意打ちとばかりに光線が放たれる。周りには友軍が居るのにお構い無しだ。だが、人型ロボットは直ぐに上空に逃れる。放たれた光線は、人型ロボットが佇む辺りに着弾すると破裂音と共に膨張し、地表諸共友軍の戦車を吹き飛ばせる程の勢いで吹き飛ばした。

 宙に舞い上がった戦車と砂埃が地上に居る戦車の上に降り注ぐ。戦車同士が衝突する轟音を皮切りに、再び人型ロボットに集中砲火が始めるが先程同様標的は素早く逃げ回り全く当たる気配はなかった。

 すると、飛行機が空中で動き回っていた人型ロボットに対して体当たりを仕掛ける。そして、その体当たりは人型ロボットを捉えた。その飛行機は、胴体の先端に人型ロボットを引っ掛けたまま戦車の上に墜落し爆発炎上する。其れを好機とばかりに飛行機・戦車・四脚ロボットは、目標が落ちたであろう地点に集中砲火を加えた。

 何故彼等は同胞を犠牲にする様な攻撃を平気で行うのか?それは、彼等の気質が有るが何より全戦力の9割強も奪った侵略者のロボットを何としても撃退する事に躍起になっているのだ。
 同胞がどうなろうが、集中砲火は止まる気配は無い。地表を焼き尽くす業火から、狙いを覆い隠す程の煙が湧き上がってくるのであった。

 地表に燃え盛る炎から立ち昇る黒い煙を押し退けて身構えて肩口で宙を切る人型ロボットが飛び出と上空に登って行く。右腕部の手を握り締め、その手は光線の様な光を纏っていた。
 人型ロボットは、正面の四脚ロボットの胴体の高さ迄飛び上がる。そして、正面の四脚ロボットの胴体に翳した右の拳を振り下ろした。拳が胴体に触れると、視界を塞ぐ程の強烈な閃光と爆発に近い破裂音が鳴り響く。閃光が引くと、装甲ごと内部が抉り取られた四脚ロボットの胴体が露わになった。傍で装甲を焼き切る程のエネルギーが発生したのに其れを発生させた人型ロボットには、装甲の変形おろか機体に傷一つ付いて無い。そのまま、何事も無かったかの様に地表に降り立つのであった。

 圧倒的な攻撃力を間近で見せ付けられ、防衛側は愕然として凍りついたかの様に静止する。自分達が、己が扱う兵器より小型の人型ロボット一機に平伏す事に成るとう現実を受け入れられないのだろうか?

 すると、何かに陽の光が遮られて辺りが薄暗くなる。そして、上空から地上へ四脚ロボットから撃ち出される光線より強く光太く長い光線が照射された。光線は地中深く潜り込むと、爆発して岩盤を地表の上に有る物事吹き飛ばす。宙に舞い上がっていた四脚ロボットが地面に衝突しその上へ戦車が降って来ると激しく打ち付けると、最後は別の四脚ロボットがその上に落ちて押し潰すのであった。

 上空には、陽の光を遮る様に特大の宇宙戦艦と追随する小型船が何時の間にか飛来してた。此こそが、侵略者の本隊である。自分達を追い詰めた人型ロボットは前哨戦の相手だったと言うのか?

 すると、上空の艦隊から様々な光線が地表に向けて打ち込まれる。光線は雨の様に降り注ぎ、地表の形を変える程の爆発が連続して起こった。

    ※  ※

 空に浮く艦隊から容赦無く降り注ぐ光線により地形は大きく変わり果て、この星を支配していた戦力は無惨にも舞い上がった砂埃が降り積もる残骸に成り果てた。

 宇宙の侵略者がどんなに人格者であっても、奪い取りに来た星の原住民に対して寛大かつ友好的なんて有り得ない。侵略者にとって、原住民は自分達の物に成る資源を食い潰す害獣でしかないのだ。

 地形が変わる程の光線の攻撃と仲間であった残骸の中運良く生き残っていた敵兵器のボロボロになった外骨格の姿で横になっているパイロットが地表の上に倒れている。呻き声を上げているので生きている事が分かった。しかし、直ぐに彼を助ける者も方法も、もう存在していない。此れが、侵略戦争の敗北者の行く末であった。

 光線の豪雨を上空へと逃れた人型ロボットは、生存者には全く残存戦力を探している様なな雰囲気で浮いてる。暫くして身を翻し更に上空へと昇って行くのであった。


  君ヲ見ルモノ3

 人型ロボットは、更に上空へと昇って行く。先には、大気圏の摩擦により発光する宇宙船の群れが存在していた。此れ等の宇宙船には、星の資源を採取する自動重機が搭載されている。重機が発掘回収した資源を、宇宙船乗せて宇宙に待機している母艦へと運ぶのだ。

 人型ロボットは、降りて行く宇宙船の傍を飛行しながら更に加速すると光の帯を纏いながら空を登って行く。帯が放つ光は赤みを帯び強く成って行くのであった。そして、人型ロボットから伸びる赤い光の帯が途切れる。この星の大気圏から脱出したのだ。

 星が輝く暗黒空間に、太陽光に照らし出される巨大な母艦が浮いている。人型ロボットは、其れに向かって飛んで行くのであった。

     ※       ※

 母艦の正面には、小型宇宙船が入れる大きさの穴が複数個空いている。正面の穴からは、宇宙船が勢い良く射出していた。この穴は、母艦に内蔵された射出機の発射口である。反対側の後方には、発進した宇宙船が母艦に戻る搭載口が存在しているのだ。

 人型ロボットは、正面に有る発射口の一つに向かい母艦の中に戻る。艦内の管状の通路を宙に浮かびながら進むのであった。
 時々、小型宇宙船を乗せた射出機の台座が通路の底を射出口に向かって流れて行く。人型ロボットは、流れる小型宇宙船の進行を阻害しない様に通路の上側を飛んで行くのであった。

 先程の小型宇宙船を乗せていた射出機の台座が、猛スピードで戻ってくる。そして、行き止まりに辿り着くのであった。すると、台座の真上の天井が開き小型宇宙船がゆっくりと降りてきて台座の上に鎮座する。そして、天井が閉じると射出機の台座が射出口に向かって行くのであった。

 天井の向こうは、小型宇宙船のドックと人型ロボットの整備区に成っている。人型ロボットが開く天井の真下に来ると、天井は人型ロボットに反応するかの様に開くのであった。人型ロボットは、その穴を潜り母艦の更なる奥に潜った。

 整備区間内は、簡素な構造のロボットや天井に備え付けられたロボットアームにより完全自動化されている。床上でロボットが忙しなく動くドックの内側には小型宇宙船が出撃の番を待つ様に待機していた。

 人型ロボットは、作業するロボットの邪魔にならない様に宙を浮かびながら整備区間内の奥に進む。そして、区間の壁際に有る横に複数台並ぶ可動式の床に有る前後に重厚な金属の上蓋が備え付けられ人型に刳り抜かれた機械の近くに遣って来た。人型ロボットは、床に降り直ぐに手前の機械の人型に刳り抜かれた穴に嵌る。すると、金属の上蓋が閉じ可動式床が回転し前後が入れ替わるるのであった。

 《管理システム:お疲れ様でした。エッセキュヴァイス》機械に収まった人型ロボットに、通信が来る。相手は、此の母艦を管理するシステムだ。

 エッセキュヴァイスと言う言葉は此の人型ロボットの名である。しかし、此れは人型ロボットの正式な名称ではなく開発当初からのコードネームであった。

 《エッセキュヴァイス:私はプログラムと指示で定められた作業をこなす機械である。機械に生物の様な疲労感や徒労感は存在しない》エッセキュヴァイスは、管理システムに返信するのであった。

 《管理システム:君の働きには感謝していますが、残念なお知らせが有ります》機械同士の通信には、労いと言って言葉は必要無い。しかし、知性生命体とも会話する必要が有る管理システムは、どんな相手にもそう言った言葉を織り交ぜて会話や通信をして来るのであった。

 《エッセキュヴァイス:何だ?》《管理システム:君の活躍で勝ち取った惑星の資源は、予想より少し足りない事が判明しました。此のままだと計画通りの運航が出来ません。軌道は少々逸れる事に成りますが、とある惑星に寄り必要資源を確保する事にしました》《エッセキュヴァイス:了解した》《管理システム:貴方に苦労をかけて申し訳無い。これで通信を終了します》

    ※    ※

 エッセキュヴァイスは、母艦の射出口の縁に立ったいる。前方には、漆黒の宇宙空間に大小様々な惑星が浮かび遥か向こうで煌めく星々が広がっていた。

 《管理システム:其れでは、エッセキュヴァイス気を付けて行って来て下さい。私も後で追い付きます》管理システムが、通信でそう言う。《エッセキュヴァイス:了解した。其れでは発進する》エッセキュヴァイスは、そう応えると射出口の縁から身を投げ出す様に離れた。
 すると、エッセキュヴァイスの機体は暫く宇宙空間に漂っていると見えない力に打ち出される様に前進する。前進するエッセキュヴァイスの速度は段々と加速していった。

 エッセキュヴァイスの機体は、母艦から離れて行く。軌道上に点在する小さな惑星を体当たりで砕き、巨大な惑星は身を逸らし傍を擦り抜けた。 母艦の姿は段々と小さく成っていくが、エッセキュヴァイスは振り返る事無く前進する。こうして、エッセキュヴァイスの姿は星が輝く暗黒の宇宙空間の中に紛れて言った。

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