君ヲ見ルモノ5

    君ヲ見ルモノ5

 暫く当ても無く瓦礫と廃墟の上を飛行し続けていたエッセキュヴァイスだったが、通信と思われる電波とその側には生命反応を確認したのである。其処にはデータベースに当たる物が有るが、敵性存在も存在している可能性が有った。

     ※             ※

 エッセキュヴァイスは、黒く傾斜がつけられた薄い板が並ぶ建造物の屋上に降り立つと屋上出入り口に向かう。扉は、ドアノブと呼ばれる突起を捻り動かす様で、此の惑星の文明と比べ質素な作りであった。ドアノブを軽く握り捻ると扉を押し込む。すると、扉はバキッと壊れる音を鳴らし変形して、出入り口と扉を繋げている蝶番も外れてしまった。どうやら、扉は押し戸の様である。壊してしまった扉を屋上出入り口の内側に倒すと、其れを踏みながら身を屈めて自分の機体には狭い出入り口を潜るのであった。

 エッセキュヴァイスは、片方は外に繋がる窓と反対側は横滑り戸の扉と広間に続く窓が備えられた壁に挟まれた自分の機体には狭い通路を進む。廊下の上には、有機物や無機物が詰められた袋が所々に放置されているが、構わずに足で蹴飛ばしながら進んで行った。不意に狭い通路故、窓に肩口を打つけてしまい窓枠に嵌められたガラスを突き破ってしまう。その向こうに広がる空間には、沢山の机と椅子らしき物が並べられており、生命反応が消滅している生命体がポツンと椅子に座って机の上に突っ伏しているのがセンサー類で検知出来た。此処は、此の惑星の住民が避難先として使っていた様だ。

     ※            ※

 エッセキュヴァイスは、通路側から扉を押し開けると身を屈めて出入り口を潜り部屋の中に入る。扉越しから何かの電波を確認できたのだから此処にデータベースに当たる物が有る様だ。

 室内は、床の上に空のペットボトルやカップ麺の剥がされた蓋や容器に漫画本等あらゆる物か散乱している。壁際にはゴミ袋が水平に固めて並べらていて、奥のゴミ袋はきちんと封を閉じているが手前のゴミ袋は強引にゴミを突っ込まれたままである。部屋の主は、途中で部屋の片付けを放棄した様だ。

 部屋の奥には、沢山の物が置かれた机とリクライニングチェアが置かれている。その周りだけは、聖域の結界みたいな物が張られているのかと思える程ゴミが散乱しておらず床は清掃されていた。机の上には、中心にディスプレイとキーボードが置かれて、それを挟む様に連結された複数のデザインが異なるコンピュータプロフェッサーが鎮座している。此の様子だと、部屋の主は相当此れを大事にしている様だ。

 エッセキュヴァイスは、リクライニングチェア越しに机の前に立つ。そして、片手の人差し指を立てた。すると、立てた指を手前に有るコンピュータプロフェッサーに開けられた外部接続部に近付ける。外部接続部の穴は、エッセキュヴァイスの指の直径より細かった。だが、狭い接続部に指を差し込む。バキッとコンピュータプロフェッサーのカバーが割れてひびが入った。

 エッセキュヴァイスの指先は、接続部として機能するので、電子部品の接続部に触れていれば、通信等が可能である。こうして、コンピュータプロフェッサーを介して、繋がっているデータベースからデータを取り出していくのだ。そして、此の惑星の言語を習得した事もあり、記録を残してある此の惑星に来て出会った瀕死の原住民が言った最後の言葉を確認するのであった。

「うぅ……」苦悶で呻く声がを思い出す。「悪魔に襲われた」瀕死の原住民は、エッセキュヴァイスにそう伝えるのであった。悪魔とは何か?数多くの惑星を渡って来たが初めて聞く言葉であった。丁度、このコンピュータプロフェッサーを通じて得た知識が有る。悪魔とは以下のモノだ。

①道理に反した理屈で行動する人間らしき心を持たない者。道徳や倫理に背く理屈を説き、世間の人間を困らせたりする。

 エッセキュヴァイスから見て、人間とは此の惑星の原住民の事らしい。だが、生物ならセンサーやレーダーで存在を感知できる。センサー類やレーダー類が不具合を起こしていただなんてあり得ないのだ。

②不正義・社会の闇が擬人化された物。額に二本の角を生やして亡者の皮膚と皮の翼を持つ。人間性を脅かし犯す怪物。現在は現実に存在しないとされている。

 エッセキュヴァイスには、擬人化と言う物とその必要性がわからない。昔は認知されてた様だ。具体的な容姿の説明が有るのに存在していない事に矛盾が有る。しかし、レーダーやセンサーに検知されないの存在は確かに脅威と言えた。

 エッセキュヴァイスのデータの習得はまだ続き、その最中に生命反応がこの部屋に戻って来るかの様に向かって来る。意図的に此の部屋に向かって来ると言う事は、此の部屋の主の様だ。

「うわっ‼︎何⁉︎誰なの⁉︎」影が、廊下側に立ち開け放たれた出入り口から室内に居るエッセキュヴァイスの姿を見て驚くのであった。
その人間は、煤とスープにより汚れた白衣を纏い、伸びて毛先が上向いた長い髪でひびが入ったレンズと歪んだフレームの眼鏡を掛けた、ずぼらそうな女性であった。

いいなと思ったら応援しよう!