君ヲ見ルモノ 18
エッセキュヴァイスは、両肩に男性傭兵の亡骸を担ぎ戻って来る。そして、穴の底に降り立つと、戻し土に背を向けて片膝を地面に付けて背を傾けると右肩の傭兵の背を右手て支えながゆっくりと離し斜面に凭れ掛けさせた。次に、そのままの体勢で戻し土の方に振り向くと左肩に担がれた亡骸をクソガキと同様にゆっくりと降ろす。その次は、傾斜に凭れ掛けさせた亡骸を横に置くのであった。最後に、穴の脇に有る盛り土を掻き寄せ二人の傭兵の上に掛けて行くのであった。
亡骸を弔って行った結果、掘られた横長の穴は狭く成っている。残りは、ボスの分だけだ。
エッセキュヴァイスは、また宙に浮き上がると、再び先程の場所に向かうのであった。
※ ※
エッセキュヴァイスは、アスファルトの上で俯せに倒れるボスの傍に降り立つ。そして、ボスの傍らでアスファルトに片膝を付けるのであった。次に、ボスの奥の肩と腰に手を掛けると身体を慎重に裏返す。ボスの虚を睨む形相は無念さを語る様に歪み、腹部の弾痕は人が見ると痛々しい程抉れていた。しかし、レーダーやセンサーで目標を検知するエッセキュヴァイスに其れを見る機会は無い。エッセキュヴァイスは、仰向けに成ったボスの背中と膝下に腕を回しボスの胴体を自分の肩に押し当てると立ち上がった。そして、宙に浮かびそのまま空へと昇って行く。ユルヅに異変は見受けられないが、早く戻る事にした。
※ ※
エッセキュヴァイスは、運動場の上空に辿り着くと直ぐに穴が空いた地表の傍に降り立つ。直ぐに片足を穴の底に降ろしもう片方の膝を地表に着けるとボスを持ち直して背を傾けると穴の底にゆっくりと降ろすのであった。そして、穴の底に降ろしていた足を上げるで立ち上がると横に盛られている土をボスの上へ掛けていくのであった。
子供達には希望しかなかったに違いないし、ボスも此処迄生き残ったのなら意地でも意思を通していただろうし、他の傭兵達も自分達なら生存者を守り切れる自信が有った筈である。やっと戦争が終わり生き残ったと言うのに、亡者の怨念の様なロボットに結局やられてしまった彼等に、エッセキュヴァイスは不憫さを抱いているのであった。
《制御システム:思考回路の負荷を確認しました。機能を最適化します》突然、制御システムがエッセキュヴァイスに通告して来る。しかし、其れを無視しながら盛り土を穴へと戻して行った。こうして、穴を掘る為に掘り返された土は元の場所に戻される。そして、エッセキュヴァイスは喪に服すかの様にその場に佇むのであった。
「エッセ?」地面に敷かれたシートの上で眠っていたユルヅが目を覚ますとエッセキュヴァイスに声を掛けるのであった。
すると、エッセキュヴァイスはユルヅの傍に行くと片膝を地面に付けて出来るだけユルヅに全身で寄り添う様に身を引くする。「ユルヅ、大丈夫カ?」そして、体調を確認するのであった。
「どうして、…此処に居るの?全てが終わったの?」ユルヅは、とても精神的に疲れ果てた様子で人なら聞き取れない様な小さく掠れた声でエッセキュヴァイスに尋ねるのであった。だが、エッセキュヴァイスのセンサーは特定の人間の小さな声であっても聞き取れる性能である。ユルヅが、どれだけ小さい声で語りかけても大丈夫だ。
「皆ノ生命反応が消え始めたノデ、急遽戻って来た」エッセキュヴァイスは、淡々と答えた。
「助かった人は居るの?」ユルヅは、エッセキュヴァイスを見上げて尋ねるのであった。
「残念ナガラ間ニ合わなカッタ」エッセキュヴァイスは、伏せる事が無ければためらいもせずに直ぐに答えるのであった。
「そう…なんだ」ユルヅは、エッセキュヴァイスの返事に残念そうな様子で返す。余程辛い様で、涙が滲み出ると目尻に雫が出来上がっていた。
「皆ノ仇ハ討った。ダガ、此れデ無念ガ晴れるトハ思わない」エッセキュヴァイスは、ユルヅの気を晴らす為の様に言うのであった。
「エッセは、…大丈夫…なの?」ユルヅが、エッセキュヴァイスに気を使う様に尋ねてきた。
「私ハロボットデアル。ソシテ、此の惑星ノ技術力デハ、私ヲ破壊出来る物ハ存在シナイ」エッセキュヴァイスは、胸を張るかの様に応えた。
「エッセ、…血が着いてる。…本当に…大丈夫?」ユルヅは、機体の至る所に血が付着したエッセキュヴァイスに気を掛けているのだ。
「先程迄、皆ヲ弔ってイタ。皆、弾痕カラ血を流してイタ。弔っていた際、付着シタノダナ。私ハ、ロボットである。心配ノ必要ハ無い」エッセキュヴァイスは、その理由を説明する。「そして、皆ノ弔いハ済ませてアル」と付け加えた。
「エッセ」すると、ユルヅはエッセキュヴァイスに縋り付くかの様に片腕を伸ばすのであった。
エッセキュヴァイスに視覚が無くても、センサーによりユルヅが手を差し伸べてきた事は分かる。ユルヅに応える様にエッセキュヴァイスも片手を差し出すのであった。
ユルヅは、エッセキュヴァイスが差し出した手を掴むともう片方の手も上げ掴む。「私、また独りになったのかな?」目尻に出来た涙を横顔に流し苦悶の表情で尋ねるのであった。
「その心配ハ無い。私ガユルヅヲ安全ナ所に辿り着く迄守り抜く事ヲ約束シヨウ」エッセキュヴァイスは、ユルヅの不安を払拭するかの様に答えた。
「私、夢を見てた。思い出せないけど、とても暗くて怖かった気がするの」ユルヅは、小さく掠れた声で続けて言うのであった。
「私デモ、夢の中ノ君ヲ守る事ハ出来ない。ダガ、覚醒状態ノ君ナラドンナ相手デモ守ってミセヨウ」エッセキュヴァイスは、自信を滲ませて断言するのであった。
「絶対」ユルヅは、エッセキュヴァイスの手を掴んで見上げながら言い出す。「だから」そして、眠気に抗う様に瞼を瞬かせるながら続けるが、「ね」と言うと瞼を閉じて寝息を吐き始めるのであった。
エッセキュヴァイスは、ユルヅの手を引き離そうとするがしっかりと掴んでいる。強引に外す事が出来るが、此れでユルヅが満足するなら付き合うのも問題は無かった。
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