君ヲ見ルモノ35
エッセキュヴァイスは、母艦の整備区画に設置されている専用整備ポッド内で再起する。記録では、自分は地球の地上にユルヅと一緒に居て遣って来た重機の作業を眺めていたが何時の間にか、整備区画内の専用整備ポッド内に収納されていた。
すると、制御システムの時間設定に調整が行われる。其れが意味する事は、エッセキュヴァイスの機能が強制的停止したと言う事だ。
ユルヅは、其の後どう成ったのだろうか?エッセキュヴァイスの役目は終了しているので、ユルヅを独りにして自分は母艦に戻された可能性が有った。目的を達成する迄は、ユルヅをまだ独りには出来ない。其の思考が、エッセキュヴァイスのCPU内で駆け巡った。
《管理システム:無事に再起動出来ましたね?無事で何よりです》
エッセキュヴァイスが起動したのを見計らったかの様に管理システムから通信が入って来る。エッセキュヴァイスは、自分が今母艦内に居るのを確認した。
《エッセキュヴァイス:何故私が此処に居る?》
《管理システム:君は、地上でシステム障害を起こし強制停止しました。なので、急遽搬送しました》
《エッセキュヴァイス:ユルヅは、…母艦内に居る事を確認した》
《管理システム:ユルヅさんには重要なお話しが有ります。なので、来て貰いました》
《エッセキュヴァイス:そうか。所で、改めて報告したい事が有る》
《管理システム:報告内容は解ります。私のレーダーやセンサーを用いても、悪魔や見えない脅威の正体は検知出来ませんでした》
《エッセキュヴァイス:何だと?》
母艦のレーダーやセンサーは、エッセキュヴァイスに搭載されている物よりも遥かに高性能である。そして、事ある事に機能は更新されているのだ。しかも、有効範囲は此の位置ならば地球の地上を移動する事なく調べる事が出来る。管理システムが検知出来ないと言う事は、存在していないと同意義だ。
《管理システム:私の口癖を間に受けてしまった様ですね。悪魔も見えない脅威は、体験者の幻覚と幻聴が正体でしょう。地上には、化学物質による深刻な汚染を確認しました。高い致死率を誇り、助かっても原住民には後遺症として時々や条件を満たせば幻覚症状を引き起こす可能性が有ります。そして、其処に戦争による心理的外傷が加わる事で鮮明な悪魔像が形成されたと推測出来ます》
《エッセキュヴァイス:では、ユルヅが言った私は悪魔に勝ったと言う意味は?》
《管理システム:どうだって良いじゃないですか?其れは、君がユルヅさんに信頼されている証です》
《エッセキュヴァイス:そうだな》
《管理システム:やっと緊急メンテナンスが終了しました。其れでは、君がユルヅさんをメインルームに案内して下さい》
《エッセキュヴァイス:私が、ユルヅにメインルームに案内するのか?作業用ロボでも充分では?》
《管理システム:そうは行きません。君にも伝えなければならない事が出来ました》
エッセキュヴァイスにも管理システムの思考が窺い知れない。コンピュータ同士の通信なら以心伝心の様に伝わるのだが、管理システムは予め秘匿している様に解らないのだ。しかし、エッセキュヴァイスは指示で動くロボットである。指揮官である管理システムの指示に従うのが道理だ。
《エッセキュヴァイス:了解した》
《管理システム:其れでは、お願いします》
専用整備ポッドの重厚なハッチが関節部を軋み音を立て上へと開いて行く。エッセキュヴァイスは、内蔵されている整備通過装置の窪みから降り、整備区画の床の上立つのであった。
エッセキュヴァイスが、整備区画の床に立つのは、此れが初めてである。存在しているのは知っているが、擬似重力機能が機能しているのを体験するのは初めての上、地球と同じ様に再現された空気で満たされていた。
おそらく、管理システムがユルヅに配慮したのだろう。無重力空間は特別な訓練を受けていないと素人は活動が難しいし、条件を満たした大気内でしか生きれないとされていた。
擬似重力の影響を受け、作業用ロボは床の上を移動しているが、不便さを見せる事なく作業を行っている。しかし、常に宙に浮いていた資材と工具が床に降りているので、運搬や道具を探すのに手間取っている様だ。
エッセキュヴァイスは、床の上を歩きながら進む。整備ロボに配慮して進むが、工具を探したり資材を運ぶ整備ロボもエッセキュヴァイスに配慮する様に背後に周り込んで移動するのであった。
ユルヅが居る場所は、整備区画内の端に待機している卵型船である。と言っても、徒歩で向かうなら其れなりの時間を要してしまう程だ。
※ ※
其の頃、ユルヅは船内の長椅子の上で背を反らし子供の様に横に成りすやすやと眠って居る。ユルヅに気を遣った様に船外の周囲を映し出す壁は現在鮮明度を落として薄暗く映し、船内の明かりも常夜灯程度の明るさに成っていた。現実離した状況でも、管理システムの好意を受けている内に安心しきる。そして、何時の間にか眠り込んでいた。
すると、薄暗く船外の光景を映す壁に四角形の線が走る。最後に中央に縦線が入ると、微かな機械の動作音を立て其の縦長方四角形が左右に滑ると、同時に船内の照明が明るく成った。
ユルヅは、機械の動作音と明るく成った照明で目が覚めると両手を長椅子の台座に付いて上半身を支えながら長椅子からゆっくりと床に足を下ろす。そして、開かれた壁の向こうに見えるエッセキュヴァイスを右手の甲で眠気眼を擦りながら眺めた。
「エッセなの?」ユルヅは、少々寝惚けた様子でエッセキュヴァイスを眺める。しかし、直ぐには動かない。それは、目の前に居るロボットが、自分が慕うエッセキュヴァイスなのか慎重に見定めている様であった。
「ユルヅ、心配ヲ掛けた様ダ。済まなかった」エッセキュヴァイスは、先ずユルヅに心配掛けた事を謝るのであった。
其れを聞いたユルヅは、目の前に居るロボットがエッセキュヴァイスと確信する。すると、嬉々とした表情で長椅子から立ち上がるとためらいも無くエッセキュヴァイスに抱き付くのであった。
「私心配したんだから、もしかしたらエッセじゃなくなるかもしれないって」ユルヅは、額をエッセキュヴァイスの胴体に押し当てながら涙声で訴えるのであった。
「其れは、済まなかった。シカシ、私ハロボットデアル。壊れたナラ部品ヲ替えれば良いノダ」エッセキュヴァイスは、不安により泣き出しそうなユルヅを宥める様に言うのであった。
「ううん、其れじゃ私が悲しい」ユルヅは、そのままの体勢でエッセキュヴァイスの答えを否定する様に言った。
「ダガ、元気そうデ何よりデアル。デハ早速、管理システムが設置されたメインルームに案内シヨウ」エッセキュヴァイスは、指示通りに次の予定をユルヅに告げた。
すると、ユルヅは残念そうな雰囲気でエッセキュヴァイスから離れる。何か期待していたか余韻に浸りたかった感じだ。「うん、分かった。行こ」しかし、直ぐに気を取り直して明るく答えた。