君ヲ見ルモノ39
ユルヅは、小型のキャタピラーに棒人間の様な人間の上半身を備え付けられた整備ロボットに連れられて、通路に備え付けらた横滑り扉の前に遣って来るのであった。
「コチラガ、ユルヅサンノオヘヤデス。コレカラジュンビガシュウリョウスルマデ、ココデオスゴシクダサイ。コノヘヤハ、モットモユルヅサンニチカイセイブツガスゴスノニテキシタツクリニナッテイマス。ワガイエトオモッテ、オスゴシクダサイ」扉の前でユルヅと共に居る整備ロボットがぎこちない音声で説明するのであった。
本来なら、此のロボットに此の様な性能は存在しない。では、何故性能を超えた事が出来るのかと言うと、管理システムが操作しているからだ。
整備ロボットが説明し終えると、横滑り扉が微かな動作音を鳴らして開き室内に照明が点く。室内には照明器具の様な物は存在しておらず、天井全体が均一に光を放ち、部屋全体を照らしている様であった。
部屋に有る物といえば、中央に置かれた丸テーブルと椅子の様な物と隅に置かれた卵型船の長椅子のクッションに似た素材のベッドとして使えそうな楕円で大きなクッションや冷蔵庫の様な箱と奥に別の部屋が有ると物語る小さな横滑り扉であった。
「アノトビラノオクハ、ユルヅサンデイウトイレ・シャワールーム・センタクキニセンメンジョガハイチサレタヘヤニナッテオリマス。トビラハ、マエニタテバジドウデヒラキマス」整備ロボットは、すっかり塞ぎ込んで立ち尽くすユルヅに構わずに説明して行く。「サイゴニ、ヨウボウガアリマシタラ、キガネナクソノバデモウシデクダサイ」と、説明の最後に締め括るのであった。
「管理システムさん」ユルヅが、横に居る管理システムが操る整備ロボットに声を掛ける。其の表情は俯き気味なので影を落とし、声は心なしか低く聞こえた。
「イカガイタシタデショウカ」整備ロボットは、頭部に内装されたカメラでユルヅを見上げて尋ねるのであった。
「エッセは、私と他の人の為に闘って呉れたんです。都合の為に私と同じ人間を殺すロボット達とです。其の心が本当に悪いんですか?」ユルヅは、そのままの体勢で整備ロボットに尋ねた。
「ユルヅサントワタシデハジジョウトタチバガチガイスギマス。ヨッテ、ソノオハナシデハハンダンキジュントナリマセン」管理システムは、整備ロボットの音声で答えた。「ユルヅサン、イチドヤスミマショウ。ミズハタクサンアリマスカラ、イママデノタビノクロウヲアラッテナガシマショウ。ヨウイシタフクニキガエテ、レイゾウコノヨウナハコニハカンイノショクリョウトインヨウスイヲイタダイテクダサイ。ユックリヤスンデ、センタクブツヲアラエバ、キモハレマスヨ」と、付け加えた。
しかし、ユルヅは暗い表情で軽く項垂れて黙ったままで有る。もしかすると、何時か感情の奔流が関を突き破るかもしれなかった。
「デハ、ゴユックリオヤスミクダサイ」管理システムが操るロボットは、ユルヅに反論の時間を与えない様にそそくさと戻って行くのであった。
取り敢えず、今はゆっくり眠れるなら今の内に眠る事にする。長く成った放浪の旅で学んだ処世術だ。ユルヅは、部屋の出入り口を潜り中に入って行く。すると、暫くして出入りの扉が閉じられるのであった。
※ ※
部屋の奥に備えられた扉が微かな稼働音を鳴らして横に滑る。すると、其処から用意されていた部屋着か検査衣の様な質素なワンピースを纏うユルヅが出て来た。
ユルヅが清潔で纏まったた水を湯として浴びるのは久し振りであり、不快指数最大の空間から解放された様にスッキリしたのも久し振りである。未知の文明のシャワーには驚かさられたが、自分の身体から流れ落ちた湯が付着した汚れを含み濁りタイルを汚しているのを見た時は少女の心には衝撃的だった。其れ故、其れを見たからこそ身体がスッキリしたと言える。今は気分的に割と楽で管理システムが言う様に気は晴れているが、エッセキュヴァイスの事は諦めるつもりは無かった。
「管理システムさん?」ユルヅは、何処を向いて言えば良いのか分からないので、戸惑った表情で取り敢えず辺りを見回しながら管理システムに呼び掛けるのであった。
「ユルヅさん、どうかしましたか?」即座に管理システムが答えて来た。
「準備終了迄の時間を何処かに表示出来ませんか?時間が分からないと気になってしまうから」ユルヅは、天井を見上げて要望を言うのであった。
「分かりました。では、ユルヅさんが此の部屋に居る時に限り天井と壁に気に障らない様に表示します」管理システムがそう言うと、ユルヅの視界に入る壁の右下隅にカウントダウンして行く数字が小さく表示される。ユルヅが試しに視線を動かすと数字も常に移動して右下隅に存在し続けた。
「ありがとう」ユルヅは、軽く頭を下げると管理システムに礼を言うのであった。時間は、残り七十時間を下回っている。が、まだ猶予は残されているだろうか?
今は休む事に決めたユルヅは、大きな楕円形のクッションに飛び込む。クッションは長椅子の物に似ており、非常に寝心地が良さそうだ。其れに、室温はワンピース一枚だけでも快適に過ごせる様に調整されている。さっぱりした状態と人を駄目にする様な環境の中で眠気に従い眠り込むのであった。