君ヲ見ルモノ26


 エッセキュヴァイスは、宙に浮き上がり近くの機動隊ロボの胴体に手を食い込ませてそのまま上空へと上昇して行く。そして、ある程度迄到達すると四本脚を振り回し踠いている機動隊ロボを振り翳した。
 地上では、機動隊ロボがエッセキュヴァイスに機関銃の先を向けて警報音とカチャカチャと鳴らしているだけだが、弾丸が残っている数機の機関銃から乾いた破裂音が鳴る。しかし、其の弾丸は逸れるかエッセキュヴァイスに当たったとしても鈍い音を鳴らして弾き飛ばされるだけであった。
 エッセキュヴァイスは、機動隊ロボを振り翳したまま狙いを定める。目標は、最も機動隊ロボが密集している所だ。そして、目標に翳した物を叩き付ける様に投げ付ける。地面へ叩き付けられたロボットは爆発し周囲のロボットを巻き込み破壊するのであった。

エッセキュヴァイスのレーダーが、独りで移動するユルヅを捕捉する。約束したのに勝手に行動していた。もしかすると、見えない脅威か異常行動が現れたのかもしれない。直ぐに後を追いたいが、今だに機動隊ロボが遣って来るのであった。

《制御システム:機能のアップデートを受信しました。データのダウンロードを開始します》制御システムが、以前要請したアップデートを受信した事を告げた。
 丁度良い機会に来た物である。此れで見えない脅威を捕捉出来る筈だ。エッセキュヴァイスは、データを受信し続けながら迫って来る機動隊ロボを片付けて行った。

     ※              ※

 ユルヅは、背で暴れるリュックサックに構わず息を荒げながら人影を追う。そして、人影に誘導される様に緑地公園に遣って来るのであった。

此の緑地公園は、此処に住む住民達の憩いの場である。戦前は、セリシアや友達とよく訪れた所だ。そして、開花の最盛期に成れば、花見目的の地元の住民や観光客に需要を見込んだ屋台でごった返した物だが、現在は朽木と芝生が禿げて露出した地面が所々に目立っている。奥には、小高い丘が有り最も樹齢が高い巨木が存在していた。
 噂では、辺りに植えられた木は、此の巨木の挿し木により繁殖された様である。其れが本当なら正に、その巨木は緑地公園の主と言えた。だが、現在は其の座は危ういと言えよう。巨木は離れた位置からでも見て分かる様に半分以上その身を枯らし、座する玉座とも思える丘も芝生が剥げ落ち土が見え、近い内に其の栄華は終焉を迎えると物語っているのであった。

 人影は、丘の手前で来るのを待って居て呉れているの様に佇んで居る。ユルヅは、少々荒くなっていた呼吸を落ち着かせると意を決した様子で人影に向かって行くのであった。

「ユルヅちゃん、久し振りだね。此処に居れば、絶対会えるって思ってたよ」その者は、セリシアであった。
 ユルヅが知るセリシアは、同世代なのに妹の様に愛らしく誰にでも無邪気に接する娘である。しかし、今目の前に居るセリシアは、正反対に氷の様に冷たく軽蔑する様な眼差しを向けていた。
 セリシアは、確かにエッセキュヴァイスが掘った穴へ埋葬した筈である。セリシアの顔面と着衣に泥汚れが目立つと言う事は、土を掻き分け這い出て来た様に思えた。

「本当に、……セリシア?」ユルヅは、驚愕した表情で恐る恐る尋ねた。
「アハハッ」セリシアは、面白い冗談を聞いたかの様の声を上げて笑う。そして、態度を改めると「何言ってるのユルヅちゃん?私は私だからね?」軽蔑の目をユルヅに向けて言った。「ユルヅちゃんは、エッセさんに守られて此処に来たけど、私は独りで来たからすっごく大変たったんだよ?」と、怒りが籠った声で続けた。
「!」ユルヅは、目を見開き先程よりも驚愕した。目の奥の筋肉が眼球を押し出し、心臓が肋骨を内側から吹き飛ばし胸を破裂させそうな感覚に襲われる。そして、息が詰まり窒息して意識が遠退きそうだ。

     ※             ※
     
 エッセキュヴァイスは、高層建造物の屋上の高さ迄跳躍して手短な屋上へ降り立つ。そして、足元の表面に真新しい跡を残す程の一蹴りで直ぐに他の高層建造物の屋上へ飛び移るのであった。今は、迫り来る機動隊ロボ達を片付けて、勝手に移動したユルヅの後を追っている最中だ。すると、ユルヅのバイタルが不穏な動きを見せる。もしかすると、事態は急を要するかもしれない様だ。

《制御システム:更新データのインストールを終了しました。機能適用する為、機体を際起動します》エッセキュヴァイスの制御システムがそう告げた。再起動の為に立ち止まってしてしまえば、無駄に時間を消費してしまう。再起動は、二秒未満だが、事態は一刻を争うのだ。では、どうするのかと言うと、こうするのだ。
 エッセキュヴァイスは、先程よりも力を出して足元の表面を削り取る程の蹴りで飛び上がる。移動先は、此の屋上から離れた位置にある別の屋上だ。
 エッセキュヴァイスの脚が地面から離れると同時に全機能が停止する。しかし、機体は打ち出された銃弾の慣性の様に体勢を維持し飛び続けた。

《制御システム:機体を》システムの報告をし始めると同時に再起動したエッセキュヴァイスは、両脚を曲げ腰を屈め頭を突き出した体勢で着地するが、勢い余って前のめりに体勢を崩しそうになり、咄嗟に右腕を突き出し機体を支えるのであった。《再起動しました。更新機能が適用されます》そして、システムの報告を聞き流しながら立ち上がった。

 エッセキュヴァイスに新たに追加された機能は、異常な光の屈折を検知するセンサー機能の追加と液体・熱・音の移動を検知の強化である。そして、光の波長のデータを記号化して再現模型として表示する事により擬似的な視界として扱える機能で、紙に書かれた文字も読む事が可能だ。
 正に今回のアップデートは、エッセキュヴァイスには見えない未知の脅威と欠点を克服した物と言えよう。しかし、それでもユルヅの傍には何も検知されず独りのままであった。

 新機能は正常に適用されており、制御システムも異常を起こしてはいない。だが、思考している暇は無く、再び対策アップデートを申請しておくのであった。しかし、ユルヅの異常と危機だけは本当である。どうであれ、早急に対応する必要が有るのだ。

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