君ヲ見ルモノ28


 エッセキュヴァイスは、地面に直接腰を降ろして座り込むユルヅの傍へ向かって行く。そして、初めてエッセキュヴァイスはユルヅの容姿を見るのであった。
 ユルヅは、髪は乱れ目元を腫らして鼻腔から漏れ出た鼻水は横に伸びて乾いている。余程疲れきって居る様で、俯きながら口で呼吸しながら放心状態の様に成っていた。其の姿は、エッセキュヴァイスが今迄対峙した生物の中で最も儚く更にか弱く見えた。
 エッセキュヴァイスは、腰を屈め片膝を付けると俯いているユルヅの顔に自分の頭部を近づける。「ユルヅ、身体ノ異常ヲ確認シタイ。何処か異変カ辛い事は有るダロウカ」エッセキュヴァイスは、まじまじとユルヅの容姿を眺めて尋ねながらもセンサーでも異常を調べるのであった。
 ユルヅはエッセキュヴァイスを赤みを帯びた瞼と少々充血した瞳で見上げ「ううん、何とも無い」と答える。だが、直ぐに申し訳無さそうに暗い表情で視線を伏せてしまい「勝手に約束を破ってごめんなさい」と、か細い声で謝るのであった。
「気にスル事ハ無い。ユルヅガ無事デ何よりデアル」エッセキュヴァイスは、全く気にしている様子は無く、淡々とした音声で答えた。「シカシ、君ヲ苦しめた敵を仕留め損ねた可能性が高い。恐らく、マタ接触シテ来る可能性が有るダロウ。その敵ヲ仕留めナイ限り、此の旅は安全ニハナラナイ」と、深刻な雰囲気で言うのであった。
「ううん」ユルヅは、エッセキュヴァイスの言葉を否定する様に軽く顔を横に振る。そして、「エッセは勝ったよ」エッセキュヴァイスを見上げて言うのであった。
「ソウカ、デハ其れデ良い」エッセキュヴァイスは、ユルヅの根拠が無い返事に納得するのであった。「ソレト、済まない。再び君二辛い事ヲ発言してシマッタカモシレナイ」と謝るのであった。
「良いよ。私の為を思ってエッセが言って呉れた言葉だって解っているから」ユルヅは、嬉しそうに微笑みながら答えるのであった。
「了解シタ」エッセキュヴァイスは、ユルヅの返答に納得した。「デハ、此処から離れヨウ。ユルヅノ目的地迄モウ少しデアル。ダガ、今の君ハ大丈夫ダロウカ」酷く消耗したユルヅを気遣う様に尋ねた。
「私は、大丈夫」ユルヅは、そう言いながら立ちあがろうとした。しかし、腰に全く力が入らない上膝が言う事を聞いて呉れない。丸で、下半身は別の生き物の様に感じる程重く感じられるのであった。「じゃないみたい」崩れる様に地面に再び腰を着け申し訳無さそうに答えた。
「見えない脅威ハ無くなったノダカラ急ぐ必要ハ無い。此処デ休んでイク事ヲ提案スル」エッセキュヴァイスは、此処に来る迄に疲労したユルヅを気遣い言うのであった。
「あの、エッセ…良い?」ユルヅは、エッセキュヴァイスを見上げながら切り出すのであった。

    ※                ※

「私トシテハ、平常時デアッテモ此の行為ハ推奨シナイガ、戦闘行為直後ナラバ禁止行為デアル」エッセキュヴァイスが、淡々とした音声で答えた。
「でも、私は此れで良い」ユルヅは、明らかに困惑しているエッセキュヴァイスを宥める様に言うのであった。
「私ノ機体ハ、活動中ハ常に放熱シテイル。戦闘行為直後ハ、更に熱量ガ増してオリ此の行為ハ生身ノ生物ニ低温火傷ガ生じる可能性ガ非常に高い上、移動中誤作動ヤ緊急事態ニヨリ君ノ身体ヲ破壊スル可能性ガ高い」エッセキュヴァイスは、リュックサックをぶら下げて腰の後ろに回した両腕に腰を降ろし肩に手を添えて背に凭れ掛かるユルヅに言う。「其れ以前ニ、此の行為ハ私ノ本来ノ役目ト非常ニトテモ大きく異なる物デアル」嘆く様に、背中に背負われるユルヅに訴えた。
「そう?私には丁度良い暖かさだよ?」ユルヅは、平然と答える。其の様子には、全く無理をしている様には見受けられないのだ。寧ろ、バイタルを鑑みると此の状況を楽しんでいる様にも思えた。
「ソウカ、ナラ行くトシヨウ」エッセキュヴァイスは、諦めて観念したかの様に答えるのであった。恐らく、ユルヅと言い合っても此れで良いの一点張りだろう。其れに、ユルヅが教えて呉れた住所迄は後少しだ。
 ユルヅが言うには見えない脅威とも決着は着けられた様である。其れなら、今後の移動は安易に成ったと言う事だ。だが、今はユルヅを背負っている。エッセキュヴァイスが、ユルヅに合わせて移動するには途轍もない力加減が求められたと言うのに、彼女を背負う事に成ると更に慎重さも求められるのであった。だが、誰かに必要とされる事は素晴らしい事である。エッセキュヴァイスは、そう思考しながら進み出すのであった。

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