君ヲ見ルモノ 17
ユルヅは、暗闇の中を駆けている。此処が何処でどう言う状況なのか分からないが、足裏に地面を踏み締める感覚が有るのだから前に進んで居るのは確かだ。
ユルヅは、闇雲に暗闇の中を駆けている訳ではない。背後から暗闇よりも暗い得体の知れない何かが軟体生物の様にうねりながら追い駆けて来ているのだ。
「嫌っ!来ないで!」ユルヅは、必死に暗闇より黒い物から逃げるのであった。
突然、ユルヅの踏み出そうとした足に何が巻きつく。すると、体勢を崩し前のめりに倒れた。直ぐに曲げた腕の手を地面に着けて曲げた肘を伸ばし上半身を持ち上げると肘を地面に突けて背筋を反らして上半身を起こすと確認の為振り向く。視界は暗闇で状況が分からないが、足首に暗闇より黒い物が纏わり付いているのは分かった。
ユルヅの足首に纏わり付いた黒い物は、素早く足から胴体を這いずりながら巻き付くと鼻と口を塞ぐ様に髪も掻き分け頭にも巻き付く。そして、獲物を捉えて勝ち誇ったかの様に掲げるのであった。
ユルヅは、呼吸を確保しようと巻き付いた黒い物と頬の間に指を突っ込み引き剥がそうとする。しかし、指先は黒い物の表面のぬめりにより滑るだけであった。自分の身体に、黒い物が溶け込んでくる様に吸い付いてくる。このままだと、身体の細胞が黒い物に飲み込まれて行きそうだ。其の時ユルヅは、悟る。黒い物の正体は自分を吸収しようとしているのだ。自分は、捕食者に喰われ様としているいるのだ。
ユルヅは、苦痛に耐えながら踠き続ける。しかし、捕食者はユルヅを離そうとはしなかった。
突然閃光が煌めく。其れは、暖かいより少々暑い衝撃波の様な風を伴い通り過ぎるのであった。再び周囲が暗闇に包まれる。すると、捕食者が突然燃え尽きた線香の様に音も無く崩れ落ちた。こうして、ユルヅを締め上げていた力が消滅すると地面に落ちる。解放されたユルヅは、表情を苦痛で歪めながらも肘を地面に着けて上半身を起こすと何かを探す様に辺りを見回した。先ずは、左右を確認する。両側には暗闇だけで、何も見当たらず、先程迄の捕食者は存在しないと思えた。最後に、顔を上げて暗闇の奥に目を向ける。すると、先程迄存在していなかった一番星の様な輝きが暗闇の中に存在していた。
もしかすると、先程の閃光を伴う風はあの光から放たれたのかもしれない。だとしたら、あの元に辿り着ければ此処から出られる手立てが見つかるかもしれなかった。
此処は未だ暗いが、ユルヅは新たな捕食者が現れる事はもう無いと確信しながら立ち上がる。そして、希望か道標の様に輝く光源に向かって進んで行くのであった。
※ ※
エッセキュヴァイスは、運動場の中心付近に掘った横長の穴の長辺の隅に立ち掘り返した土を戻して居る。ユルヅがセリシアを弔ったのに習い、先ずは運動場に存在していた犠牲者を埋葬していたのだ。
ユルヅはと言うと、放置されたテントの中に有ったシートを掘られた穴の傍に敷いてその上に寝かされている。此れは、エッセキュヴァイスが感知出来ない相手への一応の対策だ。生物には見えず現在のエッセキュヴァイスのレーダーやセンサーでも検知出来ない相手が存在するなら、強さによらず厄介である。時間は掛かるが、今からでも管理システムに対策アップデートを要求しておく必要があった。
弔う者の残りは、ボスと仲間の男性傭兵二人にクソガキである。此の四人は、運動場から離れた所に居るので此処から離れなければならなかった。彼等を回収する場合、見えない相手対策としてユルヅを連れて行くのが最適である。だが、エッセキュヴァイス故適切ではないのだ。其れ故、ユルヅを抱き抱えたまま行く事は出来ない。なら、起きた状態なら良いのかと言うとそうでもなかった。ユルヅは、セリシアを弔っていた最中に異常をきたしている。其れ故、亡骸を見て引き金に成るなら連れて行くのは止めた方が最適なのだ。
今ユルヅは眠っているし、バイタルにも目立った異変は見受けられない。四人の亡骸が存在している位置も把握している上もう負担を配慮する必要は無いので、比較的短時間で往復が可能だ。すると、エッセキュヴァイスは穴の底から浮かび上がる。そして、風切り音を鳴らしながら運動場から飛び立ち市街地の中に飛び込んで行った。
暫くすると、右肩にクソガキの亡骸を担ぎながら運動場の上空に迫る。そして、穴の底に降り立つと右肩に担いでいる亡骸に両手を添えて肩から離すと両腕で抱き抱えると片膝を底に着けた体勢でゆっくりと戻し土の脇に降ろすと、立ち上がり穴の脇に置かれた盛り土の一部を穴の中に掻き寄せて亡骸を埋めて行った。
エッセキュヴァイスは、完全に亡骸を埋め終わるとそのまま傍で眠るユルヅの様子を伺う。ユルヅには、今の所目立った異変は見受けられなかった。このまま順調に行けば、残り三人の亡骸も回収出来る筈である。レーダーとセンサーは常にユルヅを捉えており、異変が見受けられれば何時でも戻って来る事は可能だ。ボスと傭兵二人を回収するのも、今の内かもしれない。エッセキュヴァイスは、再び上空へ舞い上がり先程とは別方向の市街地へ飛び込んで行った。
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