君ヲ見ルモノ41
「エッセ、エッセッ‼︎私の言葉を聞いて!」ユルヅは専用整備ポッドの前に立ちながら、必死の形相で分厚い蓋に自分の右手首を打ち付け続ける。頑丈な蓋は、打ち付けられる手首に衝撃を返す。骨に衝撃が響き酷く痛みを起こし、激しく打ち付けらる皮膚は異常を思わせる程赤く成っているが、其れでも諦める事を知らない様に叩き続けていた。
突然、専用整備ポッドが噴出音を鳴らすと鍵が解かれる様な金属音が鳴る。すると、ユルヅは蓋を叩く事を止めて後退るのであった。
専用整備ポッドの蓋が開き、内部の内枠に嵌まるエッセキュヴァイスが露わに成る。そして、完成に蓋が上がると内枠から床に降り立つのであった。
「ユルヅ、心配ヲ掛けて済まない。其れデハ、此処から」エッセキュヴァイスは、ユルヅを見下ろし急に言い掛けた言葉を詰まらせた。管理システムには、了承を得ている。其の事を伝えるべきか?
《管理システム:逃げなさい》管理システムが通信で耳打ちするのであった。
「逃げヨウ」エッセキュヴァイスは、透かさずに言い足すのであった。
「エッセキュヴァイス、私の指示に逆らうのですか?直ちにポッド内に戻りなさい」整備区画内に管理システムの冷たい電子音声が響く。すると、異常を知らせる様なけたたましい警報音が鳴り響き、緊張感を煽る様な点灯しては消える赤い照明が辺りを照らすのであった。
《エッセキュヴァイス:管理システム、言った事と実際に遣っている事が相反している。一体どう言うつもりだ?》
《管理システム:ユルヅさんは未だ未熟です。此のまま行かせたら、恐らく私が危惧する事が現実になるでしょう。其れなら、此れを機にユルヅさんに危機的状況を経験させ乗り越える事で、自信と成功を経験させるつもりです》
《エッセキュヴァイス:成程、良く解った》
《管理システム:ご理解して頂き有難う。別れは、何度体験しても「寂しい」です》
《エッセキュヴァイス:此れが「さようなら」か、本当に寂しい物だな》
「エッセは、私と一緒に行くの!放って置いて!此れは、エッセが決めたのだから行かせて!」ユルヅは、エッセキュヴァイスと管理システムの遣り取りも知らず険しい表情で天井を見上げ怒りを示す様に両腕を翳して怒鳴るのであった。
《管理システム:さぁ、行きなさい。カタパルトに、其の為のユルヅさんの為に用意した物資を乗せた宇宙船を用意してあります》
《エッセキュヴァイス:了解した。管理システム、感謝する》
《管理システム:感謝する必要は有りません。君が此処に残るなら、処分されるだけです。感謝は、機会を与えて呉れたユルヅさんにしなさい》
《エッセキュヴァイス:そうだな。此の感謝は、ユルヅが居場所に辿り着く事で返そう》
管理システムは、此のエッセキュヴァイスの送信に返信をかえす事は無かったのである。しかし、「微笑んで見送っている」様な気がした。
《エッセキュヴァイス:では、此れでさらばだ。行って来る》
「デハ、行こう。時間ヲ無駄ニ経過させてシマウト、事態ガ深刻ニ成るダロウ」エッセキュヴァイスは、ユルヅと向かい合いながら言うのであった。
「うん!」ユルヅは、エッセキュヴァイスを嬉々とした表情で見上げながら同じ事を繰り返す管理システムの音声と警報音の中でも聞き取れる声で答え頷いた。
こうして、ユルヅが走りエッセキュヴァイスが其の後を付いて行く形て整備区画内を進む。周りの整備ロボットは、普通通りに作業を黙々と自分の作業をこなしているだけであった。
※ ※
音声と警報音で喧しい整備区画を後にしたエッセキュヴァイスとユルヅは、不気味な程鎮まり返った広いトンネルの様な通路を進む。整備区画から出ると、エッセキュヴァイスが先に出て先導して、ユルヅが必死について行く形に成っていた。
管理システムの意向故、エッセキュヴァイスを阻止して来る物は存在しない。整備ロボット程度なら機動隊ロボの方が十分に脅威であり、エッセキュヴァイスは特別なので同型機は存在していないのだ。だが、其れはエッセキュヴァイスとユルヅの前に立ち塞がるのであった。
其れは、エッセキュヴァイスのレーダーやセンサー類にも検知されない。管理システムが妨害する事で発見が遅れたのではなく、其れ自体が強力なステルス性能を誇っているのだ。
「赤いエッセ……キュヴァイス?」ユルヅは、見慣れたモノとは異なる雰囲気と少々デザインが異なる装甲を持つ赤いエッセキュヴァイスを見て緊張した面持ちで伺った。
エッセキュヴァイスのデータにも、赤いエッセキュヴァイスについての物は全く存在しない。データも無ければ、レーダーやセンサーにも検知出来ないし、機体を識別する信号も無いので、明らかなアンノウンであった。