君ヲ見ルモノ23


 学者の部屋を確認し終えると、エッセキュヴァイスとユルヅは放置したままであった学者の亡骸の元に戻るのであった。

 現在、エッセキュヴァイス単独で学者の亡骸を弔う為の穴を掘っている最中である。ユルヅと学者は面識が全く無いが、学者は生存者を集める計画の主導者的立場だった分其の存在を失った事は、ユルヅに多少の悪影響を与える可能性は否定出来ないので少々離れた上に作業風景が見えない所で待っ貰っていた。

 初めて出会った男性と学者には共通点が存在している。其れは、エッセキュヴァイスのレーダーやセンサー類では検知されない悪魔と合流予定である存在しない生存者達だ。
 男性は悪魔に襲われたと言い残し、学者はノートの内容からして空から訪れるとされる生存者を出迎えるつもりで屋上に向かったと推測して良いだろう。此の二つの正体は何なのだろうか?管理システムは、未知の脅威は存在するとよく言っている。エッセキュヴァイスも、今迄沢山の惑星に攻めて込んだが、此の様な事は初めてだ。

 片膝を穴の底に付け身を屈めるエッセキュヴァイスは、両手で穴の底から土を掬い上げると立ち上がる。そして、傍の盛り土の頂上に向かって其の土を放り投げた。
 穴がある程度の深さと広さに至ったので、エッセキュヴァイスは穴の縁に右足を掛け両手を地面に着けて上半身を傾ける。左足を穴が引き出し、其の膝を上半身の下に潜り込ませると立ち上がった。
 エッセキュヴァイスは、次に穴の側で仰向けに寝かされている学者の傍に向かい両膝を着けると学者を抱き抱えて持ち上げると、掘り終えた穴の底に片足を着けもう片方の足の膝を地表に付ける。そして、上半身を屈めて抱き抱えていた学者を穴の底に降ろすのであった。
 エッセキュヴァイスは、学者を穴の底に置くと屈めた上半身を少し起こし両手を地面に着けて重心を支える。其の体勢で穴から片足を引き抜くと、腰の下に潜り込ませた。そして、次は穴の側に盛られた土に手を掛けると力任せに手で穴に戻して行く。こうして、学者は短時間で土の中に埋葬されるのであった。
 すると、ユルヅが遣って来る。其の手は、封が開けられて熱湯が注がれているカップ麺を持っていた。エッセキュヴァイスが穴を掘っている最中、言い付けを破り離れている時が有ったのである。どうやら、理由はカップ麺の様だ。

「ユルヅ、空腹ノ様だな。確かニ、野外デ食べる物ハ普通トハ味が違う様に感じるトサレテイル」エッセキュヴァイスは、熱センサーによりカップ麺だと判断すると、そう言うのであった。
「ううん、学者さんに供えるお花が見つからなかったから、結局、カップ麺にしたの」ユルヅは、そう言いながら戻し土の前に来ると、しゃがんで持っているカップ麺を戻し土の上に置くのであった。
「ソウダッタノカ、スッカリ勘違いシテイタ。済まない」エッセキュヴァイスは、気恥ずかしい様子で謝るのであった。
「ううん、私も其の前に序でに食べて来ちゃった」ユルヅは、そのままの体勢で答えるのであった。
「ソウカ」エッセキュヴァイスは、其の返答に対しては淡々とした音声で答えるのであった。「ユルヅ、今日ハ此の施設で休もう。今後ノ事ハ、明日カラゆっくり考えヨウ」と、付け加えた。

     ※             ※

 此の夜、ユルヅは大学内の守衛待機室に有るベッドの上で眠っている。此処は、出入り口の扉に鍵がかけらていた分、とても良い状態を保っていた。

 ユルヅは、目を覚ますと上半身を起こし腰を回し、足をベッドから降ろし立ち上がる。そして、部屋の出入り口に向かって行くのであった。

 廊下側の出入り口の横には、休眠状態のエッセキュヴァイスが佇んでいる。ユルヅが、出入り口から出て来ると、エッセキュヴァイスの関節が小さな軋み音を鳴らした。
「エッセ、トイレに行くだけだから休んでいて」ユルヅがそう言いと、エッセキュヴァイスの関節は軋む音を止めるのであった。

 トイレを済ませたユルヅは、出入り口から出て来る。本来なら、直ぐに守衛待機室に戻るつもりだたが何か考え込む様にその場に立ち止まるのであった。そして、暫くして側の階段を上へ登り始めるのであった。

 ユルヅは、扉が外された屋上出入り口から出て施設の屋上に訪れる。屋上に吹き抜ける夜風に髪を棚引かせ屋上の縁に近付くのであった。
 夜空に浮かぶ月は、文明の営みを失った地上を白く照らして居る。屋上の縁から先は施設自体が月明かりを遮っている分地表が切り取られた空間の様な圧迫感を放ち、其の向こうに有る廃墟群は月明かりに照らされて退廃かつ哀愁感を醸し出していた。
 以前ユルヅは、此の都市に家族旅行に来た事が有る。当時の此の都市はとても賑やかで明るく遊園地で遊んで少々高いホテルで一夜を過ごしたりと楽しい思い出が有るのに、今の都市は滅び静寂に包まれていた。其の光景を見ていると、とても胸が締め付けられ苦しく成る。呼吸を阻害する物は無いのに息苦しく、額に油汗が滲んで来そうだ。

「ユルヅ、恐る事ハ無いし君二害ヲ与えるモノハ存在シナイ。恐れ慄かず落ち着いて深呼吸シテ私ノ方に振り向くノダ」不意にエッセキュヴァイスの声がそう言った。
 ユルヅは、エッセキュヴァイスの声に従いその場で深呼吸する。すると、不思議と心が落ち着いたのである。そして、声がした方に振り向くと屋上出入り口から出て来ているエッセキュヴァイスの姿を確認した。
「エッセ?何故此処に居るの?」落ち着きを取り戻したユルヅは、エッセキュヴァイスに視線を向けて尋ねた。
「ユルヅガ突然方向ヲ変えて上ヘ向かい始めたノデ、マサカト思い追い駆けてキタ」エッセキュヴァイスは、そう言いながらユルヅの前に向かって来る。「シカシ、急いで向かったガ大した事ハ無く良かった」と、胸を撫で下ろした様な雰囲気で言った。「ソシテ、専用レーダーガ飛来スル物体ヲ確認シタ。ソノ物体ハ、モウ時期此処カラデモ人の目デ目視出来る物ダ」と、付け加えられた。
「何が飛んでくるの?」ユルヅは、エッセキュヴァイスに尋ねる。「肯定スル。其れハ、宇宙空間カラノ飛翔体デアル。私ハ、其れノ確認モスル予定デアル」エッセキュヴァイスは、こう答えるのであった。
「私も、一緒に見て良い?」ユルヅが、普通にエッセキュヴァイスに尋ねた。
「問題無い」エッセキュヴァイスは、不都合も無さそうな雰囲気で応えるのであった。「シカシ、場合ニヨッテハ其の物体ヲ破壊スル必要ガ有る。その場合ハ、速やかニ避難してモラウ」と、付け加えるのであった。

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