君ヲ見ルモノ16


 今日は家族と皆で出掛ける。今日は私は学校が休みだし、お父さんは平日だけど会社を休んだ。お母さんは、どうだったけ?弟お姉ちゃんも休みだけど、私に兄や妹っていたっけ?其れに、自分は今大事な事を忘れている様な気がする。だが、其れが一体なんだったのかを思い出せないでいた。

「さぁ、行くぞ」靴箱や傘立てが置かれた玄関の横滑り扉の前に立つお父さんが私に手を差し伸べる。「早く行きましょう。絶対楽しい日になるわ」お父さんの横に居るお母さんがそう言った。

 ユルヅは、思い出そうとその場に立ち止まろうとするが、其の足は止まる事無く先に進み続ける。否、思い出す必要も無ければ、元々そんな物なんて存在していなかったのかもしれなかった。
 考える事を止めた私は、差し伸べられたお父さんの手を掴む。すると、お父さんの手は優しく私の手を掴み返して呉れた。

    ※               ※

 エッセキュヴァイスは、出来だけ最適にして最大速度で飛行しながら検知した生命反応が居る場所に向かう。機動隊ロボとの交戦と途中で倒れていた有機物の確認に時間を使ってしまっていた。

 エッセキュヴァイスは、規則正しく並ぶ建造物の屋根の上を飛び抜ける。そして、通り抜けた後から吹き抜ける後流が、建造物の屋上に積もった塵を舞い上げるのであった。

 現在生命反応は、横に移動している。以前見つけた男性は、螺旋状に上がって行き横に移動した後で急に降下した。其の状況と余りにも類似しており、早急の対策を求められる。此れは、丸で同一の存在が意思を持って相手を誘導か追い立てている様であった。

     ※              ※

 実際のユルヅは、現在風が吹き荒れる高層建築物の屋上に居る。
「そうだね、お母さん」虚な表情で伸ばした右腕の手を肩の高さ迄掲げながら目隠しされ何かに誘導される様な覚束ない足取りで進みながらか細い声で呟くのであった。

 ユルヅが何かに引かれる様に向かっている先は、屋上の縁である。此処の屋上は、人が侵入しない事を前提に作られたかの様に縁を隔てるフェンスが設置されておらず、此のまま行けば確実に下へ落ちて行くのだ。到頭、ユルヅの片足が縁から出る。そして、身体も縁の外に傾くと頭から此の建造物の前に敷かれた歩道へと四肢を棚引かせ真っ逆様に落下した。

 エッセキュヴァイスは、高速以上の速度で飛行しながら向かう。しかし、間に合わずその生命反応の落下を空中で検知するのであった。

どう助けるべきか?エッセキュヴァイスには三通りのパターンを0.01秒以内で考案した。
 第一案は、更に加速して落下する生命反応を救い上げる。しかし、捕まえる際に生命反応の身体を壊す可能性が高く、掬い上げる際高確率で身体を壊す程の負荷が生じる。
 第二案は、落下する生命反応を空中で抱き抱え自分を盾にして地面の衝突から防御する。エッセキュヴァイスの構造なら衝突による衝撃を確実に耐えられるが、其の衝撃はエッセキュヴァイスを伝い生身の生命反応へと届く。
 では、第三案はと言うと機械的にこなしたとしても誤りが発生する可能性が有る。何よりエッセキュヴァイスの構造本位で考案されていた。
 エッセキュヴァイスは、右手を差し伸べる様に突き出しながら更に加速してユルヅの後に付く。そして、透かさず右手からエネルギーの帯を迸らせた。
 エネルギーの帯が向かう先は、ユルヅではなく向こうの歩道で有る。稲妻の如く駆け抜けるエネルギーの帯は、ユルヅを追い抜き歩道上で破裂音に衝撃波と共に閃光が迸るのであった。
 衝撃波の煽りを受けたユルヅの落下速度が幾分落ちる。エッセキュヴァイスは、差し出した手でユルヅの手を掴むと引き寄せ自分の機体で地表への盾に成る様にユルヅの身体を包み込む様に抱き込んだ。すると、エッセキュヴァイスの周りに半透明の膜が発生する。此れは、エッセキュヴァイスに搭載されてるバリア発生装置によるバリアだ。

 バリアで地表との衝突による衝撃を防ぐのではない。バリア自体も完璧ではなく、受け止めた衝撃はユルヅに伝わってしまうのだ。
 バリアを張った理由、其れは迸るエネルギーの奔流を防いで遣り過ごす事と、バリアを其の奔流に煽らせる事で落下速度をかなり遅らせる為だ。
 第三案が第一案と第二案の異なる点は、生身の者に対して掛かる負担が圧倒的に少ない点である。しかし、本来の役目と異なるエッセキュヴァイスには繊細以上の力加減を求める物であった。

 下から上に流れるエネルギーの奔流をバリアで凌いだエッセキュヴァイスは、空中で静止する。バリアの表面と露出した土との間は、一センチにも満たなかった。

 バリアを解除したエッセキュヴァイスは、眠ったままのユルヅを抱き抱えたまま腰から着地する。そして仰向けで生命反応を抱き抱えたまま、其れを改めてスキャンして確認してみた。エッセキュヴァイスに抱き抱えられて眠る生命反応は、ユルヅで間違い無い。何とかユルヅだけでも助けきる事が出来たのだ。
 しかし、失われた者は余りにも多過ぎた。

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