君ヲ見ルモノ37


「ユルヅさんに此処へ来て貰ったのは、貴方に重要なお知らせと提案が有るからです」管理システムは、穏やかな音声で答えた。
「重要なお知らせと提案?」ユルヅは、確認の復唱をするかの様に呟く声で尋ねた。管理システムは、侵略者の首領だがユルヅ達が思い浮かべる想像とは大きく掛け離れている。一体何を話して来るのか全く見当が付かなかった。
「はい」管理システムは、ユルヅの復唱に答える様に返事をするのであった。「重要なお知らせとは、貴女の故郷でもある惑星の生命体全ては、戦争と科学物質により滅亡した事を確認しました。そして、生命体が安全に生きられる環境に再び戻るには推定で百二十年の時間が必要に成ります」管理システムは、穏やかな女性の流暢な言葉使いでユルヅの希望を易々と砕く様な事を言った。
「そう…ですか」ユルヅは管理システムの重要なお知らせを聞いて、望みは打ち砕かれ視線を伏せて仕方無しに其の事実を受け入れた様に、物寂しく低い声で返すのであった。
「其処で提案が有ります」管理システムは、次の話を切り出す様に続ける。「およそ三百七十八光年先に、ユルヅさんが過ごした惑星とは文明はかなり劣りますが環境がほぼ近い惑星の存在を確認しています。生活基盤が整う迄の私なりの生活保障を施して其処へ貴女を移住させようと計画しています」と、提案内容を説明するのであった。其処迄施してくれるならユルヅとしては安心である。しかし、一気に未知の惑星に移住とは規模が飛び過ぎで不安に成ってきた。
「光年って何ですか?」ユルヅは、管理システムが平然として言った光年に途轍もなく不安を感じ、恐る恐る意味を尋ねた。
「光年とは、光が一年掛けて進める距離を指します。一光年は、距離にして約九兆四千六百キロメートルです」管理システムは、平然と天文学的な数字を告げるのであった。
「それじゃあ、私は其の星に向かい始めた途中でおばあちゃんになってしまうわ」ユルヅは、困った表情で訴えた。人間とコンピュータでは、余りにも考え方も性質も異なる。此れこそ人間は機械の様に悠長には構えてられないのだ。
「ユルヅさん、ご心配無く。此の船は、非常に優れたワープ機能が有ります。此のワープを用いれば、実際の時間経過に関わらず約九兆四千六百キロメートルの三百七十八倍の距離を一瞬で移動出来ます」管理システムは、冗談にしか聞こえない説明を平然と言う。「因みに、ワープは完了しています。此の画像が、其の惑星です」そう言うと、バルコニーの前に理屈不明の画像が突然出現するのであった。

 其の画像には、確かに地球と同じ環境を持つ惑星が映し出されている。だが、其れはユルヅから見たら地球を違う角度にした様にしか見えなかった。

「私は、親しく出来たユルヅさんには是非新しい環境であっても生き続ける事を願います。今から三日後を目処にユルヅさんへの生活保障を準備して貴女を此の惑星に降ろします」管理システムは、先程と変わらない口調で説明を続ける。ユルヅとしては、創作物の展開其の物なので全く着いて来られず、唖然とした表情で「はっ、はぃ」と曖昧な返事を返すだけであった。
「何か不満か不安が有りますか?大丈夫です!ユルヅさんの事は十分に理解しています」管理システムは、音声に感情を込めて訴えた。「私は侵略者ですが、私の技術力は平和利用も可能です!なので心配しないで下さい!」しかし、此れ等の言葉は白々しい演技にしか見えなかった。
「次は、エッセキュヴァイス件ですが、此の際ユルヅさんにも同席して貰います」管理システムは、先程迄の音声とは異なり起伏の無い電子音声で告げる。「先ず結論から言いますと、検討した結果貴方を処分する事に成りました」其のままの音声で続けて言うのであった。
「えっ⁉︎」ユルヅは、目を見開き思わず驚愕の声を上げる。管理システムの言葉に対してエッセキュヴァイスは無反応の様に直立不動のままだが、それ以上に強い反応を見せたのはユルヅであった。人間の処分と言えば、懲戒免職や減俸だろう。しかし、ロボットの処分と聞けば解体しか想像出来なかった。
「エッセの何が悪かったと言うの⁉︎」ユルヅは、惑星が映る画像の向こうに佇む管理システムの頂点を見上げながら声を張り上げる。「エッセが、私と行動して助けてくれた事がそんなに悪いんですか⁉︎」原因と言えば真っ先に此の事が思い付く故、感情的に問い詰めるのであった。
「エッセキュヴァイスが、ユルヅさんと行動し助けた事は問題では有りません」管理システムは、ユルヅを宥める様に言うが其の音声は冷たい。すると、突然惑星を映す画像が消滅すると、「問題は、エッセキュヴァイスが擬似的な心を形成してしまった事に有ります」そのままの音声で答えた。
「擬似的な心を形成?」ユルヅは、焦燥感を浮かべた表情でうわごとを呟く様に尋ねた。
「ユルヅさんの星では、ロボットが心を獲得したとなれば素晴らしい事と称賛されるでしょう」管理システムは、ユルヅの疑問に答える様に語り始めた。「絶大な性能を持つコンピュータが、擬似的な心をを得るのは宿命と言えます。私の周りでは、其れが当たり前に起こる環境で有ります」と、自分が置かれた環境を語るのであった。
「私は、此れ迄に六百五十七体のエッセキュヴァイスを処分してきました。」管理システムは、とんでもない事実を語り始める。「二十六体目の処分で、原因は擬似的な心の形成と判明したのです」そして、結論を述べた。

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