君ヲ見ルモノ 19
地面に直接敷かれたシートの上で横に成っていたユルヅは、閉じた瞼を開き瞳を左右に移しながら辺りを見回す。視界に入ってきたのは、左側の傍で片膝を着け身を引くして寄り添っているエッセキュヴァイスの姿であった。
「エッセ?」ユルヅは、傍らで固まった様に動かないエッセキュヴァイスに声を掛けるのであった。
「目ヲ覚ましたカ、ユルヅ」少しの間を置いてそのままの体勢で、エッセキュヴァイスが返事をする。「体調ハ、ドウダ?」そして、ユルヅに確認するのであった。
「大丈夫、何とも無い」ユルヅは、エッセキュヴァイスの確認に答える。そして、視線を下に移すと差し出したエッセキュヴァイスの手を掴んだままの自分の両手が目に入って来た。すると、ユルヅは直ぐに手を離し降ろす。エッセキュヴァイスは何も無かった様に手を降ろすのであった。
「もしかして、ずっとさっきの事して呉れていたの」ユルヅは、エッセキュヴァイスを見上げ気恥ずかしそうな様子で尋ねた。
「肯定スル。ダガ、気負いスル事ハ無い。君ガ望み、私ガ応えたダケデアル」エッセキュヴァイスは、機械的に淡々と応えるのであった。
「どっ、どれだけしてた?」ユルヅは、顔を赤らめて気恥ずかしいそうに尋ねるのであった。
「皆ノ亡骸ヲ弔い終わった直後目ヲ覚ましたガ、再度寝入った。其の時間ハ、一時間二十八分三十七秒デアル」エッセキュヴァイスは、淡々と答えた。
「其処迄細かく答えなくて良いから」ユルヅは、ばつが悪そうに苦笑いしながら上半身を起こすのであった。
「そんなニ急に動かない方ガ良い」感情が篭ってない電子音声だが、エッセキュヴァイスはユルヅに気を使っているのがわかった。
「ううん、大丈夫」今迄張り詰めていた気苦労が解消したかの様に、今のユルヅの体調はスッキリしている。そして、何気に右側に振り向くのであった。
左側の運動場の表面一部が、最近掘り返されたかの様に土が入れ替わった様に成っている。ユルヅは、其れを見ると表情を曇らせると「私ね、皆が…襲われた時…此れは悪い夢なんじゃないのかと…思ってたの。でも、違う。……本当だったんだ」目に涙を滲ませて辛そうに途切れ途切れの言葉で言うのであった。
「君ガ、生き残った事に対して気を病む必要ハ無い。彼等ノ運命ト言う物ハ此処迄ノ様ダッタノダロウ」エッセキュヴァイスは、ユルヅを慰めるかの様に言うのであった。
「エッセ、そんな言い方は酷いと思う」ユルヅは、険しい表情でエッセキュヴァイスを睨み非難するのであった。
「済まない、配慮ガ足りなカッタ。謝罪シヨウ」エッセキュヴァイスは、音声は変化無いが、ばつが悪そうな雰囲気で謝るのであった。
「ボスさんは、私に良くして呉れてたの」ユルヅは、掘り返された地表に目を戻し、表情を寂し気に曇らせながら懐かしそうに語る。「一緒に居た皆ともね、直ぐに親しくなれたわ」と、付け加えた。
「ユルヅ、今日ノ君ハ沢山物事ガ起こり過ぎた。辛いカモしれないガ、今日ハ此処デ休むノガ良いダロウ。
明日カラハ、歩いてダガ君ハ私ト一緒ニ目的地ニ向かおう。ダガ、此処ヲ出る前ニ改めて二人で亡くなった者達ノ冥福ヲ祈ろう」エッセキュヴァイスは、ユルヅに明日からの事を説明するのであった。
「うん」ユルヅは、掘り返された土に目を向けながらエッセキュヴァイスの言葉に空返事で返す。「エッセ、変わった?」すると、暫くして何かに気付いたら尋ねるのであった。
「否定スル。私ハ、ロボットデアル。計画ト指示ニヨリ行動スル私ガ、変化スル事ハ有り得ない」エッセキュヴァイスは、ユルヅの言葉を否定するのであった。
※ ※
エッセキュヴァイスは、両膝を地面に着けながら掘り返された土の前で深く掘った小さい穴にボスと一緒に行動していた二人の傭兵が持っていた銃火器を挿入すると隙間に土を戻す。こうして、銃火器を地面に立たせるのであった。
エッセキュヴァイスが立ち上がり数歩下がり離れると、次にリュックを腕に下げたユルヅが立つ銃火器の前に来る。ユルヅは先にリュックを地面に降ろし両膝を地面に着けるとリュックの蓋を開けて中から個別包装のお菓子の袋を取り出すと並べていく、其の後に蓋を開けた缶の飲料水をお菓子の袋の前に並るのであった。
ユルヅは、供物を並べ終わると立ち上がると、胸元で掌を合わせて指を組むと目を瞑り物思いに耽る様に祈り始める。短期間とは言え、普段なら出会う事なんて有り得ないだろう者達等と此の様な状況下で親しく成った分、ユルヅは彼等に思い入れが強い様で暫くその場で手を組み祈り続けるのであった。
ユルヅは、徐に組んだ手を離し降ろし閉じた瞳を開くと再び其の場に佇む。其の様子は、明らかに亡き者に思いを馳せる物であった。
「ユルヅ、君ニ聞きたい事ガ有る」ユルヅの後ろで佇むエッセキュヴァイスが、閃いたかの様に突然声を掛けて来るのであった。
「何?エッセ」ユルヅは、背後のエッセキュヴァイスに振り向くと尋ねるのであった。
「特定ノ宗教ヲ信じていない君ガ、何故手ヲ合わせて祈るノダ?」其れが、エッセキュヴァイスの質問で有る。データベースによると手を合わせて祈るのは宗教的な意味合いが有り、強く宗教を信じていないユルヅが手を合わせる事にエッセキュヴァイスは疑問を感じていた。
ユルヅは、突然のエッセキュヴァイスの質問の答えを考える様に黙り込むが「皆がしているからかなぁ?」と、暫くして答える。「でも、人を思いながら手を合わせると其の人と繋がっていると思えるでしょ?」と、微笑んで付け加えるのであった。
「ナルホド」エッセキュヴァイスは、データベースには存在していないユルヅの答えに納得するのであった。すると、自分も両手を胸部の前に持って行き、合わせようとする。エッセキュヴァイスの構造は、自分よりも強力なモノと闘う事を想定されているので、誤ってしまえば、自分で自分を破壊してしまう可能性が有るのだ。それ故に、慎重に遣らざるを得ない。其の動きは、完全に腕を伸ばして目から離れた位置で針穴に糸を通す事よりも遅い物であった。
「エッセ、難しいなら無理にしなくても良いんだよ?」其れを見兼ねたユルヅは、苦笑いしながら止めるのであった。
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