君ヲ見ルモノ27


「ユルヅちゃん、私を置いていきなり現れたエッセさんと何処かに行っちゃうんだもん。私、凄く寂しかったよ?」そう言うセリシアの表情は、怒りや恨みよりも相手の弱みに付け込み精神的に痛ぶる事に快感を得ている様に嬉々としていた。
「ねぇ、ユルヅちゃん私達友達だよね?友達を置いて行くなんて酷くない?確かに、エッセさんはユルヅちゃんの生命の恩人だよね?もう少し早かったら、私も助かったのにね!そうだったら、三人の冒険は絶対楽しかったと思うよ‼︎」と、腰を地面に付けて頭を抱えながら苦しむユルヅに構わず続けるのであった。
 セリシアは、突然ユルヅを軽蔑する様な眼差しを向ける。「けど、実際はユルヅちゃんだけ生き残って狡くない?私も、ユルヅちゃんと生き残りたかったなぁ」と、年相応の高くて澄んだ声色ではなく、ドス黒い感情が入り混じった低い声色で言うのであった。

「ごめん…なざ…いぃ、いぎのごっ…でじまっで、ほんど…ゔにぃ、……ごめ…ん…なざいぃ」ユルヅは、髪を掻き乱しながら苦悶の表情で涙鼻水唾を垂れ流しながら言葉を詰まらせて何かに誤り続けていた。後悔と苦悩が胸の奥にのし掛かり、脳から流れる毒を止める為直ぐにでも頭を投げ捨てたい。抗い難い感覚から逃れる為に其の様な事を考えながら苦しみ踠くのであった。

「生き残った者ガ、今生きている事ヲ悔やみ謝る必要ハ無い」緑地公園に辿り着いたエッセキュヴァイスは、その場に蹲り苦しむユルヅに慰める様に言葉を掛けるのであった。そして、レーダーやセンサーで辺りを念入りに調べる。やはり、生命反応は一つだけで強化されたレーダーやセンサーは何も検知しふなければ光の屈折に異常を示す箇所は無く、蹲りながら苦しむユルヅが居るだけであった。

「ユルヅちゃん何故かなぁ?私、流れ星にきちんと三回お願い事したよ?ユルヅちゃんは、何もしてなかったよね?何で、ユルヅちゃんが生き残るんだろ?」セリシアは、ユルヅを責め立て続けるのであった。其の様子はエッセキュヴァイスが居るのに気を掛ける仕草は無い。否、エッセキュヴァイスには検知されない優位性を利用して敢えて無視している様でもあった。

「ご…めん、ごめ…ん…なざい。な…にっ…もっ、して…あいわたっじが、……いぎの…ごっで……ごめん…なざぃい」完全に我を失ってしまっているユルヅは、エッセキュヴァイスに気付く事は無く、目の前に存在するセリシアに謝り続けるのであった。

 エッセキュヴァイスの思考では、恐らくユルヅの近くに見えない脅威が存在しているのは確かである。斃すにしても撃退するにしても、先ずは攻撃対象の位置を割り出す必要が有るのだ。ユルヅの身体の向き・体勢・発する声の強弱を基準にレーダーやセンサーも活用し見えない脅威の位置を割り出しし始めるのであった。

「強者ト弱者ヲ決める値モ要素モ存在シナイ。犠牲ヲ積み重ね其れデモ生き残る事ハ、生き続ける者の責務デアル」此の言葉がユルヅに伝わっているか分からないがエッセキュヴァイスは、何時もより大きい音量で言う。こうする事で音響の些細な変化を探し、見えない相手へも揺さぶりを掛けて場の変化を引き出そうとするのだ。

「ユルヅちゃん、ごめん言い過ぎちゃった。今後は、私と一緒に旅をしようよ!エッセさんに事情を話せば許して呉れるよ!」セリシアは、先程迄の態度を一変させて明るく活発な雰囲気で言うとのであった。
 ユルヅは、流れ出る鼻水を鼻を鳴らしながら啜り上げる。そして、数回呼吸をして心を落ち着かせて顔を上げるのであった。だが、目の前に居る者は自分が知るセリシアではない。肌が切り取られて代わりに宇宙空間の様な黒い空間に入れ替わっており、その内側から軟体生物の触手の様なドス黒い細い物の束が飛び出し、ユルヅを呼び入れる様にうねっていた。
 ユルヅは、其れを何処かで見た様な気がする。だが、何処で見たのかは思い出せなかった。しかし、其れが自分にとってとても危険な存在だと言う事を解っている。其れを見ると顔面に満ちていた血が下に流れて落ちる感覚に襲われて「ひぃ⁈」目を見開き顔を引き攣らせながら短く悲鳴を上げるのであった。

 エッセキュヴァイスは、やっと見えない脅威が居るであろ位置を割り出す。しかし、強化更新されたレーダーやセンサーは、全く役に立ってなかった。
「ユルヅ、その場二俯せ二成り両腕デ頭部ヲ守るノダ。ソシテ、絶対二その場カラ動いてはイケナイ」右手を振りかぶり何時でも飛び出せる様に足を踏ん張るエッセキュヴァイスが、大きな音量でユルヅに促すのであった。

 エッセキュヴァイスの声に我に返ったユルヅは、言われた通りに上半身を地面に降ろし両腕で頭を庇う。すると、背負っていたリュックサックが前に崩れ落ち、ユルヅの頭に覆い被さるのであった。

「悪魔、此れ以上ユルヅヲ苦しめ邪魔ヲスルナ。其れデモ苦しめ続けるナラ、私ハ容赦ハシナイ」エッセキュヴァイスは、見えない脅威に警告を言うと地面にを蹴り見えない脅威が居るであろう位置に飛び掛かって行くのであった。

 ユルヅは、頭に伸し掛かったリュックサックを払い退けている。その最中、前のめりの体勢で拳を突き出し化け物に向かって行くエッセキュヴァイスの後ろ姿を目の当たりにした。

 エッセキュヴァイスの拳は、何かに触れる事が無く宙を切る。そして、地面に突き立てられた。すると、エッセキュヴァイスの全身をを飲み込む程の、激しい閃光と砂埃が迸る。同時に、地面に巨大な物が落下した様な轟音と熱を帯びた衝撃波が巻き起こるのであった。
 轟音・閃光・衝撃波が止むと、空から舞上げられた塵が落下してきて地面に打ち付けらる。片膝を地面に着けながら腰を降ろし地面に拳を突き付けているエッセキュヴァイスは、静かに立ち上がるのであった。
 見えない脅威に殴り付けたつもりの拳には何の手応えは無い。もしかすると、避けられた可能性が有った。攻撃を仕掛ける前にユルヅに防御姿勢を取る様に促し、見えない脅威に啖呵を切っている。其の時点で攻撃を仕掛けて来ると察されても仕方なかった。しかし、ユルヅは先程と比べると落ち着きを取り戻しては居る。その様子を鑑みて、見えない脅威を撃退は出来たと判断して良さそうだ。

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