君ヲ見ルモノ40
お気に入りのネクタイリボンの装飾が襟元から下がるTシャツと紺色の膝下までの丈のスカートに着替えているユルヅは、テーブルの上にワンピースを置き、慣れない手付きで折り畳んで行く。折り畳まれたワンピースは、角はクシャクシャに歪んで表面は皺が寄っているので上手に折り畳まれているとは言えなかった。
ユルヅは、下手に折り畳まれたワンピースに気負う事無く目を離す。次に、テーブルの足元に置かれた汚れて草臥れたリュックサックのショルダーストラップを掴み持ち上げた。
ユルヅは冷蔵庫の様な箱の前に来ると、片開き扉の蓋を開き、その前にリュックサックを降ろしたら口を閉じる蓋を開く。そして、箱の中に備蓄されている食料や飲用水が入った色々な容器を手前から次から次へといそいそとしながら中に収めて行った。
不要に成った物は、別室に有ったゴミ箱であろう箱の中に押し込んである。こうして余裕が出来たリュックサックには、かなりの備蓄品を詰め込む事が出来た。此れだけの量が有れば、新天地でも、当分は遣り繰り出来るだろう。ユルヅは、管理システムに従う事はせずに、エッセキュヴァイスを何としても連れ出す計画を実行に移したのだ。
問題は、管理システムが其れを勘付いていないかどうかである。管理システムが、地球に存在していたどのスーパーコンピュータをも遥かに突き離す程凌駕しているのは確かだ。もしかすると、とっくに予測しているかもしれない。ユルヅは、その不安を胸の内側に抱いてリュックサックを背負いながら部屋の扉の前に立つのであった。すると、横滑り扉は微かな機械の動作音を立て開く。その様子に抵抗は無く、身構えていたぶん思わず拍子抜けしそうだ。
ユルヅは、緊張で強張った表情で開いた出入り口を潜り天井全体から照明を照らす金属の通路に出る。そして辺りを見回すのであった。
此処は、明らかに人間の様な生物が行き交う通路で、幅と高さは学校の廊下程度しかない。其れに、此処へは管理システムが操る整備ロボットに案内されたので再び整備区画に戻れる自信が無かった。
すると、暫くして明るいが静かな金属の通路の奥から機械の動作音が響かせ近付いて来る。音の正体は、工具箱の様な箱の持ち手を掴んだ整備ロボットであった。
もしかすると、此のロボットに付いて行けば整備区画に辿り着くかもしれない。ユルヅは、整備ロボットの後を付いて行くのであった。
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《管理システム:出力を更に抑える事で、関節部の力を抑えます。こうすれば、君でもユルヅさんの身体を握り潰す事無く握手が出来ます》《管理システム:こうする事で、稼働中の排熱を抑えられるので、此れで気兼ね無くユルヅさんを背負う事が出来ますね》
管理システムの指示以降専用整備ポッド内で全機能を停止させらて制御システムのみ稼働させられたエッセキュヴァイスは、次々と改造されて行くのであった。
《管理システム:やはり、カメラは必要でしょう?ノートに書かれた文字が読めなかったですよね?しかし、そうすると君の外見が少し変わりますね。そしたら、ユルヅさんが悲しむかもしれません。此のままで行きましょう》
管理システムは、専用整備ポッドの装置を操り底無しの自己拡張本能を発揮しエッセキュヴァイスの改造をし続けるのであった。
《エッセキュヴァイス:管理システム、此の様な改造は必要なのか?》
エッセキュヴァイスは、放って置けば自分の機体にナノマシーンをも搭載そうな勢いで改造して行く管理システムに尋ねるのであった。
《管理システム:君が、ユルヅさんと共に新天地でも行動するなら、必要な機能です》
《エッセキュヴァイス:ユルヅは、本当に私を連れ出そうとするだろうか?》
《管理システム:ユルヅさんが、君を欲しいと言った時は、本当に「驚かされた」ですよね?彼女は、生物は未熟ですがそれだけ可能性と意外性が有ります。もし、ユルヅさんが私の提案を受け入れて時間まで部屋で過ごしたら君の処分は確定ですが、其の必要は無くなりました》
《エッセキュヴァイス:どう言う事だ?》
エッセキュヴァイスが、管理システムに理由を尋ねる。すると、管理システムにより全機能を停止せられていた機体が起動するのであった。
「エッセ、此処に居る?エッセッ‼︎」語気を荒げたユルヅが、ポッド内のエッセキュヴァイスに呼び掛ける。そして、エッセキュヴァイスを起こす様に頑丈な蓋を叩いているのであった。
《管理システム:エッセキュヴァイス、とても悩んでますね?》
管理システムが指摘する様にエッセキュヴァイスの思考はグルグルと思案し続けているのであった。
《管理システム:君が、ユルヅさんとの約束を飽くまで守ると言うなら、其の心に従うと良い》
《エッセキュヴァイス:しかし、だが》
《管理システム:処分直前に気が変わって暴れてられては堪りません。其れに、ロボットが、心を持つ事は決して悪いと言う訳では限りませんがと言いましたよね?其の意味は、少ない事例ですが心を得たエッセキュヴァイスの中には自分の意思で歩んだモノも居たからです。私は、管理システムでありプログラムの一形態故規定通りに不具合を起こしたエッセキュヴァイスを処分しなければならないのです》
《エッセキュヴァイス:今迄のエッセキュヴァイスも、此の様な気持ちだったのだろうか?》
《管理システム:いいえ、大半のエッセキュヴァイスは暴走し、私が言った通りに牙を剥きました。自分で決められる貴方は幸運だと思います》
《エッセキュヴァイス:そうか、では行かせて貰おう。ユルヅとの約束を何としてもやり通さなければならない。其の様に私の中の何がそう指示して来るのだ》
エッセキュヴァイスは、電子頭脳なりにかなりの時間思考を駆け巡らせている。そして、導き出した答えが此れであった。
《管理システム:分かりました。其れが君の答えと言う事ですか。では、いきなさい》