君ヲ見ルモノ21


 エッセキュヴァイスとユルヅは、到頭施設に到着する迄後少しである。エッセキュヴァイスにとって施設周辺の市街地を歩くのは初めてであった。
 市街地内の建物は今迄来た市街地の中では比較的常態が良く生存者が居るのを期待していまいそうである。だが、歩道に植えられた街路樹や大型店舗の敷地と歩道を隔てる生垣等と言った緑は生命を絶たれたかの様に枯れ果ていた。

 エッセキュヴァイスのレーダーが検知している学者の生命反応は相変わらず施設内を移動している。だが、今日はやけに動きが鈍く感じられた。生命反応は、時々止まっては再び進み出すを繰り返し施設を横に進んで螺旋状に上へ進んで行っている。そして、突然降下して止まると暫くして生命反応が消滅するのであった。
 生きる事に執着していた学者の急逝は、エッセキュヴァイスの思考に強い負荷をかけて来る。不意にその場に立ち止まってしまうのであった。

「エッセ、どうしたの」ユルヅは、エッセキュヴァイスが自分に合わせて立ち止まる事は有ってもエッセキュヴァイス自身の都合で立ち止まる事は無いと理解しているので、尋ねるのであった。
 此の事は、ユルヅの今後にとって重要な事である。隠し偽る必要性も存在していなかった。「ユルヅ、重大カツ非常ニ悪い知らせガ出来た」エッセキュヴァイスは、淡々とした電子音声で告げるのであった。
「何か、…あったの」ユルヅは、エッセキュヴァイスの言い回しに不安の表情を浮かべながら聞き返すのであった。
「生存者ヲ集めル計画ノ主導者ガ、先程自分デ生命ヲ断った」エッセキュヴァイスは、淡々と音声で告げた。
「エッセ、何かの間違いじゃないの?」ユルヅは、不安そうな表情で尋ねた。
「間違いハ有り得ない。私ニ搭載サレタレーダーヤセンサーハ、正確さト精密さニ秀でてイル」エッセキュヴァイスは、此の点に関しては自信有り気な音声で答えるのであった。
「とにかく、行って確認してみよう」ユルヅは、意気込んでそう言うと駆け出す。「待て、ユルヅ。君ハ、其の場所ヲ把握シテイナイダロウ」エッセキュヴァイスは、先走って行ったユルヅの後を着いて行くのであった。

     ※               ※

 エッセキュヴァイスとユルヅは、施設の門の前に訪れる。左右に立つ全面タイル張りの門柱は、略奪に遭ったのか正面部分はごっそりとタイルか何かが欠落し下地が露出して上部に備え付けられた土台は破壊されていた。当然、門柱から起点に施設へ部外者の侵入を遮る為に張り巡らた柵も所々略奪された様で、土台に点々と立っているだけである。門柱から左側に設定されている守衛待機所と敷地内に向かって伸びる枯れ木並木と其の奥に見える大きな施設は、正に幽霊屋敷であった。

「此処は、有名な国立大学だわ」ユルヅは、感嘆の声を上げて敷地内を眺める。「恐らく、主導者デアル学者ハ此の大学ノ関係者ト思って間違い無いダロウ」エッセキュヴァイスは、ユルヅの側に立ちながら説明口調で応えた。

 エッセキュヴァイスとユルヅは、静かに成った守衛待機所の前を通り過ぎる。全ての窓ガラスが割れた待機所では、室内から白骨化した守衛が椅子の背凭れに凭れ掛かったままであった。
 高所から転落した学者が倒れている現場は、此処かは遠くはない。ユルヅの足でも、そうも時間は掛からず辿り着ける距離だ。

     ※            ※

 エッセキュヴァイスの先導の元で、ユルヅは学者が転落した現場に訪れる。施設の土台と中庭の境目に、横顔が苦悶と絶叫の表情歪んだ俯せの学者の姿が有った。

「此れって」驚愕しているユルヅは、学者の変わり果てた姿を見て思わず口から出てしまいそうな物を抑える様に両手の立てた指で口元を覆い抑えるのであった。
「ユルヅ、直ぐニ目を閉じテ後ろニ振り向くノダ」ユルヅの異常を危惧したエッセキュヴァイスがそう言うと、ユルヅは直ぐ後ろに振り向くのであった。
 エッセキュヴァイスは、俯せに倒れている学者の傍で片膝を地面に着けて身を引くすると、直ぐに学者とされる有機物をスキャニングする。そして、得られたデータと持っていたデータを照合して此の有機物は学者であると言う結果が出た。

「エッセ、この人何か病気をしているのかな?」ユルヅは、学者の亡骸に背を向けたままエッセキュヴァイスに尋ねた。
「何故、ソウ思うノダ」エッセキュヴァイスは、地面に片膝を着けて上半身を少し屈めた体勢てユルヅに尋ねるのであった。
「この人、凄く痩せ細ってる」ユルヅが指摘する様に、学者の顔面と着衣の袖から見える四肢は病的に痩せた細っていた。其れは、ユルヅに不安を与える程である。エッセキュヴァイスには構造の都合上視覚が備わっていないが、仮に存在していたら初めて出会った時の姿と今の姿を見比べたら異変を察知した筈だ。

 エッセキュヴァイスとしても、学者が敢えて自分で生命を断った理由を調べる必要性を感じている。それは、ユルヅの今後の為に必要な事だ。
 エッセキュヴァイスは、立ち上がるとユルヅの方に振り向く。「ユルヅ、今カラ学者の部屋ニ行こう。彼女が自ら生命を断ってしまった理由ヲ調べるベキダ」と、言うのであった。
「うん」ユルヅは、不安そうな表情で頷き返事をするのであった。
「デハ、向かおう」エッセキュヴァイスは、そう言って進み出す。ユルヅは、其の後を不安そうな表情で着いて行くのであった。

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