君ヲ見ルモノ11

   
 エッセキュヴァイスは、両腕の肘を折り指を伸ばす。そして、肘を肩の高さ迄掲げた。此の星では、此の姿勢が降伏又は攻撃しない意識を示す物とされている。エッセキュヴァイスは指を立て肘を肩の高さ迄掲げたまま戦車に向かって進み出した。

 エッセキュヴァイスが戦車に近付いて行く毎に、戦車に備え付けられた砲塔と砲身の先は軋む音を立てて動く。今、戦車の主砲は自分を狙ってきていた。しかし、此れが何時はユルヅの方に向けられる可能性は無いとは言い切れない。もし、ユルヅが居る辺りに砲撃され様なら生身の彼女には一溜まりも無いのだ。だが、エッセキュヴァイスは両手を掲げている。もし、其の様な事態になればエネルギーの刃を発生させて戦車を叩き斬る事も可能だ。

 エッセキュヴァイスは、手を翳したまま戦車に歩み寄って行く。本来奪う立場の者が、乞う立場の者として相手に向かって行っているのだ。此の様な事は予め想定されていない。《制御システム:思考回路の負荷を確認しました。機能を最適化します》と、制御システムが先程から何度も通告してきていた。其れに構わず、自分の補助記憶装置から最適格の行動を引き出そうとして行く。すると、一つの画像が引き出された。それは、人間に近い姿を持つ原住民の子供達が酷く怯えた表情で白い布を括り付けたパイプを持った子を先頭にして近付いて来る物で、此れは以前とある惑星を侵略した時の画像の一つで有る。そして、侵略者はそんな子供達に情け容赦無く手を下した。もしかすると、自分がそうした様に全ての者は分かり合えない敵対存在のかもしれない。いや、どんな者であっても生存者ならば保護する必要が有り約束なのだ。

「私ハ、とある国デ造られたロボットデアル。現在、生存者ヲ保護する為ニ行動してイル。詳しい情報ハ提示出来ないガ信用して欲しい」戦車にある程度近づけたエッセキュヴァイスは、砲塔の上で破れた外套を纏い銃火器を身構えた厳つい男に訴えるのであった。
「ハァ?詳しい情報を提示出来ない奴を、しかも変なロボットを信用しろと言うのかよ?」厳つい男はそう言うと、改めて身構えて銃火器の先を向けるのであった。
「その人の、エッセの言っている事に嘘や偽りは無い!」先程から物陰を移動していたユルヅが顔を出し叫ぶ。そして、戦車の前に駆け寄り「だから、信じて‼︎」エッセキュヴァイスの横に立つと、厳つい男に向かって頭を下げるのであった。
「ガキに言われようが、信頼出来ない者は信用しないんだよ。傭兵は、そう遣って命を繋げて来たんだ」厳つい男は、頭を下げているユルヅに銃火器を向けて言った。
「貴様ノ相手ハ此の私ダ。ユルヅニ手を出すノハ許さない」エッセキュヴァイスは、厳つい男の気を引くかの様に険しい言葉で言うのであった。
「ハァ?何言ってるんだ?コイツ」厳つい男は、ユルヅに銃火器を向けながら険しい表情でエッセキュヴァイスを威圧して来るのであった。
「辞めないか⁉︎女子供に其処迄言わせるんだ。話し位なら聞いて遣ろうじゃないか?」戦車の中に居るボスが、声を張り上げて言うのであった。
「しかし、ボス」厳つい男は、足元の開け放たれたハッチの奥に目を向けて言葉を濁すのであった。「大の大人が、グチグチ言ってるんじゃ無いよ‼︎」すると、厳つい男の態度に苛立った声が怒鳴るのであった。

 すると、砲塔のハッチから女性が顔を出すと先ず周囲を見回す。そして、エッセキュヴァイスに振り向くと「ふぅん、少女を守るロボットなんて創作上の物と思っていたけど本当に存在するなんてね」と感心しながら言うのであった。
 エッセキュヴァイスの声紋鑑定を鑑みてハッチから顔を出した彼女がボスと呼ばれている者の様である。傭兵の男達を束ねるだけあってユルヅとは真逆で勇ましい風格を持つ女性であった。

「よし!皆、此処で休憩するよ!」ボスは、辺りを見回しそう言ってハッチから出ると戦車から飛び降りた。すると、先ずは傭兵達が出てきて辺りを警戒し始める。その後、次々とハッチから老若男女が出てくるのであった。

    ※                ※
    
エッセキュヴァイスは、ボスと向かい合っている。ボスは、容姿には気を掛けている様で真新しそうな外套は内側の草臥れた着衣を覆い隠す物であった。

彼女の後ろには、小型ロケットを備え付けた火器や地面に置いて狙いを定める大型ライフル等を手に持った傭兵達が辺りとエッセキュヴァイスを警戒してる。そして、戦車の周りには、数人の老若男女が各々で寛いでいた。どうやら、此の傭兵達も行く先々で生存者を救助してきたのかもしれない。もしかすると、彼等が学者が言っていた生存者達の可能性が有った。

「改めて、自己紹介ヲシヨウ。私ノ名ハエッセキュヴァイスデアル。とある国デ造られたロボットダ。今ハ、とある者ニ頼まれて生存者ノ救助スル為ニ行動シテイル。名ハ、好きニ呼ぶト良い」エッセキュヴァイスは、先ず自分を自己紹介する。「ソシテ、彼女ガユルヅデアル。救助ノ中出会った者デアル」そして、引き続きユルヅの紹介をするのであった。「よろしくお願いします」ユルヅは、そう言って頭を下げるのであった。
「私の本名は傭兵の職業柄秘密にしているの。だから、ボスと呼んで呉れて良いわ。よろしく、キュキュ、ユルヅ」ボスは、女性でも歴戦の傭兵の風格と言った雰囲気で自己紹介してきた。
「ふぅん、お前造られたの国を言えないのか?」一人の男性傭兵はロケットが付いた火器を手に持っているが身構える事はせず無防備な姿勢で尋ねてきた。「残念ナガラ、其の質問ニ答えラレル様に造られてハイナイ」エッセキュヴァイスは、男性傭兵の質問に即座に答えた。「いやぁ、どっかの国がさぁ完璧にレーダーやセンサーには引っ掛からないし人の目にも見えないロボットを造ったって言う噂をきいたんだよ」男性傭兵は、質問した理由を答えるのであった。「私ニ、其の様な機能ハ搭載されてイナイ」エッセキュヴァイスは、即座に答えるのであった。

 データベースから得た情報にも、男性傭兵が言った様な物は存在しない。おそらく、噂の領域の物だ。侵略者の兵器であるエッセキュヴァイスにもその様な機能は搭載はされていない。エッセキュヴァイスを造った技術であっても、男性が言う様な機能を搭載するのは難しいのだ。

「所デ、ボス達ハとある者ト合流する為ニ移動してイルノカ?」エッセキュヴァイスは、一応確認する為にボスに尋ねるのであった。
「違うわ。私達は気の向くままに移動しているの。そして、行く先々で生存者を救助しているわ」ボスは、大して警戒する事無く答えるのであった。
「其れナラ、紹介したい者ガ居る。彼女は生存者ヲ集めてイル。君達ヲ歓迎シテ呉れる筈ダ」エッセキュヴァイスは、学者の事を切り出した。

「おいおい、もしかしてお前を造った国の奴じゃないだろうなぁ?」男性傭兵が、訝し気な様子で尋ねて来た。
「心配シナクテ良い。全くノ無関係デアル。シカシ、変わり者ナノデ信用し辛いダロウ」エッセキュヴァイスは、他人から見て明らかに胡散臭い返答を返すのであった。

「キュキュ、非常に有意義な情報の提供をありがとう。当ても無く彷徨うより、目的地みたいなのが有れば張り合いが出て来るわ」ボスは、嬉々とした様子で応えた。「其れで、その変わり者は何処にいるのかしら?」興味深気に尋ねて来るのであった。「ねぇ、誰か⁉︎地図を持って来て頂戴‼︎」と、声を張り上げるのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?