君ヲ見ルモノ33


 リュックサックを背負ったユルヅは、廃墟の出入り口から出ると強張った背筋を伸ばす様に両手を振り被り背伸びをする。其の際快晴の青空を仰ぎ見るのであった。
「何、あれ?」ユルヅは、背伸びを止めて空に浮かぶ物を驚愕の表情で見上げるのであった。
「ユルヅ、意気込んで先走るのは危険デアル」エッセキュヴァイスは、先に出たユルヅを追って出て来る。そして、ユルヅが空を見上げいるので自分も見上げるのであった。
 空には、宙に浮く不純物により霞んでいるが横からの朝日に照らし出されて白く輝く船が浮いている。ユルヅでも明らかに地球の物でないと解る分、其の姿は異様な物であった。エッセキュヴァイスも、レーダーの有効範囲外故気付くのが遅れた。

《管理システム:エッセキュヴァイス、お久し振りです。只今到着致しました》エッセキュヴァイスへ、久し振りに管理システムから通信が入って来る。到頭、この星に侵略者の艦隊が到着したと言う事だ。

     ※             ※

 更に大きく成った巨大宇宙船から陽の光を浴びて瞬く小型船が湧いて出て来る。滑らかな表面の楕円形に飛翼が伸びる小型船は、空から降りて地上に浮くと胴体の下腹部が開きスロープを地面に着けると数台の重機が降りて来た。
 重機に関しては、長く使われているかの様に表面に小さな傷を付け、ブルドーザーやシャベル機と非常に馴染み深い物である。しかし、操縦席は存在せず地球の物よりも規則正しく速く移動するのであった。

「ユルヅ、念ノ為二私ノ傍カラ離れてハナラナイ。ダガ、私カラ離れなければ絶対二安全デアル」エッセキュヴァイスは、迫って来る重機の群れを前にしてユルヅを見下ろしながら言うのであった。「うん」ユルヅは、迫る重機に目を向けて不安そうな表情で返事した。
 自動車よりも速く流れて行く重機の中をエッセキュヴァイスは逆らう様に進んで行く。高速で移動する重機は、統制された動きで間隔を開けて奥へと流れて行った。それは、激流の中で頭を出す岩の様である。映画のワンシーンの様な光景が起こっており、ユルヅにとっては不思議で異様であった。

     ※            ※

 重機の群れを抜け出たエッセキュヴァイスとユルヅは、一緒にモーターの様に大人しいエンジン音を鳴らし、其れよりも耳障りな粉砕音を打ち鳴らしながら廃墟群で作業を開始した重機の様子を眺めている。エッセキュヴァイスには何時も見慣れた光景で機械故何も感じないが、この星の住民であるユルヅには此の光景はどの様に見えているかはエッセキュヴァイスには知る由は無かった。

「ユルヅ、辛くはナイカ」エッセキュヴァイスは、無心で其の光景を見入っているユルヅに声を掛けた。
「私は平気。エッセ、気を使って呉れてありがとう」ユルヅは、エッセキュヴァイスを見上げて答える。「何でだろう?不思議に何が終わった安心感が有るの」再び作業する重機に目を戻し言った。
「私ハ、此の光景ヲ何度モ見て来たノダガ今回ハCPUノ中ノ何かガ辛いト警告シテイルノダ」エッセキュヴァイスも作業する重機を眺めながら言うのであった。
「エッセは、辛いの?」ユルヅは、機械故表情が変わらないエッセキュヴァイスの顔を見上げ尋ねるた。
「ソヴ…ヅァ、ユツ…ヅヴェウヴオオロ……ゴァ」エッセキュヴァイスの音声が乱れている。無理に絞り出される音声は、異常をきたしていると物語っていた。到頭その場に片膝を着ける。そして、機能停止した工業用ロボットの様に沈黙すると項垂れて動く事おろか喋る事すらしなくなった。
「エッセ?」ユルヅは、項垂れるエッセキュヴァイスの顔を恐る恐る覗き込み様子を伺いながら声を掛けるのであった。
 エッセキュヴァイスは、項垂れて黙り込んだまま動く気配すら無い。すると、突然熱波が機体から放出され始めた。其の熱は、調理済みのオーブンの内側の熱よりも遥かに高く、ユルヅの露出した肌に突き刺さる。其れ故、ユルヅは思わず両腕で顔面を庇いながら後退るのであった。
 ユルヅは、エッセキュヴァイスとの熱波の影響が少ない所迄間合いを取り、顔面を庇う腕を降ろす。「エッセェ⁉︎」緊迫したら表情でエッセキュヴァイスに声を掛けるが黙ったままだ。
 ユルヅは、エッセキュヴァイスを冷やさないと壊れる可能性が有ると判断すると透かさずに背負ったリュックサックのショルダーストラップから左肩を引き抜きリュックサック本体を正面に回して曲げた右肘で肩から擦れ落ちるショルダーストラップを受け止める。そして、リュックサック本体を地面に降ろして蓋を開けると中を探り始めた。暫くリュックサックの中を弄り、取り出したのは飲み掛けのペットボトルの水で有る。物を冷やすには、とにかく先ずは熱を帯びた物に水を掛けるのが大概物を冷やす為の方法だと思っていた。
 ユルヅは、ペットボトルの蓋を摘み捻り取ると投げ捨てる。そして、右手にペットボトルを掴み左腕で顔面を庇いながらエッセキュヴァイスに近付いて行くのであった。

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