THE GREAT HUNTER  黒騎士編 復讐者の章1.災禍

黒騎士編 復讐者の章

 美しい話だ、騎士が悪しきモノから町を救うありきたりな美談。だが、その渦中にある者達にはそうは聞こえない。

 その町は、盗賊が支配していた。領主が盗賊とつながっているからだ。それ故にこの町の者達は、暗い面持ちが多い。

早朝のまだ暗い時間帯。その入り口に、一人の男が入っていった。その男は黒いマントを纏い、それに付いていたフードを深々と被っていた、そのマントの隙間から武具をのぞかせながら。しかし人々は、特段気にする事は無い。

だがしかし、町の中心に向かう馬車に乗った、幼子も交じった女性たちは、何かを求めるようにその男の方向を見つめていた。

1、災禍

「ちょっと、彼方達何なの⁉」

一日が始まったと告げるように、空が明るくなり始めたころ。まだ人が活発に動き出すには早すぎる時間帯なのか、私の声は良く響いた。

「綺麗な緑髪したお嬢ちゃんよ、ちょいと俺たちと遊んでくれねえか?」

 目の前の、下種な笑いを浮かべた三人の男。それはどう見たってまともな人間ではなかった。入っていきなりこんな人たちに絡まれるなんて…。

「遊ぶってどういうこと?」

私はあえて、首を傾けて知らないふりをした。

「どういうことかというとなぁ。ヒッヒッヒ、取り合えずついて来いよ。」

 気持ち悪い笑い声を上げながら男たちがこちらに迫って来る。その人たちから不快な悪意を感じた。だから。

「おい、待ちやがれ!」

逃げることにした、それしかできることがなかった。いつの間にかできていた人込みの中をすり抜け、荷馬車の間をくぐり、また、お店の前に並んでいる荷物を飛び越え逃げる。その時ばかりは、私の足に風が宿ったかと思った。途中、

「キャア!」

目の前を犬が飛び出していった。思わず足が止まる。すると、

「捕まえた!」

背後から手が迫り、右の袖を掴まれる。強張る体を無理やり動かして、掴んできな手に爪を立てて痛みに怯んだ所を逃げる。見えてきたのは酒場、最後の望みを託してそのドアを開けて飛び込んだ。

「お願い!誰か助けて!助けてよぅ。」

必死に声を絞り出したが、そこにいる人たちは全員目を逸らした。どうなっているのかわからない。町では普通に女の人が襲われていたし、殺戮が行われていたし、ここの兵士も盗賊達を恐れているようだったし。すると、暗い雰囲気を破る人達が出てくる。

「おいおいここにいたのか、もうにげられないぜ、カワイ子ちゃん。」

そうこうしているうちに、盗賊たちに見つかり、ヘラヘラと笑いながらドアを蹴り飛ばし、飲み屋に入ってきた。もうだめと思い目を閉じたその時、

「目障りだ、盗賊ども。犯るならよそでやれ。」

 その人は暗い鎧を着ていた。それを見た数人の盗賊達は一人で自分たちに歯向かう無謀さにおかしく思えたのか、彼を一通りあざ笑った。

「何だてめぇ。この馬鹿め、おい!聞いたか?こいつを殺すぞ‼」

 一番その人の近くにいた賊が、その人を突き飛ばす。そして数人で武器を引き抜き、その人を殺そうと刃が迫る。

「危ない!」

私は叫ぶ。標的が切り替わり、心に余裕ができたようだった。相手は一人、盗賊にはさも殺しやすい相手に見えただろう。だが、彼は担いでいた大剣を振る。

 その一振りは竜巻を連想させる。盗賊二人をゴスッという鈍器のような音を立てて、同時に切り殺した。その死体が宙に舞い、ピンク色の肉片と、赤い血をまき散らしながら転がった。

大剣を振った風圧でマントが揺らぎ、身に着けていた武具があらわになる。大量のナイフを右腰にしまい、左腰に片手で振れるほどの長剣を下げている。全身を覆う黒い甲冑。兜は、顔面だけ覆っておらず、しかし、目元は鍔の影に隠れて見えず、辛うじて見えた、口元は灰の様に白く表情は無だった。

「お前!俺たちに手を出してどうなるか分かってるんだろうなぁ!」

 物音を聞きつけて来たのか、盗賊の仲間が焦った表情でそう怒鳴って来る。

「俺をあざ笑い、馬鹿にし、突き飛ばしたな。」

それを聞き、睨み付ける冷酷な目を見た後。盗賊は逃げた。鼻水と涙を垂らしながらみっともなく、領主の館へ走っていった。

大剣をしまった彼は、酒場を立ち去ろうとした。けれど、私は急いでその人に話しかけた。

「助けてくれてありがとう暗い騎士さん。」

その言葉にその人淡々と答える。

「そうか、お前、もうここを離れると良い。じきに日が暮れる。」

その言葉を私は、理解できなかった。だから素直にこの町の出口へと歩いて行ったふりをする。

(この人について行けば面白そうだし、安全だろうし、ついて行こう!)

そして酒場を少し離れた後、彼を尾行することにした。しかしその思惑はすぐに断ち切られた。

「お前達は誰だ。」

 目の前で綺麗な鎧をした人たちは目の前の騎士さんを取り囲みだした。その中にさっき見た盗賊達と似たような身なりをした人たちもいる。その光景に気を取られていたんだろう、私は後ろにいた盗賊の仲間たちに捕まった。

「お前、あの男の仲間か?そうだろうとそうじゃなかろうと、領主様のところに連れてくぜ。おい!そいつは牢屋にぶち込んどけ‼」

 そして私は盗賊の人たちに荷物の様に運ばれた。

~黒騎士~

 流れ込む血の匂い、洞窟のような薄暗さ。今、盗賊三人を殺し、一人を脅したということで罪と言われ、大量の兵士がやって来た。さしもの俺もその人数を相手にするわけにはいかず、大量の地下牢に連れて来られ、鎖でつながれた。

「貴様はとんでもないことをしてくれたな。」

 目の前にいる良い身なりをした老人の、怯えた声が暗い地下に響き渡る。やはり盗賊はこの町と密接につながっていたらしい。

「貴様のせいでこの町が襲われることになるかもしれんのだぞ。」

 とひどく憔悴した様子で比較的上の立場らしい老人が護衛を連れて怒鳴って来る。

「そこに突っ立っている連中はただの糞袋だな。」

「何だと貴様!」

自分の仕事もできないただのカカシにそう言ってやれば、間髪入れずに怒りだし、武器をこちらに向けてくる。

「止めろ、生きて領主様に連れて行かねばならん。」

 と老人が手で制した。

「お前も知っているだろう、領主が人じゃないということを。」

 睨みながら淡々と、そう揺さぶりをかける。

「お前に何が分かる?流れ者の分際で。」

 否定していないということは肯定に近いということだ。うなだれる老人に向かってさらに告げる。

「分かるさ、領主が盗賊とつながっているってことも、人外の化け物だってことも、そして女どもを盗賊に、そして領主に捧げていることも。」

 老人が図星を突かれた様にビクッとなる。揺さぶりにまんまと引っかかったこいつに笑いがこみあげてくる。やはり町の入り口で見かけた馬車は奴の生贄を乗せていたのだ。

「何を笑っている…。だが、貴様のような人の力の結晶こそが化け物を殺すのであろうか。」

 そして俺の目を見る。

「頼む、あの化け物を殺してくれ。あの男に領主の座は渡すべきではなかった、儂はもともとこの町を収めておったのだが、人も永遠ではない。儂はこのように老いさらばえ、奴が領主になったのだ。最初のうちは良き領主であった。だが数年たった時、突如賊たちをかくまい始め、今の状況に町はこうなり下がってしまった。だから奴を殺してくれ。儂が選んでおいて虫が良すぎるのは分かっている。だが頼む…。」

 冷や汗を流し、青ざめた顔をしながら俺にそう提案する。

「ならば早く俺を開放すればどうだ?」

 老人のその言葉に警戒する。いくら態度に出ていようが、それが嘘ではないとは言い切れないからだ。

「ああ、だが今開放しては領主にばれてしまう。お前はおそらく処刑されるだろう。その時、処刑されたに見せかけて、お前を解放しよう。」

 その言葉を信じてみることにする。どの道ここを脱出し、ここの領主を殺すからだ。

「分かった。だがそのために腹が減った。さすがにこのままでは力が沸いて来ない。」

 老人はそれに軽く頷き、部下と共にその場を去った。牢に戻された後、約束通り大皿にはみ出さんとする肉と、コップ一杯の水が運ばれてきた。

~町の領主~

 豪華な部屋、窓を見れば日はまだ高い位置にある。いつも通り領主としての仕事をこなす前の優雅な食事を楽しんでいた。すると不意にドアが開け放たれ、私がその力で従わせている盗賊が飛び込むように入って来た。

「男に襲われた?」

 目の前の盗賊がそう言う。

「へい、真っ黒な見た目で身の丈ぐれぇのでけえ剣で仲間を真っ二つにしやがったんでさあ。」

 その言葉を聞き、私は疑問に思ったことを口にする。

「その男はもう捕らえたんだろうな?」

「はい、ここの元領主があなたにビビった様で、大量に兵士たちを連れてすっ飛んでいきましたぜ。」

 その言葉を聞き安心する。その男の話は常々聞いていた。我らが絶対神であるあのお方の攻撃を生き残り。刺客を倒し続け、我ら天使たちも嗅ぎまわっていると聞く。奴をここで始末しておかなければ…。

 そしてしばらく経った頃、部下たちが、ある少女を連れて来たと報告してきた。なんでも、その男が助けた少女だとか…。

~少女~

 ここの街の衛兵たちに私は捕らえられ、この町の一際大きな館に連れて来られた。

「なんでこんなところに連れて来たの?」

 そう聞いても、衛兵の人は何も答えない。しばらく引きずられながら館の中を、進んで行く。

 しばらく経って、異様な雰囲気を放つ部屋に連れて来られた。

「お前を助けた者はどこにいる。」

 冷血な雰囲気をした男が、静かに聞いてくる。

「知らないわ、きっと今頃あなたみたいな男を殺しに来てるんじゃない?」

「減らず口を叩きおって。」

不気味な笑みを浮かべながら。男がこちらに手招きしてくる。そばにいた衛兵が私を持ち上げて、その男に引き寄せる。その手のひらは氷のように冷たい。

「なかなかうまそうな娘だ。今ここで食ってやろうか。」

 その男が私をフォークで指し示す。その先端についている物をよく見ると、人の物と思われる耳だった。この男は人を食っている化け物だったのだ!その瞬間、顔の明暗が急に恐ろしくなり、顔の血の気が引いていく。

「わ、私を殺して食う…、そんな、誰か。」

 化け物の冷たさも相まってか震えが止まらない。頭の中に、自分の死に様が移る。けれど恐怖の中でも、

「ま、待て!」

 化け物も、いままで人を襲った経験からか、私が恐怖の中でも動くことが出来ると思っていなかったのだろう、思ったより簡単に手を振りほどけた。

「うかつだった。そいつを早く追いかけろ!」

 化け物の叫び声が聞こえる。そんなことは頭の中から切り捨て、とにかく屋敷の中を走り回った。すると、一つの部屋から小さな手が伸び、私をその部屋に引き込んだ。

「!!!」

 私はその衝撃で転げまわる。私の感じる驚天動地に流されてゆくしかならず、なにも叫ぶことが出来ない。

 ようやく止まり、顔を上げると、そこに居たのは女の子だった。

「シー、喋らないで。」

 この辺りでは珍しい黒い髪をした、赤い瞳。違う人種の血が混じっているようだ。

「何で助けてくれるの?」

 すると、彼女はやさしい声で答えた。

「彼方が殺されてしまうでしょ?だからかくまってあげる。」

 そうして私は悪魔の屋敷にいる少女にかくまわれることになった。しかし不思議と追手が来る事は無かった。

~元領主~

 儂は自分の家で安心に塗れていた。あの騎士からは、この町の領主…あの化け物と同じような気配がするのだ。だが、首尾よく成功するかは別問題である。未だ彼の命を握っているのはあの化け物なのだ。

 儂は部屋に着き、緊張に体を張り巡らしていた。すると不意にドアが開け放たれる。

「老公、買収した看守がみんな牢に捕らえられたようです。」

 その言葉に全身の血が凍り着くような思いに駆られた。おそらく儂の企みが領主にばれてしまったのだろう。

 不味い事になったかもしれない。そう思いながら領主の館へ急ぐことにした。

 その部屋の雰囲気は夜の寒さと言う一言に尽きた。

「愚かになったな、あのまま恐怖に駆られて隠居しておけばいいものを。」

 領主が不機嫌そうに眉間にしわを寄せている。そうだったのだ、この男は化け物だ。それ故に人を相手にするが如く知恵を張り巡らしても勝てぬのだ。

「まあいい、お前の希望が断ち切られることを眺めようではないか。」

 そして窓のカーテンが開け放たれる。そこにあったのは絞首台であり、多くの人が集まっている。

 連れて来られたのが灰の様な色の肌をした男。牢屋で頼みごとをしたあの騎士だ。

「みろ、お前の希望が崩れていく様を。」

 儂はその言葉を聞き、自分の無力さにうなだれるばかりだった。

 そしてあの男は縄に首をかけられ、吊るされた。

「ククク、終わったな。こいつをこの屋敷の監禁部屋に閉じ込めておけ。この町の牢屋では抜け出されるかもしれんからな。」

 そして儂は引きずられるようにして盗賊達に連れていかれた。おそらくこの後、地獄が舞っているのだろう。 

~少女~


夕暮れの日差しが窓から差し込む中。

「ちぇ、開かないや。」

 私が息をひそめ、助けてくれた女の子と静かにしていくうちに誰かが来て、ドアのカギをまた締めてしまった。

「あなた、名前はなんて言うの?」

助けてくれた女の子が聞いてくるので、その質問に答える。

「ユウカ、あなたは?」

 すると、女の子は元気に答えた。

「ネス!」

そこから私達は会話が弾んだ。

「ユウカ、貴方は外の世界を自由に歩けるのね、羨ましいわ。」

「あなたは違うの?」

「そう、私はこの鳥かごのような場所から出られないの、さっきだって部下の人たちが面倒くさがって、偶々扉が開いていて、あなたを助けてあげれたの。次勝手に出ることはできないかもしれない。ここが私の感じる世界の全てよ。」

 と言うネスの言葉に。

「ならその一回になるかもしれない偶然を、私を助けることに使ってくれたネスはやさしいね。」

 というと、恥ずかしそうにネスは顔を赤らめた。

「ありがとう、ユウカ。こうやって言ってくれるのはもう貴方だけかもしれない。だってこの狭い空間だけが、わたしの全てだから。ねえ、旅をするってどんな気持ち?広い世界を見ていくのって楽しいことなの?」

その問いに、私は少し考えてから言った。

「ウーン、難しいなー。楽しい事ももちろんなるけど、嫌なことや知りたくなかったこともあるそれでも続けたいって思うのよね~。」

その言葉を聞き、

「そう。」

と、何とも言えない表情でネスは返す。

「お父様も元はこんなに残虐じゃ無かった、右の肩甲骨に、生まれつきの禍々しい紋章の様な痣があって、それをバカにしてきたり、してきた人もいたれど、優しい人だったお母様と一緒に幸せに暮らしていけた。もうずっと、昔の話だけれど。でもあの時から変わってしまった。」

「あの時?」

「うん、お母様が死んじゃったの。」

 真剣そうな顔でネスがそう話していた。

「どんなお母様だったの?」

 するとネスが嬉しそうな顔に変わる。

「優しい人だった。だからお父様には優しい時に戻ってきてほしいの。今のお父様は、なんだか恐ろしい化け物に見えるから。」

 そして悲しげな顔になり、私にも感情が伝わって来た。

「そう…。」

少し雰囲気が暗くなったけれど、日が暮れるまで私達は語り合った。

「よし、ネスが出れるようにココのカギを盗んだげる。」

私は得意げにそう話す。

「でもお父様はどうするの。」

「…時間が解決してくれるし、考える時間を作って考えればいいわよ。」

少し適当に答えてしまったかもしれないが、和解の方法は彼女が考えた方がいいのかもしれない。

そうして、部屋に一つしかなかった窓から飛び降りようとした。すると、

「待って!。」

そうネスが引き留める。そして私の手錠を持っていた鉤で外してくれた。私が疑問に思っていると、

「盗んできたの。」

ネスの得意げな声音と共にいやらしい笑みが見える。私もそれに乗った。

「お主も悪よのう~。」

少しはしゃぎながら手錠を外し、私は脱出した。しかしその後、大きな地響きが起こり、さっそく出ていったことを後悔した。

















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