THE GREAT HUNTER 黒騎士編 聖魔村の章 2.殺人
~フォルレジス~
目が覚めると、知らない天井で寝かされていた。
「ユウカ、どこだ!」
叫びかけても誰も答えない。だが、焚火の跡があり温かいことから、最近ここに人がいたことも確かだった。扉に手をかけ、開ける。その瞬間、
「死ねえ!」
と見知らぬ男が歓喜の笑みを浮かべて短刀をこちらに振り下ろす。俺は一歩引いてそれを躱し、短刀は真っ白な弧を描く。
「ッチ!逃げるな‼」
そう言って怒りの形相で大地を蹴ってこちらに向かって来る。それをドアを勢いよく閉めて奴にぶつける。不意の行動に大きく怯んだ男に腰の長剣を引き抜き、扉の上からそれを突き刺した。
「ぐげぇ…。」
力の抜けた声がドアの向こうから聞こえる。そして長剣を引き抜くと扉と共に男の死体が倒れて来た。その男の見た目をよく見てみるとみすぼらしい恰好をしていて盗賊の様だ。風が饒舌に吹き荒れている。ユウカを探さなければ。
「見つけたぞ!やっぱりここに居やがった。ぶち殺せー!」
どこからともなく低い怒声が聞こえてくる。周りを見渡してみると盗賊どもはまだまだいるようだ。
自分の眠っていた家を背にして盗賊どもを見据える。そして襲い掛かって来る者達を長剣で切り殺していく。三人を残して、全員を死体に変えた。そして、近くにあった建物の中に連れて行き、柱に盗賊達を括り付け、尋問する。奴らには絶対に聞かなければいけないことがある。
「お前ら、緑髪の少女を見てないか?」
盗賊の一人にそう問いかける。だがそいつは馬鹿にしたような顔をこちらに向けて、声を上げた。
「へへ、知らねえな。バァカ!」
そして、そいつの手足の骨をへし折り、首を後ろに回す。一瞬のうちに一人絶命した。殺さないとでも思ったか。
「残念、不正解だ。次はお前だな。」
そして隣にいた男の右足を踏み潰した。
「ギャアアアア!」
下種な男の大きな悲鳴が建物中に反響する。
「やかましい。俺に聞かれたことだけ答えろ。そして、質問に答えなかったらそうなるが…分かったか?」
躯になったそいつの仲間を指さして問いかける。
「は、はい。」
すると小動物のように震えながら答える男に、俺は再度質問をする。
「緑髪の少女を知らないか?」
「はい、知ってます。俺たちが連れ去りました。」
やはり知っていた。そしてあろうことか攫ったというのだ。自然と声に怒気がこもる。
「そうか、場所はどこだ?」
すると、男が顔を下げうなだれる。
「そ、それは…。」
と、言うのをためらい始めた、どうやらまだ足りないと見える。なので、左手の肘を逆の方向に曲げる。するとまた悲痛な叫び声上げる。二人の俺を見る目がまるで化け物を見るかのようなそれになる。
「それで、場所を正確に言え。」
「ここの近くの集落だよ!本当か疑うならこいつも拷問しろ!」
男は、俺の問いに間を置かずに答え、集落の中でユウカが捕らえられている場所を説明し、唯一動かせる首を使って仲間の方を向いた。
「分かった、地獄に落ちろ。」
そして先程答えた男の顔を原型も残らない程殴り、大きく陥没したころ絶命させる。残った男の方を向く。
「な、何でだよ。こ、答えただろ!」
恐怖で喉と顔を引きつらせ、涙と汗を流しながら最後の盗賊がこちらを見る。
「そうだ、だからもう用は無くなった。次はお前に聞く。今までのことは本当だな。」
「ああそうだよ糞野郎。今頃俺たちの牢獄の中にある牢屋の一つにいて、変態野郎の慰み者になってるだろうな。」
「下種め。」
そして、その男も首にナイフを刺し、殺した。だがユウカがどこにいるのかは分かった。もう俺は大切なものを失うわけにはいかない。
そんな考えをしながら言われた場所に走り出した。
~ユウカ~
私は、盗賊達がはびこる集落の中を、がむしゃらに逃げ回っていた。けれどそれにも限界がある。段々と体力の限界が見えて来た。
「ガキ!さっさと出て来やがれ。」
「痛い思いすることになるぞ!」
なんて叫ぶ盗賊達。絶対に見つかりたくない、その気持ちで必死に隠れて、とにかく時間を稼ぐ。ふと、青年の声がした。
「もう手加減しないぞ。ここにいるのは分かっているからな。」
と怒った声で叫んでいる。フォルに早く来てほしい!とずっと心の中で祈りながら、家に入った。そこには誰もおらず、取り合えず安心した。けれど急ぎすぎてしまったみたいだ。
「物音がしたぞ!ここに居やがる!お前らはこの家から出ねえ様にしろ!」
「「おう!ぶっ殺してこい‼」」
そして、青年がこの家に入って来た。急いで物陰に隠れる。そして、声が漏れないように口を震える手で押さえる。速く!速く来て‼私は軽くパニックになる。けれど隠れることは辞めない。
家の中で、命を懸けたかくれんぼ、全く生きた心地がしない。私は心の中で、フォルが助けに来ることを祈っていた。でもそれで注意がおろそかになってしまった…。
「見つけたぞ!」
物陰の上から私をのぞき込む影。あの青年だった。恐怖で体が動かない。心臓が痛いほど早く動く。
「止めて!止めてよ‼」
青年が私に触れた時、急に体が動き出したので、私は暴れる。けれどそんなことは全く無駄だった。
「うるせえ!叫ぶんじゃねえ‼」
青年が私を物陰から引きずり出した。
~フォルレジス~
「ユウカ、本当にここにいるんだな。」
俺は、あの盗賊達に言われた。集落に到着していた。牢獄はどこだろうか?
「こっちだ、騎士さん。」
聞き覚えの無い声が聞こえる。そして後ろから覚えのある濃い甘い匂いがする。
「お前は誰だ?」
鴉のような仮面をかぶり大きな荷物を背負った男、声からして初老の男性だろうか?
「儂はただの商人、金で物資と情報を売る。」
静かな声で商人は言った。そして商人に金を渡す。
「ここの牢獄はどこだ?早く案内しろ!」
そして商人は答えることもせずに走った、俺はそれについて行く。余計な会話はしなかったが、それは俺にとってありがたいことだった。
薄暗く、血生臭い場所に来た。ここが奴らの言う牢獄なのだろう。道中で複数の盗賊どもとあったが声を上げられる前に長剣で素早く斬り殺した。たくさんの盗賊どもを相手にしている時間はないのだ。だが牢の見張りは一人もいない様だ。何かがあったのだろうか?そう思いながら多くのおかずがある牢を一つ一つ見て回り、ユウカを探す。
「何処だ!いるなら返事しろ!ユウカ‼」
静かな牢獄の中で響く様に響く俺の声も、全く意味がない。まさかこの死体の中に埋もれているのだろうか?そう負の憶測を思った矢先。
「ユウカ?」
捕らえられている者の中で一人、そう呟く男がいた。俺はそいつの方を向く。
「知っているのか。」
「あんたが言っているのが、緑髪の少女ならそうだ。黒い鎧を着た騎士、そいつはあんたのことだな。ここから出してくれたら話すぜそこに鍵が…。」
ようやく手掛かりを見つけた、時間が惜しい。牢屋を素手でぶち壊し、出てきた男に話を聞く。
「どんな言葉だ。」
俺がそいつに詰め寄ると、そいつが慌てて口を開いた。
「お、おい落ち着け。私はここにいるだってよ。そう言って、嬢ちゃんはここから逃げてった。外でまだ盗賊のやつらが走り回ってるから、まだ捕まってないを思うぜ。向こうの出口から出ていった、急いだほうがいい。」
それを聞いて俺は駆けだした。「私はここにいる」それは彼女の助けを呼ぶ声なのだ。牢獄から出てすぐ、盗賊どもが群がっている家がある。近づいてみると、家から、
「止めて!止めてよ‼」
「うるせえ!叫ぶんじゃねえ‼」
と、ユウカと男の声がした。もはや考えている暇などなく、その家に駆けだす、しかし。
「何だてめえ!」
「この人数で勝てると思ってんのか?⁉」
と、家を囲んでいる盗賊が邪魔をしてくる。もはや奴らに憎悪以外の感情などなかった。顎を噛み締めすぎて歯茎から血が出てくる。
「そこを退けー‼」
そう叫び、渾身の力で長剣を振るい、奴らに沈黙を宿していく。
~ユウカ~
青年に引きずり出された後、お腹や、手足を蹴ったり殴ったりされた。
「うう。」
すごい痛みでうなだれるしかない。
「分かったか、俺に逆らうとどんな目に合うのか。」
雨のような暴行が止み、青年がそう言って私から目を放す。余裕が出来たからなのか、不思議と冷静になって、周りを見渡すと、そこは人から奪ったものを保管しておく小屋だった。先ほどの私への暴力から来た衝撃からか、もともとから雑に置いてあって散らかっていただけなのか、様々なものが棚から落下していた。けれどそんなことはどうでもいい。どんな偶然か私のククリナイフが目の前に落ちていた。
びっくりすることに、目の前に獲物の解体に使っていたククリナイフが地面に刺さっていた。それに青年も気付いた様だった。私は凄く重い体でそれに近づいていく。
「おい、お前は女だし子供だ。そんなことをする奴じゃないだろ?」
その青年の言葉を無視して、私は床を這いながら必死にククリナイフへと近づいていく。
「この、止まりやがれ!」
私を殺すことに戸惑いが生まれたのか、横腹に蹴りしか飛んでこなかった。すごく痛い、けれどそれ以上に生きたいと、フォルに会いたいという気持ちが跳ね上がって、痛みを我慢しながらククリナイフを掴み取った。そしてそれを横に振って青年の右足を斬りつける。
「ギャア!」
青年が悲鳴を上げて倒れる。彼は盗賊のはずで、殺すことに慣れているはずなのに自分が傷つけられるのには慣れていないらしい。けれど痛みに嘆いている彼の姿を見て、今から命を奪う、その事実にククリナイフを持つ手が震える。でも迷わないしためらわない。
「ああああああ‼」
大きく叫んで勇者になり、痛みに今でもうずくまっている青年を突き飛ばして、倒れ込んだ青年の顔面に向かってククリナイフを何度も叩きつける。動かなくなっても叫び名ながら叩きつける。もう自分が何をやっているのか分からないくらいに私はたかぶっていた。
「キャア。」
ふと、黒い影が私を抱えて、青年だったものから私を引きはがす。恐ろしい…殺される!そんな感じに、敵かと思ってナイフを向けると、その姿はフォルだった。
~フォルレジス~
叫びながら死体をナイフで殴るユウカ、その姿は戦士の様だった。だが初めて人を殺したからか、自分を見失っているようだった。だからユウカを死体から引きはがした。
「ユウカ、落ち着け、ゆっくり息をしろ。」
過呼吸になっているユウカを抱きしめ、頭を撫でる。すると安心したように俺に寄り掛かった。
「うう、フォル…。痛いよう…。怖かったよぉ。」
緊張と興奮が解けたのか、横腹を抑えながらこちらに泣きついてきた。確認してみると、肋骨が何本が折れていた。
「大丈夫か、すまない。俺が不甲斐無いばかりに、済まない。」
「うわああああん。怖かったよぉ一人にしないでよ。」
ユウカが落ち着くまでそのままなだめ続けた。
「泣きすぎて、瞼が少し痛い。」
無風の晴天の中。俺の鎧に涙と鼻水をべっとりと付けたユウカは、腕の中に抱えられながらそう言った。…後で拭いておかなければ、それはそれとしてこいつは骨が折れているのだから無理に歩かせられるわけがない。そう考えた俺は彼女を抱えた。彼女曰く、治すのに一日かかるらしい。
「もう、ここまでしなくてもいいのに。まあ、悪くないけど。」
頬を赤くしながらユウカが腕で目を隠す、まだ涙が止まっていない様だ。
「殺されるかと思った。もう一人にしないでね。」
懇願する声音と瞳で、ユウカがそう言って来る。
「ああ、もう二度としない。約束しよう。」
そして、盗賊達の集落を出ていこうとすると。
「待ってくれ。二人共。」
と、男性の低い声がする。振り向いてみると牢屋の中で会った男だった。
「ボルコス!」
腕の中のユウカがそう答える。俺がユウカの方を向くと、
「旅をしていて盗賊に捕まったんだって。」
と、明るい声音でユウカが説明する。
「で、その旅人が俺たちに何の用だ。助けてやった礼ならいい。」
と答えると、
「腕を見込んで、あんたらに頼みたいことがあるんだ。勿論、その嬢ちゃんの怪我が治ってからでいい。」
傾く日と曇り空の中、ボルコスの話を聞くことにした。
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