THE GREAT HUNTER  黒騎士編 復讐者の章 2.欲望の罪過

2,欲望の罪過

~黒騎士~

「俺がこの程度で死ぬと思ったか?」

 俺を担いでいる二人の盗賊にそう言い放ち、片手で首の骨をへし折る、そして声もなく死んだ。

(俺の武具を取りにいかなければならないな。)

 そして俺は、俺が囚われた牢に走った。

 一応盗賊達にも宗教があるのか、それとも単に邪魔なだけか、そこには墓場があった。まあ理由としては後者だろう。自慢から声が聞こえる。

【俺たちの仇を取ってくれ…。あいつが許せない。】

 それは怨みの声だった。これ以外にもたくさんの声音が俺に語り掛けてくる。だが、

「やかましい!失せろ‼亡霊どもめ。俺の国の冥界の女王の名に誓い、必ず奴をそこに叩き込んでやる。だからおとなしくしていろ!」

 亡霊のような者達の声を一蹴した後、俺は領主の館の中に向かっていった。

 あたりはすっかり暗くなり、だが奴の屋敷が見えて来た。俺は静かに、しかし素早く屋敷に進入すると、玄関の広間で数十人の盗賊や、領主の兵が、武器を構え舌なめずりをしている。もうばれたというのか。

「ぶち殺せ!」

盗賊の一人の掛け声を合図に盗賊どもが切り掛かってくる。まず、先頭にいた盗賊が矛槍を振りかぶり、俺の頭蓋骨をかち割らんとする。その攻撃に合わせるように大剣を抜き、そいつの得物ごと叩き切る。

「ヒ、ゆ、弓だ。弓で殺せ!」

 その命令に二階に控えた複数の弓兵が矢をつがえる。俺はそれを跳躍力でもって一人に近づき、顔面を崩壊させる拳をくれてやる。

「ギャアアアアア‼」

 殴られた一人の弓兵の絶叫が広間中にこだまする。ここにいた盗賊達はほとんどが俺の動きに唖然とするばかりで何もしてこない。恐らくは自分たちが狩る側だと疑わなかったのだろう。俺はそいつらをやすやすと切り捨てていった。

 唯一有象無象共に命令していた男だけは俺に掴み掛り、首を絞めて殺そうとしてくる。すかさず俺は剣を手放し、男の顔がある位置を手で確認する。親指と人差し指で男の目玉を二つとも串刺しにし、もう片方の手で喉を握りつぶした。

 さすがに目と喉を潰されても俺を締め上げる意思はなかったのか、男は絶叫と共に俺から離れた。その瞬間、自分の大剣を拾い上げ、奴を縦に切り捨てた。

「さて、ここの領主とやらを探すか。」

 そう独り言を呟き、屋敷の中を歩き出した。

~元領主~

 真っ暗な部屋。その中で儂は閉じ込められていた。だが恐ろしさだけが独り歩きし、何も起きることがない。何時まで怯えようが、何人も来る事は無い。

 儂は領主への怨みをもって奮い立たせ壁伝いに出口を探す。すると、

「こっちだぜ、爺さん。」

 と、声が聞こえ、ドアの開く音がする。そして暖かな火の灯りが見える。そこに行ってみると、石畳の廊下に燃えるたいまつが立てかけてあった。

(一体誰だろう?だが速くここからでなければ…。)

 そして、たいまつの光の下に出口を探し始める。

 不意に足跡が聞こえて来た。とうとう見つかってしまうのか…。そう思った矢先。

「爺さん!あんたなのか?」

 聞き覚えのある声が聞こえて来た。急いでその声の下に近づくと、見覚えのある騎士が見えて来た。

「お前は⁉なぜこのようなところに?儂は、簡単に述べると、あの領主に捕らえられてしまったのだ。」

 儂は騎士に疑問を投げかける。

「俺はあんたとの約束通りここの領主を冥界の寒き牢獄に叩き落しに来た。だが奴がどこにいるのか分からんしどこに敵が待ち構えているのかが分からん。だからこそ牢獄らしきこの場所に行きここの囚人を助け奴のことを聞き出そうと思ったのだ。俺はこんなに暗いところでも、耳や鼻が利くので問題はない。」

 と言うことはこの男は出入り口から入って来たらしい。

「ならば出口を教えてくれ。そこに至る道中でこの館の構造を教えよう。元領主という立場上この館には何度か入ったことがある。さすがにこの牢獄のようなところは入った事は無かったから、知らぬこともあるかもしれんが。」

「俺が分かることが増えただけでいい。さあ行こう。ここにいる盗賊はあらかた殺したが、潜んでいる者がいるかもしれん。」

 そして早歩きで騎士は走り出した。ふと、疑問に思ったことを話す。

「ここに儂とお前以外の人間はおったか?」

 と聞くと、

「いや、ここはすべて見て回ったがいなかった。」

 と言った。

~黒騎士~

「よし、これ以上の情報はないな。」

 大きな館の出入り口で元領主と言う老人を見送る前に、もう一度確認する。

「ああ、お前も健闘を祈る?」

 そして老人は去っていった。

 館の中を歩き、登り、例の領主がいるという部屋の前に着いた。

「ほう、有象無象よりはやるようだな。」

部屋に入った途端その言葉を吐かれる。

「今日がお前の命日だ。」

俺はそう言い返した。すると、不気味な笑みを浮かべながら。

「ほざけ、そうなるのは貴様よぉ。」

そして、俺と奴は動き出した。

「そうら!足掻いて見せろ!」

 と奴が暴れ出す。その攻撃に合わせ剣を振り、攻撃を叩き返す。だが状況は奴が優勢。人外の力で俺を吹き飛ばしてくる。吹き飛ばされた瞬間、宙を舞いながらナイフを投げると、それが領主の眉間に命中する。それに気を取られた瞬間地面に降り立ち、大地を蹴る。姿勢を低くし、横腹を叩き切る。

「クソッ、やりおったな貴様。」

そうして、腹を抑えてこちらを睨む領主の背中が黒く光だし、姿が太った悪魔のような姿に変わる。そして服が破れ、肩甲骨の禍々しい痣が目立つ。

「殺す!殺してやるぞ貴様!」

持っていた武器を放り投げ、こちらを殴って来る。

「ごへ!」

怪物の腕の一振りで、俺の体が吹き飛ばされる。辛うじて剣で受けたが、肋骨や、腕の骨に粉々になったかと思うほどの衝撃が来る。

「所詮人間などこんなものよ。」

化け物は何度も俺に攻撃し、遂に床が抜け、その衝撃から俺の意識は暗転した。

~ユウカ~

 ネスのために鍵を探していると大きな衝撃が館中に轟いた。

(どこからだろう、嫌な予感がする。行かなきゃ。)

 その地震に恐怖を感じたけれど、何処に行けばいいのか分からない。すると。

「こっちよ。お譲さん。」

 そんな声が小さくもはっきり聞こえ、なにか甘い香りがする。その匂いをたどっていると。ゴンッ、ズゴンッ!と何度も衝撃音が鳴り、壁が崩れる。その光景を見た瞬間、私は思わず駆け寄った。

「あなた!どうしたの⁉」

 私を助けてくれた騎士が倒れている。そしてその原因らしき化け物が視界に入って来た。

「ほう、鼠が一匹入って来たか。まあいい、貴様もろともその男を消し去ってやる。」

「待って!」

とっさに出た声だった。だがその化物は私の最後の悪あがきに反応した。

「いいの、あなたが大事にしているネスが私たちのそれは無残な死体を見ることになるけど。」

「!……。」

化け物の表情は分からなかったけれど戸惑いの感情は伝わって来た。

「私はその子と会って話をしたし、仲良くもなったよ。何か答えたらどうなの。」

 そして私は秘密裏に彼に手を触れる。私を一度は助けてくれた彼。

「そうか、まあいい。血も残さず片付ければいいのだから。その後、ネスにはお前はこの町から出ていったと言っておこう。」

 そしてこちらを殺すであろう肉の塊を怪物が振り上げる。

「そう、なら死んでくれる?」

 私には人を癒す力があるその力を存分に使い、彼を癒した。

~黒騎士~

目が覚めた瞬間。体の痛みが嘘のように消え、巨大な腕が迫って来ていた。大剣を握り上げ。

「うらぁー!」

腕を叩き落とした。

「ぐ!貴様よみがえったな。」

こちらを目で睨んでくる。

「最初から死んではいない、それはお前だ!」

 そして化け物と真正面から向かい合う。すると、

「こっちよ化け物!」

そこには、先ほど助けた少女がいた。少女は、いつの間にか俺から奪っていたナイフを投げ、突き刺す。

「凄い、よく切れるねこのナイフ。」

怪物がその少女に気を取られているうちに、俺は柱の陰に隠れた。

「どこへ行った」。

そうして、手当たり次第に柱を壊し始める。

「あぶない!」

少女がそう叫ぶ。柱の陰から俺のマントが見えたからだろう。

「そこに居たかぁ!」

そうして化け物はその柱に攻撃する。だがそれは、持ってきていた盗賊の死体にマントをつけていただけだった。

「ぐおおお!」

そしてそのスキに、さらけ出された首に向かって大剣を振るう、だが、それでも大きなけがを負わせるにとどまる。そして反撃の体当たりが来る。その衝撃にしばらく体が動かなくなる。死ぬ、そう思った時。

「キャーーー。」

 と高い声が耳を刺激する。

「⁉、ネス見るな!」

 そこには、見知らぬ少女がいた。怪物がそこに気を取られる。

「ネス!どうしてここに?」

 緑髪の少女がネスと呼ばれた少女に向かってそう叫ぶ。

「さっきの地震で扉が壊れたから。貴方と話を聞いて外に出てみようと思ったの。」

 そう会話している二人を無視して、確実に仕留めるために腰の長剣を引き抜き、領主に飛び掛かる。

「ぐ、貴様!」

 化け物の首に腕を絡め、足を胴に巻き付ける。化け物はその俺を引きはがさんともがき、自らの攻撃で必ず殺せる位置に引きずり出さんとする。俺の力と化け物の力がぶつかり合う死闘が始まる。奇襲であることと剣を刺し続けたことにより、最初の方は俺が優勢だった。だがやはり人外の凄まじい膂力がすぐに俺を圧しだした。

「「おおおお‼」」

 双方の雄叫びが部屋中にこだまする。化け物はすぐさま俺を引きはがし目の前に引きずり出す。首や胸を何度も突き刺していたが、化け物は苦しみながらも俺を万力の如き力で掴む。常世の生物とは異なる圧倒的な生命力を持つその化物は俺の持つ刃に正確に急所を切り裂き、突き貫く以外に奴を殺すどころが、俺の命さえも奪ってしまうだろう。その瞬間、

「ぐあああ。」

 一瞬であったが戦いに集中している俺でもわかるくらい甘い濃い匂いが立ち込め、ヒューと言う風切り音が鳴り、怪物の頭に命中する。その瞬間何度も繰り返し長剣を首にあてがい、切り落とす。そして奴の絶対的な急所と言える脳みそと心臓を突き刺し、息絶えたと分かるまで。

「どうしてそんなに恨むの、何が彼方をそんなにうごかすの?そんなにボロボロになって。」

 当然、そんなことは分かり切っている。

「復讐心、怨みだ。それ以外に語るべきことはない。」

~ユウカ~

「お、終わったの…?」

 私の言葉を事実だと示すように汗と流血を顔から振り払い、よろめきながら彼が立ち上がる。私は、呆然となる。そしてネスは涙を流す。

「ネス…。」

「お父様は罪人だった。あんなに高潔だったお父様は。ねえ、騎士さん。私はどうすればいいの?こんな現実、どうすれば。」

 と彼に聞く。ひどく憔悴したネスに私は心配したが、反転して彼は。

「何故俺に聞く?お前の人生を何故俺が決めなければならない?」

 と冷酷に言い放つ。いくらなんでもそんな言い方はないだろうと私は心の中で憤った。けれどその私の気持ちに反して、彼は。

「こんな化け物でも血は赤いのだな、まるで人のようだ。いや、元は人だったのだから当然か。それに過去がどうであれ今、やつは人を何人も殺した。己の至福のために何人もだ、だからこそ悪人のたどるべき末路をたどったのだ。」

「たどるべき末路。」

 ネスは顔を下げそう呟いた。そして切り落とされた領主の首を両手で拾い上げる。その血で汚れるのもいとわずに。

「いかに罪人でもやはり家族か。」

 そう言って立ち去ろうとすると、急に何かに気付いたように私の手を取る。そしてネスの手も取ろうとしたが手で否定の意を示す。周りを確認してみると、むせかえるような血の匂いに隠れて焦げ臭いにおいが立ち込めている。誰かがこの館に火を放っていたのだ。

「それがお前の選択か。」

 そう言って私を連れて後ろに飛ぶ。すると、屋根が崩れ夜の星々が見える。彼はおそらく盗賊の物であろう短剣をネスの首に投げつけた。回転しながら宙を舞うそれは正確に彼女の首を切り落とした。

「ど、どうして?」

 戸惑う私に彼は静かにこう答えた。

「たとえ父親がどれほど殺した大罪人でも、娘が負うべきではないと俺は思う。」

 そして彼は私を抱え炎の中を無理に駆けようとする。

「こっちだ!こっちはまだ火が回っておらぬぞ!」

 そんな老人の声が聞こえ、彼はその声に従い、屋敷を抜け出した。

~黒騎士~

 緑髪の少女を抱え屋敷を抜け出すと、手を合わせて祈っている老人がいた。俺は脱出口を教えたことに感謝を述べた。

「やはり生きていたか。お前が生きていると思って声をかけたが…、生きた心地がしなかったぞ。」

 ひどく安心した様子で老人が語る。

「どういうことだ?」

 俺は老人に尋ねる、何かただならぬ様子であることは分かった。

「人の恐れとは恐ろしいものでお前と領主との激しい戦いが住民たちに恐慌に陥らせ屋敷に火を放ったのだ…。儂はどうすることもできずにただお前の無事を祈り、何とか火の回っていないところを探して声をかける事しかできなかった。」

 と老人は説明した。

「まあ終わったことをくどくど言っても仕方がない。」

 そう言って俺は緑髪の少女を下ろす。すると老人がこの少女を見て疑問の顔を浮かべるので、説明する。

「こいつはあの領主の部下に襲われていたので助けた。そして領主の館でも見かけたので連れて来たのだ。」

 そして老人は納得したような顔をし、同情の目線を送る。

「あんたも息災でな。後継者選びは慎重にしろよ。」

 そして俺は明け方の空の中歩き出す。空を見上げれば二つの星が流れていった。一つは月の方へ、一つは日の光の方へ旅立っていった。寄り添った二つの星はそれぞれ別々の方向へ旅立っていったのだ

 星が消えた紅い明け方の空の下、男の旅は続く。


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