THE GREAT HUNTER   黒騎士編 無明長夜の章 1.教諭の始め

長い、長い夜。切っても、切っても夜は明けない。復讐をつづける男の辛き旅のお話。だが今は一人ではない。

~ユウカ~

 盗賊と化け物を殺し、町を離れ歩いている。無言に耐えられず、私は話しかけた。

「あなた、名前はなんていうの。」

 その私の問いに。彼は意外と素直に答えた。

「フォルレジス、お前は?」

「ユウカ。あなたの名前長いからフォルって呼ぶね。」

 笑いかけた私に彼が問いかける。

「ユウカ、俺についてくるということは、先ほどのような地獄を見るぞ、いいのか?」

 いったい何が問題なのだろうか?

「いいよ、貴方ほっとけないし。取り合えず傷見せて。」

 そう言い、おもむろに取り出した植物の葉をフォルの傷に付ける。すると、血が止まり傷が塞ぎ始めた。

「これは?」

「植物というのは、いろんな力を秘めているの。私は、その力を引き出すことができるの。どう、すごいでしょ。」

 と得意げな顔をして話す。

「ああ、すごいな…。」

 何か言いたげな顔をしているフォルに嫌な予感を感じ、背中をバシッと背中を叩く。

「今失礼なこと考えたでしょ。」

 そしてフォルを少し睨む。

「いいや。」

 そうしてフォルが顔を反らす。不意に、首に巻いてある包帯に目が行った。

「どうしたの?それ。」

 私は、首に巻いてある包帯を指さす。

「これは手掛かりだ。復讐のためのな。」

「どうして?」

 この傷の何が手がかりなのか、彼に聞いてみる。

「奴らの下にこの傷が導く、おびき寄せる呪い。奴らが近づくとこの傷が開くんだ。」

「ふーん、そうなんだ。」

 そうやりとりしながらも旅を続けていった。

~フォルレジス~

 街道を歩いていると、雨が降り始め、また、強く打ち付ける。なので、近くにあった森の中を進むことにした。木の葉で雨もマシになるからだ。

「ねえ、休もうよ。こんな土砂降りの中歩いてたら疲れちゃうよ…。」

 少し息を切らしながらユウカが言う。

「どこにも休む場所がない。それに雨を避けるために森の中を進んでいる。さっそく限界か?」

 と少し毒のある言い方をしたが、ユウカは気にせず。

「えぇ~。」

 と返した。俺は、フードを深々と被りユウカは持っていた傘を広げ、歩いていた。すると、一つの馬車が来た。馬を引いているのは薄い茶色のフードを被った女の人。片腕がないのか、片手で手綱を握っている。

「馬車に乗って行ってください、君も、それにそちらの貴女も。」

 そう言った女の声は聞き覚えがあった。

「フラストリィか?」

 そしてフードを取った顔は確かに見覚えがあった。

「はい、そうです。」

 フラストリィはやさし気に微笑んだ。

「それでは、馬車は空いてますから。」

 圧がありげに彼女が言う。

「あ、ああ。」(相変わらずだな。)

 そう思い、彼女の言う通り俺は馬車に乗り、その後を追うようにユウカも馬車に乗った。

「まだ旅を続けているんですか?」

「ああ、まだまだ終わらんだろう。」

「そうですか、君の決定に否を出す気はありません。ですがあまり無理しないでください。それに何かあれば頼ってください。いつでも君の味方ですから。」

「助かる。何かあれば頼ろう。」

 そう会話しているうちに、あたりは暗くなった。すると、馬が荒れ始めた。

「何か、何かおかしいです。」

 少し動揺し気を張り詰めるフラストリィを後目に、冷静に周りを確認する。

「来たな。」

 そう言い、馬車を降りると、ニエ、ニエと言いながら茂みから、亡者たちが向かってきた。

「に、逃げようよ。」

 とユウカが聞く。

「何故だ。」

 俺の問いにユウカがそう返す。

「だってもうこの人達死んでるじゃん、どうやって殺すの?それにこの数。」

 答えは決まっている。

「いつものことさ。フラストリィ、さっそく仕事だ。」

そう言い大剣をふるう。すると、当たった亡者は、粉々に砕け散った。

「変わりませんね、貴女も。了解しました。しかしこの腕では、君の役には…。」

 フラストリィが無くなった右腕を見せる。

「その少女を守るくらいはできるか?」

「おそらくは。」

 少し不安げな顔をしながらも、鋭い目つきになる。戦場でいつも見た顔だ。ユウカのことは任せ、敵に向かって剣を振る。

「これは生きてても、死んでても関係ないわね。」

 と、剣を振り上げる俺に、ユウカが感心する。

「相変わらずですね君は、こちらも負けていられません。」

 そう呟くのが聞こえ、振り向けばフラストリィが、不慣れながらも左手で武器を取り、戦っている。その姿を信用し、前に集中した。すると、亡者たちの後方に、数人の騎士たちが現れた。俺の心の中に動揺が走る。だが目の前の亡者たちは。それを待ってくれない。俺は必死に剣を振るいそいつらの元へ走る。

「確かに、お前達は死んだはずだ。」

 唖然となる。再度それを見据えて。思わず剣を持つ手を緩めてしまう。それは遠い昔の記憶を思い出せるものだった。

「―――!―――!」

 ユウカが何かを言っているようだが何も聞こえない。その騎士たちが、武器を俺に当てようとする。見覚えのある太刀筋だ。その痛みで反射的に、腰に差していた直剣を引き抜き、騎士の一人を切った。正気に戻り、直剣を杖代わりにして吐いた

「うおおおおお。」

 そう叫びながら大剣を拾い、かつて親しかった者達を切り捨てていく。すると、

「どうしてバレたんだろう?」

 そう言って暗がりの中から、一人の女があらわあれる。だが、纏っている雰囲気は、化け物そのものだった。

「お前か?こんなふざけたことを。」

 と言うと、笑いながら。

「そうね、お前の仲間は、だまされて死んでいったもんねぇ。お前も…。」

 俺の底から暗い感情が沸いてくる。その感情に身を任せ、女の体を引き裂いた。

何度も剣を振り、死体たちを切り捨てていく。そして死体たちがいなくなったころ、日の光が差し始めた。

「はあ、はあ、」

 息を切らす俺を心配してかフラストリィが暗い面持ちで話しかけてくる。

「大丈夫ですか…。あの人たちのことは。」

 それ以上の言葉を俺は静止する。

「問題ない、なにもな、世話になった、俺たちはもう行く」

 そう言って立ち去ろうとする。

「では、またお会いしましょう、お元気で。」

 フラストリィは森の入り口までの道を進みながら大きな声でそういう。

「うん守ってくれてありがとう。」

「無事でいろよ、フラストリィ。」

 そうして、フラストリィと別れた。だが、まだ傷口が痛み、奴らの反応がある。死体や、化け物とは違う、強い気配が。

「ユウカ。」

「なあに?」

 首を傾けながらこちらの話を聞くユウカに、

「この森の奥へ行くぞ。」

 と言った。静かに、ユウカは頷いていた。

~ユウカ~

 一難去ってまた一難。フォルが親密な顔で森の奥へ行くと言うので。思わず私は首を縦に振ってしまった。

「死体やあの化け物と戦った後だってのに。休みもしないの?」

 休むことは大事。私がそう提言すると。

「時間が惜しい。」

 と断られた。

「行こう。食料を取りに行く。」

 そしてフォルがナイフを取り出し始めた。

「食料ってまさか…。」

 私は疑問に思ったことを口にする。

「動物の肉だ。」

 やっぱりそうだった。

「肉は大好きだけど、生臭くない?硬いし。」

 一度殺したウサギを食べたことがあるけどあれは胃に来たね。

「大丈夫だ。下処理はちゃんとする。」

 私の心配を察したようにクロウがそう言ってくる。

「分かった。何か手伝う事ある?」

 私は腕をまくって手を差し出す。

「そこに座って…いや、得物を探すのを手伝ってくれ。」

 そして私は痕跡を探すためにフォルから離れた。

~フォルレジス~

 嬉しそうにだが静かにユウカが話しかけてきた。

「鹿を見つけたよ、」

 そう、嬉しそうな顔をする。俺に子供がいれば、こうだったのだろうか…。愛した人との娘。ありえたかもしれない未来を想像し、すぐさま振り払った。

「分かった、音を立てるなよ。」

「うん。」

 そして見つけた現場へ向かい、足跡をたどって鹿を発見する。

「お前が投げろ。」

「え?」

 そしてユウカにナイフを渡す。

「落ち着け、的だと思い、雑念を払え。」

 静かに頷き、渡されたナイフを握る。そしてユウカの腕を持ち、投げ方をゼスチャーで教える。そして投げられたナイフは前足に命中した。

「当たった!」

 と嬉しそうにユウカが言う。

「血と足跡を追うぞ。」

「はーい。」

 そして満面の笑みを浮かべるユウカに背を向けてしゃがむ。

「どうしたの。」

 と首を傾けユウカが言う。

「乗れ、この方が早い。」

 そしてユウカを背負い獣を追う。

「乗り心地は…あまりよくないかも、鎧でごつごつしてるし。」

 とユウカが言っていたのを無視して、倒れた獣の前に卸す。

「最後までやり遂げろ。」

「どうして?」

 と少し泣きそうな顔でユウカが聞いてくる。

「生きるためだ。これから俺についてくるなら、自分の身は自分で守れなくてはならない。」

そして獣の前足に刺さったナイフを抜き、ユウカに握らせる。

「で、でも…。」

 ユウカはためらっているようだった。握っているユウカの手に自分の手を添える。そして押す。ナイフから命を奪う感触が伝わる。

「う…ぅ。」

 半泣きの状態でユウカがこちらを見てくる。

「大丈夫だ、お前は悪くない。」

 とユウカの頭を撫でる。少し早すぎたかもしれない。そう思った。どうやら短い間だったが、情が移ったらしい。

「鹿は俺が捌く。火を起こしてくれ。」

 今はユウカに考える時間を与えるため、鹿は俺が捌くことにした。

~ユウカ~

 火をつけ終えた私は、その管理をしながらずっと葛藤していた。初めて命を奪ったという感触。今まで肉は店で売っているのを見ただけだった。もう死んでいるのを、道で転がっているのを見ただけだった。

(どうしよう。でもいつかは私も手を汚していた。もしかしたらためらって死んでいたかもしれない。仕方なかったのかなぁ…、でもそれで済ませちゃダメな気がする。)

 そう考えていると、フォルが肉を持って来た。おそらく何度も叩いて、柔らかくし、ちう気も丁寧に行ったのだろう。

「焼くぞ、ちゃんと見てくから話をしよう。」

 と先ほどからふさぎ込んでいるユウカに、対話を試みる。

「うん、私も話したかったんだ。」

 まずはユウカの話を聞く。

「私、どうすればいいのかな。」

「何がだ。」

「殺した事。仕方ないと割り切っちゃえば、私が変わっちゃう気がして。」

「……。」

「昨日の夜見たみたいな化け物になっちゃうんじゃないかな。そう思っちゃうの。」

 俺はそれを黙って聞いていた。

「それなら俺はもう化け物ってことになるな。」

「ち、違うよ。フォルはやさしい人。そして強い人。化け物なんかじゃない。」

 俺の冗談を真に受け、必死に弁解する。

「ならそうだろう?」

 ユウカが言っていることが分からないという顔をする。

「俺は人も殺す。化物達だって殺す。ただ、個人の復讐という感情だけで、ただ死にたくなんかないというだけで、手を汚す。だが俺は変わっていない。人は変わらない生き物さ。どれだけ頑張っても悪い奴は悪いままだし。いい奴はいい奴のままだ。表面は神にも悪魔にもなれるが、根幹は変わらない。だから心配することはない。思うがままに生きろ。」

 俺の話を黙ってユウカが聞いていた。

「うん、分かった。好きに生きる。私らしくていいね。」

 考えて、考えて、そして吹っ切れたようだった。

「ささ、肉を食べよう、おいしそうだし。」

 そしてお腹を満たし始める。二人でかぶりつく肉は一人で食べるどんな料理よりもおいしかった。

 そしてまだまだ明るかったので、私は寝ることにした












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?