THE GREAT HUNTER  黒騎士編 聖魔村の章 1.小さな英雄

 黒騎士編 聖魔村の章

 人は、何故見た物だけを絶対の真実と語るのだろうか?一つしか考えられられないのか?

~ユウカ~

 朝、今の時期は日が照っていても寒い。

「やった。これで数日は持つかな。」

 頭に深々とナイフの刺さった鹿をククリナイフと呼ばれた短剣で血抜きをし、引きずりながら廃村のとある家に戻る。

「ただいま、フォル。」

 しかし誰も答えない。あの森の一軒から2,3日。私はフォルが倒れた後、偶然甘い匂いのする男の人に会った。その人は商人と名乗ってフォルをここまで運んでくれてククリナイフをくれた。その人はその後、最初からいなかったようにいなくなった。まだお礼も言えていないのに…。

 今は季節の変わり目に移ったらしく、昼間以外は寒くて仕方がない。あのすごい戦いで負ったフォルの傷は、治ったと思ったら開き、また治す。そんなことを続けていた。何度か怨霊が発生したが、数が少ないし弱いから、私一人でもなんとかなった。

「フォル、今日はこんなに大きい鹿を狩ったんだよ…誉めてよ……。」

 そして私は蹲った。

「落ち込んでてもしょうがないや、ご飯作るね。」

 そうして立ち上がり、ククリナイフで解体して、今日食べる分を料理する。普段よりもお腹が空く、それは狩りをしていることもそうだし、植物の力を介して、私の生命力をフォルに分け与えている。だからこそそれを補うためにお腹が空く。

「しかしここは不思議だなぁ。廃村なら怨みとかの負の感情が渦巻いているはずなのにそれがほとんどない。」

 そして静かに夜が始まった。フォルの体が冷えないように近くで火をつける。すると近くで足音がした。火を焚いているのに気付いたのか、その足音がこちらに近づいてくる。フォルを毛布で隠し、ドアの前で待ち伏せする。

 ガチャ、そう音がして扉が開いた時に、軽薄そうな青年が一人だけ入って来た。その青年の首に持っていたナイフの先端を首に突きつける。

「誰、無駄な抵抗はしないで。」

 そして青年は両手を上げて降参のポーズをする。

「すまん、誰がいるのか確認したかったんだ。お嬢ちゃん一人だったとは、何か手伝えることはないか?」

 あやすように青年がそう提案してくる。

「要らないわ速く出て行って。」

 私は青年を信用できない。早く帰ってもらうことにした。

「ああそうか、なら言う通りにするよ。」

 私にナイフを向けられたまま男は去っていった。そして隠していたフォルを元に戻す。

「ごめん、騒がしくしたね。」

 そしてフォルに毛布を掛け、火の管理をする。少し寝たかったけれど、今日亡者たちがこっちを襲って来ない、盗賊が寝込みを襲って来ないとも言えないので、起きておくことにした。

「君が起きたら目一杯寝させてもらうからね。」

 私はそう愚痴を漏らした。

 気付けば夜は明けていて、朝の少し暗い時間帯。そこで数時間寝た後、ナイフの練習がてら、小さい得物を狩りに行くことにした。

 しばらく歩いていると。夜中に出会った青年を見つけた。青年は、数人の男たちと何かを話しているようだった。隠れて、聞き耳を立ててみる。

「本当か?本当にこんなところに女の子が?」

「本当だよ。緑が見した少女が、鹿を狩ってたんだ。」

「本当だとしたら一目拝んでみたいぜ。」

「そう言えば今噂になっている黒い騎士。緑髪の少女を連れだしたらしいぜ。」

「ほう、俺が見つけた少女も緑髪だった。まあ、黒い騎士なんてのは都市伝説さ。とにかく探そうぜ、本当に女の子供がいるんだったら、な。」

 そう会話していた。

(見つからないようにしないと。ん?)

 男たちの前方に影が複数見えた。良く身を凝らしてみると、妙に毛深い人たちがこちらに向かって来ていた。

「何なんだ!あいつ。」

 前方の男たちが、獣たちに気付いた様だった。思わず助け舟を出す。

「そいつらはもう人間じゃない。手加減しないで。」

 そして亡者たちにナイフを投げる。獣たちの頭にナイフが命中したが、それでも動き続ける。

「聞いたな。やるぞ。」

「おう、話は後だ。」

 そして、青年たちは、獣たちに応戦し始めた。ナイフを投げて私は青年たちを援護し始めた。

 獣たちは、それほど多くはないが。一人一人が手ごわい。

(どうして、こんなのが?今は日が出ているから、亡者とかとは関係ない。だとしたら誰かに操られていたり?)

 そう考えながら。獣たちを相手していると。

「お嬢さん?こういうのは慣れっこかい?」

 夜中あった青年がそう話しかけてくる。

「うん、そうだけど。今は目の前のことに集中して。

「ああ、分かったよ。」

 青年も、それ以上の追及を止めたようだった。日が沈みだしたころ、青年たちが獣を殲滅し終えた。青年たちは手練れで、数人で亡者たちを囲みながら一人ずつ倒していった。

「お嬢ちゃん。勇敢な子は好きだぜ。」

「すげえな、俺でもちょっとちびったのに。」

「あんた、何もんなんだい?」

 青年たちが次々の話しかけてくる。

「じゃあ私はここで。」

 淡々と私が立ち去ろうとすると、夜中の青年がこちらに声をかけてきた。

「そう言えばお嬢さん。俺たちは人を探しているんだ。黒い鎧をしている騎士なんだが、ちょうど君みたいな緑の髪をした少女を連れているを聞いたんだが…。」

「そう、探してどうするの?」

 口元を歪ませて笑う男に、知らないふりをして答えた。

「俺たちの仲間を散々殺しているんだ。報いを受けさせなきゃな。」

 そしてほかの青年たちも笑い出す。下種のような笑い方には見覚えがある。あの町であった、盗賊達だ。

「まあ、騎士なんて知らないから。じゃあね。」

 そして私はナイフを拾って早々に立ち去った。

 静かな夜の中、窓を除けば複数の灯りが見えた。

(あいつら、やっぱり私を追いかけてきてる。ここから離れなきゃ。)

 見つかる前に点けていた焚火を消し、

「こっちよ‼」

 と叫び、盗賊達の注意を引く。

「こっちにいるぞ!追いかけろ。」

 出来るだけ遠くに行く、そのために私は走り出した。

「ガキ!ちょこまかと…うっ!」

「ごめんなさい。」

 一人一人ナイフで刺し殺し、謝っていく、そしてフォルが眠っている家からどんどんと遠ざかって行く。

(この門をくぐったら外のはず。)

 どんどんと走っていく、村の門をくぐろうとしたとき、頭に衝撃が走り、目の前が暗くなった。

 ぼやける意識の中、会話が聞こえてくる。

「何でこいつを牢屋にぶち込むんだよ。さっさと肉に変えちまおうこっちだって養ってる女子供がいるしよぉ。」

 青年と、その仲間が言い争っているようだった。青年はやけながら答える。

「こいつだって女だし子供だ。だから養う仲間にしてもいいだろ?」

「あ⁉ふざけんなよこのロリコン野郎。」

「ここのボスとして言う。もういいだろ。」

「チッ。」

 青年の仲間は苛立った様子で出ていった。

 目が覚めると、私は牢屋の中にいた。その牢屋の中は血の匂いがして、内臓が抜かれた人が吊るされていた。すると、見覚えのある青年が目の前に現れた。

「まったく、お前はとんでもないことをしたなぁ。」

 笑いながらこちらに焼いた肉を差し出してくる。

「彼方達、人の肉を食ってるの。」

 私は、肉に手を付けず、青年にそう聞く。

「俺たちだって人数が多い。とれる獣どもじゃ足りねえし農業なんて出来ねえ。俺ら来たねえ大人は手を汚しきるしかねえのさ。だが安心しな、嬢ちゃんのには入ってねぇよ。」

 そして最低限腹が鳴らない様に食べ、付き返した。

「手厳しいねぇ。」

 そして、それを回収し、青年は去っていった。そして入れ違いで数人の男が入って来た。その形相は怒りだった。

「何よ、私を犯ろうって言うの?ロリコン野郎。」

 男たちは額に青筋を浮かべ始めた。そして一人から腹をけられる。

「クソ女、もういっぺん言ってみろ!」

「ロリコン野郎って言ってんの‼」

「おめえは仲間を殺ったんだからな、これくらいは許されてるぜ。」

 私が、塵を見るような眼で見ると、男たちが、わざと目立たない足や手、腹などを殴ったり蹴ったりし始めた。長かっただろうか、短かっただろうか。時間もわからないくらい蹴られた。何もかも忘れそうになるくらい放心した。ただ生きなければならない。その考えが電撃の様に頭を駆け巡り、頭が目覚めてきた。

(もう、あいつら滅多打ちにしやがって…、フォルに似て私も口が悪くなっちゃたのかな?あの時煽っちゃって。)

 夜の闇、月明かりに照らされる中で、そう思っていると、となりの牢屋から。声が聞こえて来た。

「お嬢ちゃん、名前は。」

 壮年の男性の声でそう聞こえてくる。

「ユウカ。おじさんは?」

 別に名乗ったって損はないので名乗ることにした。

「そうかい、俺はボルコス、旅人さ。ここらで調べものがあってな、へまして捕まっちまったのさ。」

「そう。」

 そしてまた静寂が訪れる。ふと、私は一つ頼みごとをすることにした。

「ねえ、私はここから脱獄する気なの。」

「俺にそれを手伝えって?」

「違う。ここに、黒い鎧下騎士が来たら。ここらにいるって伝えてくれる?」

「ああ、それくらいならな。」

 きっとフォルならここまでたどり着くと信じて、何も変わらぬ月光が、ただこちらを見ていた。

「やあ、飯の時間だ。」

 朝、青年の声に起こされる。そして差し出された飯を最低限食べ、返し、青年に話しかける。

「お兄さん、私のことが好きなの?」

 驚きと喜びが混じった視線を私に向けてくる。

「ああそうだとも、だから殺させないのさ。」

 そして私は、わざと苦しいふりをする。

「彼方の仲間に暴力を振るわれて体中痛いの。だから食べさせて。」

 と、普通の人なら怒り狂いそうなことを言う。しかし青年は、にこやかに笑いながら。

「ああ、分かったよ。」

 と言いながら、牢屋のカギを開けっ放しにし、こちらに近づいてきた。その隙を突いて、股を蹴り上げる。

「う‼」

 と言いながら青年が蹲る。

「ごめんなさい。」

 そして、開けっ放しにされた牢屋の出入り口をくぐり、外に出ていった。後ろの青年が喧しく吠える。

「おい!女が逃げたぞ。殺せ‼」

 神様が追い風を私の背中に向ける。それに乗って、私は逃げ回った。










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