Horace Silver / Song For My Father
生まれつきのサボり癖が発動してしまい、このアルバム・レビュー記事、前の投稿から、ひと月以上開いてしまいました。
その間にあったことと言えば、私、現在、千葉に単身赴任中なのですが、自宅は北九州市にありまして、先月末、久々(8か月ぶり)に帰宅してきました。
千葉に来る前は岡山で単身赴任しており、もう結構長いこと1人暮らししているので、自分が結婚していることや父親であることを忘れそうになりますが、妻や娘と久々に会うと、そういえばそうだったなぁ、と思い出します。妻はともかく、娘には「適当な父親ですみません」と謝りたいところです。
そういう感じなので、父親歴17年にもなるのに、父の日に何かを貰うというイメージが全くわかないというのも困った話です。
それとはあまり関係ないかもしれませんが、今回取り上げるのはホレス・シルヴァーの『ソング・フォー・マイ・ファザー』です。
ホレス・シルヴァーは、ブルー・ノート・レコードの「顔」ともいうべき存在で、1952年から27年間の長きに渡って、このレーベルから作品をリリースし続けました。
しかも、ただリリースしただけでなく、「ザ・プリ―チャー」や「セニョール・ブルース」と言ったヒット曲を生み出していますし、1500番台の数多くの名盤を生んだセッションに、ハウス・ピアニストとして参加しており、多大なる貢献をしています。あの歴史的な『バードランドの夜』のピアニストも彼でした。
シルヴァーの持ち味は、何と言っても、そのファンキーなプレイでしょう。ホーン奏者がソロを吹いている時も、「ゴン、ゴーン」という感じでブロックコードを力強く鳴らし、バンド全体を盛り上げます。
このアルバムは、1965年にリリースされています。
シルヴァーの父親は、カーボベルデの出身で、かねてより「ポルトガルの民謡を取り入れてみたらどうだ」とアドヴァイスしていましたが、本人は乗り気ではなかったようです。
しかし、1964年2月にブラジルを訪れ、現地の音楽を耳にしたことで、父親のアドヴァイスの意味に気づき、本作を録音するに至ります。ちなみに、アルバムジャケットに写っているのが、父のジョン・タヴァレス・シルヴァーです。
アルバムは「父に捧げた」タイトル曲から始まります。
テーマの旋律を聴くと、何とも言えないノスタルジックな気分になります。
いつもは軽快でファンキーなソロを奏でるシルヴァーも、ここでは抑えたトーンで味わい深い演奏を聴かせてくれます。続くジョー・ヘンダーソンのテナーも、リーダーの意を酌んだような間を大事にしたソロを吹いています。
ブルーノートは名曲が非常に多いレーベルですが、この曲も、レーベルを代表する1曲にリストアップされる名曲でしょう。
あと、余談ですが、この曲を印象づけているベースパターン(ピアノの左手)は、スティーリー・ダンの「Rikki Don't Lose That Number」で、ほぼそのまま引用されています。
3曲目は「Calcutta Cutie」。
この曲(と6曲目)は、1963年10月録音なので、ブラジルに行く前に録音されていたのですが、アルバムの並びで聴いても違和感はないですし、むしろタイトル曲にも似た哀愁を感じるのは気のせいでしょうか。
この曲のトランペットとテナーは、ブルー・ミッチェル&ジュニア・クックという「黄金期のフロント」なのですが、どういうわけか、2人ともソロはなく、テーマのアンサンブルのみです。
1年後にその他の曲を録音した時、シルヴァー以外のメンバーは全員変わっていることから、音楽的に色々と試行錯誤した時期ということなのかも知れません。
4曲目は「Que Pasa」。
この曲も、ベースラインを奏でるピアノの左手が印象的です。2管が鳴っていても、全体的に抑えたトーンになっているのは、ブラジル帰りのシルヴァーが狙っていたサウンドなのかも知れません。
5曲目は、ジョー・ヘンダーソン作の「The Kicker」。
そんなリーダーの思いを「知らんもんね!」と言わんばかりのファンキー・チューンをぶつけてくるところが面白いですし、それに応えるかのように、ヘンダーソン~カーメル・ジョーンズがソロを吹いている間も、シルヴァーは力強くコードを連打し、バンドを鼓舞しています。
6曲目はピアノトリオによる「Lonely Woman」。
シルヴァーのグループといえばクインテット編成が基本(後にトロンボーン入りのセクステット編成も採用しますが)ですが、アルバムに1-2曲、ピアノトリオによる演奏を収録するのが定番となっていました。
トリオによるスローなナンバーで、アルバムは静かに終わります。
ブルーノートあるあるで、「1500番台というだけで名盤度が上がる」、「4000番台は、数字が小さいほうが名盤度が高い」と感じてしまうのは私だけではないと思います。
このアルバムは4185番という、その基準で言うと微妙な時期の作品ですが、4100番以前の作品にも負けないだけの名盤だと思っています。
とは言ったものの、『「Blowin' The Blues Away (4017)」や「Doin' The Thing (4076)」よりも上?』と聞かれると、ちょっと返答に困ってしまいますが。
まあ、この時期のシルヴァー・クインテットが乗りに乗っていたということの証明なのだと思います。