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「333」
標高三千メートル。
この雪深い季節に、こんなところへ
好き好んで訪れる者も
そういないだろう。
風が大きくうねりをあげながら
谷底のほうへと向かい
わたしをかたち作っているすべての塊を
バラバラにして吸いこもうとしている。
わたしはここへ釣りをしに来たのだ。
渓流などは見当たらないが
わたしはここで 釣りをするのだ。
シーズンでもないのだが やってきたのには理由がある。
わたしは極限状態が好きなのだ。
水のないところで釣りをすると
おもしろいものが釣れるものだ。
わたしは渓流用のロッドを握りしめている。
これがあれば、どこででも釣りはできる。
強い風のなかに 黄色と黒のルアーをつけた
針を 思いっきり飛ばしてみた。
リールが音もなくすごい速さで
クルクルと回転し、風に流されて宙を落下
していたルアーが一瞬で見えなくなった。
底などというものはきっとこの世界には
存在しないのだ。
わたしはなぜだか急に
ドリームキャッチャーを思い出した。
どれぐらい経っただろうか。
リールの回転が静かに止まった。
風の音をききながら しばしのあいだ
こころの静寂を楽しんだ。
楽しみながらドリームキャッチャーに
頭のなかでキラキラひかる色とりどりの
お気に入りのルアーを飾りつけしてみた。
わたしのオーナメントはとても綺麗だった。
握りしめていたロッドになにかが
ヒットしたようだ。
わたしは思いきりリールを巻きあげはじめた
のだが、糸を引っぱった瞬間に
わたしのからだは ロッドを握りしめたまま
空を舞った。
ああ もうこれで 終わるのだ。
静かな安堵と充足感に包まれながら
わたしはとてもしあわせだった。
わたしに触れてくれたすべてに感謝した。
なんていい人生だったのだろう。
そう思ったとき 薄くひかる物体が
わたしの体を すくいあげた。
「333」だ。
わたしは「333」に釣りあげられた。
と同時に
わたしは体内に棲みついている
意思をもった 微生物の
生存するという意思を釣りあげた。
やあ マスター
もう聖夜も終わったし
星も見えない青空だけど
メリークリスマス