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コロナでカミングアウト(1)
画像は、コロナ禍の時に買い集めた沖縄風の布マスク。
不織布マスクの上にカバーとして使ってた(息苦しかった)。
プロフィール設定している自己紹介記事の中で、僕とトナさんは透明人間だと書いたけれど、厳密に言うと、「半透明」である。
僕の母と姉にはカミングアウトしているからだ。
きっかけは、2021年。
新型コロナウィルスが蔓延し、3回目の緊急事態宣言下で東京オリンピックが無観客開催された年だ。
僕とトナさんは、同居4年目を迎えていた。
僕の母は、北国のとある県で独り暮らしをしている。
黒柳徹子と同い年で、黒柳徹子と同じぐらい元気な女性だ。
母の隣町(車で1時間ぐらい)には、僕の3歳上の姉が、子供たちが全員独立した今、夫と二人で住んでいる。
僕の肉親は今では母と姉の二人だけで、昔から、僕らは、とてもとても仲が良い。
どれぐらい仲が良いかと言うと、毎月スカイプ3元中継で1時間以上お喋りが止まらないぐらい。
母はPCが使える人で、キーボードも得意でメールも書ける。
でも、身内と性的な会話をするのには抵抗があるので、自分がゲイであること、同居している同性パートナーがいることは、ずっとずっと(60代になっても)言えなかった。
なので、僕が家族スカイプをしている間、トナさんには別室に隠れてもらっていた。
飼い犬の沙織(仮名)はスカイプで紹介し、母は「可愛いわねえ」と言ってくれていたけど、なんとなくスッキリしない日々が続いていた。
カミングアウトのきっかけは、この年、姉の息子(僕の甥)が結婚することになり、東京で行う挙式に姉夫婦と母を招待したことだった。
親である姉夫婦はともかく、高齢の母まで一緒に行くと言うので、正直驚いた。
は?
緊急事態宣言中の東京に、わざわざ出かけるの?
姉の息子は東京近郊(と言っても車で数時間)の、とある県の企業で働いていて、お相手の女性はその県の出身とのこと。
コロナ禍のため、いつもなら予約が取れない超高額で超有名な東京都心の洋館でガーデンウエディングのプランが格安になっているので、彼女がノリノリで決めたらしい。
彼女の両親や親戚は、全員車で家から東京の式場まで直行できるし、オープンエアの式場だからコロナも安心だって。
でも、姉夫婦と僕の母は、密室である新幹線に長時間乗り、さらに混雑した電車に乗り換えないと、その「素敵な都心の洋館」にはたどり着けないのだ。
姉夫婦は、自分の息子の晴れ舞台だから、命がけでも行きたいという気持ちはわかる。
でも、なんで僕の母まで?
僕の母はウキウキで参加を希望していた。
今でこそ、世間はすっかりコロナ禍を忘れつつあるけれど、当時は「高齢者は特に危険」と言われてた。
僕は心配でたまらなかった。
それと同時に、得体のしれない「怒り」が湧いてきた。
最初は、なんで自分がこんなに怒っているのかわからなかった。
母は、僕が結婚していないことを実は残念に思っているのではないか?
だから、その代償行為として、姉の息子(孫)の結婚式に参加することを楽しみにしているのではないか?
同時に、「なんで奴らは『式』にそんなにこだわるの?」という疑問も湧いた。
だって、男女のカップルは国から無条件で結婚が認められているのに、周囲の人の命を危険にさらしてまで結婚を「見せびらかす」必要なんて、ある?
式なんて、コロナが落ち着いてからすれば良くね?
結婚なんて、役所に書類出すだけで無料で済むじゃん。
僕は、自分でも訳の分からない不快感でいっぱいになった。
いくら親の命を心配してアドバイスしたところで、所詮、未婚で子無しの「二級家族」である僕の言葉には説得力がないのかも?
ちゃんと結婚して晴れ姿を見せてくれる「孫」の我儘の方が優先されるわけ?
今思えば、単なる「嫉妬」だったのかもしれないけど。
脳内で何かがブチっと切れる音が聞こえた。
スカイプの最中に、僕は、大声を上げて怒鳴ってしまった。
まず、僕は母のことがとても心配である、ということ。
そして、万が一、長時間の密室移動で姉夫婦や母が感染してしまったら、お相手の家族だって嫌な気持ちになるんじゃない? ということ。
姉夫婦は軽症で済むかもしれないけど、母は死んじゃうかもしれないんだよ?
もし母が死んだら、相手の家族に「可愛い娘の晴れの結婚式にミソつけられた」って思われるんじゃないかな?
結婚はめでたいことだけど、命を懸けてまで祝いに行く必要はないんじゃないの?
どうして、式を延期するように親として息子を説得しなかったの?
僕のあまりの剣幕に、母も姉もキョトンとしていた。
一方的にスカイプを切断した後、僕は、ちょっと後ろめたくなった。
母のことが心配だ、というのは本心だ。
でも、この怒りの根っこにあるものを、きちんと説明する義務があるんじゃないかと思った。
僕は母と姉当てに長いメールを書いてカミングアウトし、トナさんという同性パートナーがいることを告げたのだった。