“見たままにしか描けない“を克服しよう:1
絵が大好きなのに苦手意識の強い人間が、かなりオトナになってから現在真剣に絵に取り組んでいる。
おかげさまで、見たものはそれなりに描けるようになった(写生・模写など)。
だが、見たものを見たままにしか描けない。
見たままにしか描けない、というのは記号化・簡略化・省略ができないということだ。
他にも弱点だなと思う箇所が見つかった。
構図やバリューに氣を配れない。
見たままを描く場合、そこに注力しなくても描けてしまうからだ。
特にキレイな写真を模写する場合、既に構図やバリューが整っているため、何も考えなくてもそれなりものが出来てしまう。
そのため、自分でバリューを調整したり、構図を作り上げていく能力が育たなかったのだろう。
『習作』ではなく『作品』と呼べるものを描けるようになりたい。
その為には上記に記した能力を育てていく必要があるだろう。
どうしたら、それらを鍛えていけるのだろうか?
どういった練習に取り組み、どのように考えていったのか、試行錯誤の様子をお届けしようと思う。
自分と同じように、記号化・簡略化が苦手な方、構図・バリューの苦手な方、写生・模写はできるけど自分の作品は描けないという方の参考になれば嬉しく思う。
目標『イラスト的な風景画を描く』
今の自分の課題を克服するために、分かりやすい目標を設定することにした。
それが
『イラスト的な風景画を描く』
ということだ。
・何故『風景画』なのか?
モチーフがあるとどうしても形に囚われやすい。
課題以外の部分に時間やエネルギーを割いてしまうのはできるだけ避けたい。
その点、風景(特に自然)は多少形が違ったところで差し障りはないので、気楽かつ課題に注力できる。
それに風景とは広大なものであり、どこかで切り取らざるを得ない(構図を考えざるを得ない)上に、簡略化・省略化をしないと成立しないので、鍛えたいところをピンポイントで鍛えられるのではないかと考えた。
・何故『イラスト的』なのか?
イラスト的とはこの場合、デザイン的に整理された画面でフラットな塗りのことを指している。
デザインするには記号化・簡略化・省略・誇張が欠かせない。
鍛えたいポイントそのものだ。
もう一つ理由がある。
描写に逃げられないこと。
自分の場合はどうも描写に逃げようとする癖があるので、逃げ込めるポイントをなくすためでもある。
それに描写はそこそこ時間を食うので、ここでもまた時間とエネルギーを課題だけに使うことができる。
トレーニングメニューの設定
では、具体的にどのようにすれば『イラスト的な風景画』が描けるようになるだろうか?
とりあえず今の自分の力量を知ろうと、写真を元にイラスト的に描こうとしたらどうなるかやってみた。
ご覧の通り惨敗。なんと無様な有様・・・。
写真は自分で撮った写真を使用したのだが、それも無理があったのかもしれない。特に目を引かない、なんてことはない風景の写真なのだ。
それをイラスト的に仕立てるには、今育てようとしている能力が必要になる。
最初から難しいものに挑戦せず、最初は美しい写真(写真の時点で既に完成されている、作品として完成されたもの)、調整された分かりやすい写真を描こう。
そして、出来る実感が伴ってきたら、徐々に難易度を上げていこう。
基本的に要素は少なくした方がいい。
バリューに専念したいなら色はない方がいいし、階調も出来るだけ少ない方がいい。
そうやって考えていき生まれたトレーニングメニューがこちら↓
メニュー1
【モノトーン4色でサムネサイズで風景を描く】
モノトーンはどのトーンを選んでもよく、白と黒も対象。
4色としたのは、絵として表現するのに最低限必要な数だという考えから。
淡いトーンでまとめてもいいし、ダイナミックに白〜黒でもいい。
どのように見せたいのか?を念頭に、その都度選択することにした。
サムネサイズとしたのは、小さいと簡略化せざるを得ないから。
その為、ブラシサイズも太めに設定。
元となる写真は最初のうちは良いもの(構図が良く、明快であるもの)を使い、大丈夫そうであれば段々と難易度を上げて(写真としての魅力に乏しいものを敢えて使用して)いく。
最初から風景だとハードルが高いと感じたので、目の前にモチーフ(紫陽花のドライフラワー)を置いて描くことにした。
(この時点で、大きいものは難しい、大きい分細かく描かないといけない、みたいな観念があるのが伺える・・・。後日そのことに氣づく)
その次から、写真を元に風景を描いた。
鍛えられた点・新たな視点
メニュー1により、鍛えられた、新たな視点を持った、という点をあげる。
・4つのトーンで構成しなければならないので、どうしてもトーンをデフォルメする必要がある。
デフォルメ具合を決めるには指針が必要で、あらかじめ最初にどういう絵にするのか、どのように見せたいのか、などを決めておかなければならない。今までのように何も考えずにはやれない。
最初に明確な意図を持つ、という訓練、トーンの省略・デフォルメが学べた。
・シルエットが大事と散々口酸っぱくして色々なところで言われてきたが、その体感得た。
シルエットとは、自分が想像していたよりもずっと重要で、繊細なものだった。
・画面の設計を垣間見た
大まかな画面の方が設計がしやすく、この時点でいいかどうかの判別ができて一石二鳥。
(以下の項目はそれに付随して得た視点)
・丁寧と雑の概念が変わった
今まで自分がやっていたつもりの丁寧さは、形に対しての丁寧さ(正確性)であり、構図や画面の設計に対しての意識が完全に欠如していた。
ので、分かっている方から見たら、恐らくとてつもなく雑だったろう。
どうでもいい部分を丁寧に肝心なところを雑にしていたのだと、今となってはよく分かる。
・正確性からの解放
絵を良くしようと思った時、自分には形を正確にすることと描写しかなかった。
だからこそそこを頑張っていたのだが、構図や絵としての設計という新たな視点を得た時、形や描写が画面に与える影響はそれほどでもないのだという事を思い知った。
正確性にそれほどの価値はない(肖像画など似ていないといけない時もあるが)と分かり、そこから解放された。
・今までなぜ省略できなかったのかの理解
何が重要でそうでないのかの判断基準がなかったため、そりゃ出来ないよな、ということが全くもって腹落ちした。
・すぐには無理でも、こうやって一つ一つ段階を踏んでいけば出来そうな氣がしてきて、未来へ希望が持てた。
この段階で既に色々な氣づきを得た。
一歩先へ:試しに色をのせてみる
メニュー1のトレーニングにはだいぶ手応えを感じてきた。
そろそろ次の段階へ踏み出したくなり、やったばかりの④に色をのせてみる。
・・・?
・・・なんか思ってたのと違う。
これはこれで悪くない。
けど、もっとこう、イラスト的な感じにしたかったのに、版画的というか川瀬巴水(そんないいもんじゃないですが)みたいな感じになってる。
それはそれでいいかもしれないけど、目指したいテイストではない。
というところで、はたと思い至った。
『イラスト的な風景画を描こう』
それはいい。
だが、イラスト的といっても色々なテイストがある。
どういうテイストで描こうと思っているのか、明確なゴールが見えていなかったのだ。
なんてこったい。
とりあえず、モノクロの時には氣づかず、カラーにしたら見えてきた点をあげてみる。
・線としても使用している1番暗いトーンの黒が描写的になっている。
これが版画に見える原因だろう。
そもそも白・黒は画面内に使用される面積は極端に少ないはず(例外も多々あるが)。これだけの面積に使用している事がまずおかしい。今後は白と黒の使用は控えよう。
カゲと輪郭線を混同させない(結果的に重なってしまったとしても)。
描写を徹底的に排除する。
・ハイライトが雑で形が見えてこない。
アナログで洋画的な描き方ならそこまで氣にしなくても許されるかもしれないが、イラスト(デザイン的な)の場合、ハイライトの形を的確に丁寧に表現しないと雑に見えるし形態も曖昧になる。
・形の本質を掴み、最大限単純化して描く。
シェイプや構造に注目して、写実的でなくていいので、それっぽく見える形で描く。
形を細かく追っても、ブレにしか見えなかったり、むしろ判別がつきづらくなることがある。
ちょっとやってみただけでも、これだけ沢山のことに氣付いた。
今知れてよかった。
そうじゃないと延々こんな感じで描いてくとこだった。
新たな視点を得てからのメニュー1
カラーをやって氣付いた事を反映させるため、以下
・白・黒は使用しない
・ハイライトの形
・形態の単純化
を意識しながら、もう一度メニュー1をやってみる。
白黒を使用しない分、階調が狭まって表現がもどかしい。
モノクロで完成とするものであればよろしくないが、カラーの下地として考えるならこのくらいなのかもしれない。
(今までは何も考えず、モノクロの画面としてバランスを取っていたように思う)
このはっきりしない画面にこそ、最終的に輪郭線やハイライトを足した時、それらが活きてくるのではないだろうか?
今まで描いたものもカラーにしてみよう!
他にも沢山の事に氣づくかもしれない。
ということで、次のトレーニングメニューに移る。
メニュー2
【メニュー1で描いたものに色をつける】
④はやったので、それ以外をやってみる事にする。
④をカラーでやった時に氣づきを得てしまったせいか、今回はそれほど新たな視点はなかったが、もちろん氣づいた事もあるので、それらをまとめていく。
・イラストとしては黒の面積は少ない方がいい(勿論例外も多々あるが)
前回とかぶるが、ここでも再認識。
カラーの時の黒はどうしても汚く見えやすいし、扱いが難しい。情報量も減る。
・階調の幅がそこそこないと絵としてもたない。
色彩もかなり制限されてしまう。
・色を使う事により、明暗差による対比だけに頼らなくて済む。手段が広がる。
・形のえぐれについて(今回初めて持った視点)
ものというのは球形に近づくようにできており、基本的な考え方としてポジティブシェイプは円、ネガティブシェイプはえぐれた形として認識してよいのではないか?(その方がシルエットを理解しやすい)
手順としても、最初に全体を影色に塗ってから、明るい部分を丸く起こしていく方がやりやすい(影を描こうとする場合、ブラシサイズを小さくしなくてはならなくなる)。これは洋画の基本的な描き方でもある。
一歩先へ:試しに輪郭線を描いてみる
⑤のカラーも予想通りの手応えを感じ、そろそろ輪郭線を描いてみたい思いが沸き上がる。
ということで、①に輪郭線をつけてみる。
・・・?
・・・ここでもまた思ってたのと違うw
なんかスタイリッシュになってるw w
いや、全然悪くないし、ちゃんとイラスト的だし、いいと思うんだけども。
そういや、テイスト決めてなかったな、という事を再度思いだす。
まあ、今やれる範囲でやったらこうなったな、という事だな・・・。
何故スタイリッシュさを感じるのか考えてみた。
・輪郭線が細い
・輪郭線が黒に近い
(試しに明るめの色にしたらスタイリッシュさは軽減した)
・形が細かい
・線に抑揚がある
これはこれでナルホドと思ったが、とりあえず細かいことは置いておいて、⑤に輪郭線を引いてみたい。
①〜④とは違う意識で描いているので、どんな感じになるかやってみたかった。
こうして並べてみると分かりやすい。
左、輪郭線なしの時には見づらさを感じたが、輪郭線を入れる事により絵として成立した感じがあり、尚且つ曇り空のどんよりした雰囲気が映えてきた。
右は右で、こちらも輪郭線を入れた事により明確さが増し、写実感も上がった感じがする。
紫陽花の方は色々整理しないといけなかったが、こちらは輪郭線を加えただけで済んだ。
最初からそれ用に考えていた甲斐あった!
雰囲気的にもこちらの方が求めているものにより近いように思う。
『イラスト的』のテイストを決める
かねてよりきちんと設定されていなかった『イラスト的』問題。
これをはっきりさせて次のメニューに移りたいと思う。
こんな感じで描けたらいいな、というイラストレーターの方がいるので、そのテイストで行こうと思う。
特徴としてはこんな感じ。
・線質は一定で、太めである
・形態はかなり単純化されている
今まで自分がやってしまっていた行動の正反対だな、と思えば分かりやすいかもしれない。
このテイストで今まで描いていたものを起こし直してみようと思う。
つづく