見出し画像

「軌道−−福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」松本創

 奥様と妹さんを亡くした遺族である浅野さんの闘いを中心に、JR西とともに福知山線事故がなぜ起こったのかを追及していくノンフィクション。遺族である浅野さんがJR西の歴代社長と向き合い、事故の社会化を通じて、二度と悲惨な事故を繰り返さないようにしようとする試みについては全然知らなかった。

 JRの天皇と呼ばれた井手正敬さんのインタビューとか、ヒューマンエラーは原因ではなく結果だという遺族とJRの議論結果とか、大変興味深い。また、福知山線事故に先立つ信楽線の事故などJR西の事故の歴史や、現在ではかなり有名になった事故調査委員会の成り立ちなどもまとめてあり、勉強になる。

 それでも、どうにも総論的な話になってしまっており、とても印象に残る本だったかと言われるとなんとも…汗
 もちろん、あれだけの大事故なのでその原因や構造も単純なものにはなり得ない。だから、総論的な話になるのは仕方ないのだけれど…

 経営の問題を指摘しているようにも思えるけれど、どちらかというと官僚的な答弁に終始する経営陣や、私鉄との競争のために安全よりもアーバンネットワーク構想等を優先したのではないか?という指摘があるけれど、もう少し深掘りしていただいた方が読み応えがあったかな〜と思ったり。

 個人的には、ミスした職員への懲罰的意味合いと労組対策の色彩を帯びた「日勤教育」にもっと焦点を当てて掘り下げてほしかった。事故を引き起こした運転士が日勤教育の懲罰を恐れるあまり無謀なスピードでカーブに突っ込んだというのは事故の直接的な原因だろうし、JR西の組織風土を端的に表す例とも言える。また、JRの利用者にすぎない我々も労働者であるから、「日勤教育」は自分の会社組織に引きつけて考えることのできる応用可能で身近な問題だと思った次第。

 同じ大規模事故モノなら日航機事故を描いた「沈まぬ太陽」、JRの闇ものなら経営と労組の暗闘を描いた「暴君」の方が読み応えがありました!

https://www.amazon.co.jp/dp/4101026815?tag=booklogjp-iphone-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?