「旅をする木」星野道夫
キャリアの展望が描けず真っ暗闇の中にいたとき、朝日新聞の安田桂子さんにオススメしていただいた本。自分が読む限り、キャリア論とは関係なく思えるのだけど笑、それでも励ましの意味を込めてオススメいただいたことをありがたく思い、また、自分からは手に取らない類のエッセイなので興味半分で拝読。
表紙を見た妻は「あれ?星野さんじゃん」と。どうやらとても有名な写真家で、その写真は小学校の国語の教科書にも載っているんだとか。これまで出会わなかった自分を呪う。教養として知っておくべきだよね、こういうのって。
本書は、1980年代から90年代にかけてアラスカで暮らす筆者がしたためたエッセイ。前半はアラスカの自然の雄大さを描き、読者にその圧巻さを伝えるような内容。とはいえ、私は、自然の大きさと自分の悩みの小ささを比べて悩みが解消される…なんて経験のない人間で、単に知らない世界が描いてあることに感動。特に北極圏の静謐さが伝わってくるような描写では、心の中でシーンと音がしたような感覚に陥った。
実は読むのに結構苦労したのは、頭の中で情景を思い浮かべられなかったこと。アラスカや北極圏の植生、気候、文化に不案内すぎて単語の意味が分からない。これ、Googleがない時代の人たちはどうやって読み進めていたのだろう?
後半に進むに連れ、自然との関わりだけでなく、筆者とローカルの人々や過去とのかかわりが浮き出てくる。印象的なのは、筆者がアラスカで、世界で多くの人々と友好的な関係を築いていること。過去の辛い記憶を語り、互いの家に招き合い、命を預け合う旅程を共にする。同じ国、同じ文化を共有する人との間ですら容易なことではないのに。
筆者には何か特別の才能があるのかもしれない。ハッキリ言って筆者には全然自己投影も共感もできないくらい、彼我の差を感じる。たぶん能力の差だけでなく、生まれとかもね(筆者は、学費がべらぼうにかかると思われる慶應大学法学部卒業)。でも、好もしい人物だったんだろうなぁ。
その他。
◯ 私があくせく細かな事務仕事しているのと同じ時、同じ地球上で大きなシロナガスクジラが大きな身体を悠々と海面すれすれでたゆたわせている。そういう「もうひとつの時間」があることを気付かせてくれる。
◯ 最後の章。筆者にお子さんが産まれたときの感動こそ、私が唯一筆者と共鳴し合えたこと。出産に立ち会ったかどうかは関係なく、あんなに素晴らしい瞬間はない。
◯ 文庫版の池澤夏樹さんの解説が素晴らしい。さすが作家さん。
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