「動乱の刑事」堂場瞬一
「荒野の刑事」に続く、警察大河小説の2作目。
筆者の堂場瞬一は元々読売新聞の記者で、今は古巣の依頼も受けて小説の書き方講座みたいなこともしているらしいです。それに関連したインタビューが先日読売新聞の夕刊に載っていました。曰く、ミステリーにおいて新たなトリックや意外な犯人を描くのはもう難しいと。意外な犯人と銘打つものは、たいてい味方に反人がいて、多くの場合警察官だったりすると。
そんなインタビューを読んだばかりだったので、本書をミステリーとして読んだときには消化不良感が残りました。事件が完全解決しない、という警察小説としては珍しい結末は、凡庸な小説を書きたくない筆者としての辻褄合わせだったのかもしれません。
ただ、警察大河として読んだとき、戦後の社会の変化や、警察組織の変容をよく描いているなと思います。とはいえ、その変容の中身として主に描かれるのは、2人いる主人公のうちの一人である海老沢が所属する公安警察側で、もう一人の高峰が所属する刑事警察が単純に描かれすぎているとも思いました。戦後になり、刑事警察に主に起こったのは手法の変容だったのに対し、公安警察に起こったのは看板の架け替え、敗戦による否定と共産主義台頭による肯定など大きな変容だったため、小説の題材にしやすいという事情もあるのかもしれません。
さて、これを「大河小説」として読んだとき、本作の白眉はやはりラスト、海老沢と高峰が別々の道を歩むことを決め、訣別するシーンでしょう。実際、本当に組織内でのそんな対立があり得るのかなあ?と勘繰ってしまいますが、1995年の國松警察庁長官狙撃事件で噂される公安部と刑事部の捜査方針をめぐる對立などを聞いていると、そんなもんなのかなとも思ったり。営業と製造・開発の対立みたいなもので、哲学の違いは並行線のままなのかもしれないですね。
いずれにせよ、かつては親友だった2人が訣別するのは、自分の経験に照らしても寂しくて、ドラマチックでした。
果たして、この2人の道は3作目で再び交わるのでしょうか…(交わらないと作品にならないのですが笑)