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ひとり夜咄1 「時間。ダブルブッキングの夜に」

久しぶりにドジを踏んだ。久しぶりと言うより初めてだろう。俺は妻と愛人の約束をダブルブッキングしていたのだ。この場合は妻を最優先しなくては筋が通らない。俺は愛人への言い訳を考えながら彼女のマンションに向かう。この場面でのお土産は気張ってケーキや花束なんては愚の骨頂で、深読みされてしまう。
そんな訳でいつものシャルドネを持参なのだ。

摩天楼の夜景を眺めながらシャルドネのグラスをテーブルに置いて、俺はゆっくり話し出した。
「時計が時を刻むだろう。それって、普段はいつものように正確に流れていてさ。でもね、それが時々速くなったり遅くなったりするのさ。」
俺は煙草に火をつけて話しを続ける。
「それってさ、時間がヤキモチを妬くのさ。」
「だから君が俺を待っている間は出来るだけゆっくりと刻むのさ。それでも時は止まらないから辻褄を合わせる訳さ。」
「つまりね、ふたりが一緒に居るとヤキモチもクライマックスさ。もう、新幹線もびっくりの速さで刻むのさ。」
「そうさ、君と俺は時間に嫌われてるのさ。ツイてないよな。」
「まあ、それだからさ、この次は焦(じ)らしてゆっくりやろうよ」
「急ぐ事はないさ。」
そう言って俺は彼女のマンションのドアにゆっくりと向かうのです。

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