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ひとり夜咄2 「ある女優の死」

生きてよも明日まで人もつらからじこの夕暮をとはばとへかし

今、なぜこの話しを書き直す気になったのか。たぶん、それは彼女がこの世から神隠しに遭ったかのように、姿を消したのがこの神無月だったからなのです。
四月一日が彼女の誕生日で、一年前の四月に一度書き上げて発表したのですが、何故か今も、拭いきれない疑問は残ったままだったからです。四月は言いようのないザラっとした感触なのでした。尚、ここに載せる和歌はすべて「式子(しょくし)内親王」の和歌です。

それは三年前の九月の末に起きたのだ。こんな事が起こり得るのだろうか?余りにも不自然で、不思議な出来事を信じられる筈がない。耳にするだけで、怒りすら湧いてくるのです。当時のスレに書き込まれた、短い文章が忘れられない。
それが次の文章です。
「美貌・お金・夫・子供・仕事・名声…、なんでもある。たぶん、性格も良い人だったんじゃないかな。まさに完璧。でも、『この世の中が、欠点のない人間を生かすはずが無い』ご冥福を祈る」と、書かれてありました。

女優の竹内結子さんが亡くなったのだ。

演じている姿よりも普段の屈託のない彼女のほうが、凄く魅力的で大好きなのですが。彼女の役づくりは天才的に作り込んで凄みを発揮してくるのです。

帰りこぬ昔を今と思ひねの夢の枕ににほふ橘
帰らない昔を今と思って夢をみたの。ああ、目覚めた枕に橘が匂ってるなんて‥‥

だが、素の彼女を知ってる人なら、彼女は無防備で弾けるように明るくて、人懐っこくて、猫みたいにじゃれ合っていて、その姿はとてもかわいいのだ。猫好きの人なら間違いなく一目惚れのようにファンになってしまう。私はCMの仕事で数回しかお会いしていないのですが、それでも強く今も、印象に残っているのです。今回の事(あえて事件と言う)は彼女を知るすべての人が、おそらく言葉無くし悲しみ、怒り、途方に暮れ佇んでいるだろう。私もまさにそうなのだから。「こんな事があっていいのか?」この思いが頭から離れず、無限に繰り返すのです。今までは彼女の事を思い出すと思考停止で、前に進めないでいたから。

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする
私の命よ、絶えるのなら絶えてしまえばいいわ。

つかのまの やみのうつゝも またしらぬ夢より夢に まよひぬる哉
叶わぬ恋でしょうか?逢えない寂しさで、ちょっと見かけたような?でも何も起こらない。見えたと思ったのは夢?

さりともと待ちし月日ぞうつりゆく 心の花の色にまかせて幾ら何でも、もう来ますよね月日は空しく過ぎていけば、貴方の想いが色褪せて行くの「でも、結局来なかったのね‥‥」その夢の繰り返し夢の迷路だわ。

彼女はそんな世界に入り込んでしまったのだろうか?いいえ、そう思う私が夢に迷い込んだのだろうか?この思いはいつ解けるのだろか。あれからどれだけの「時が過ぎた」のか?やっと今になって、疑問は解けぬまま、この女優の事が少し書ける様になりました。この残酷な四月に。

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