桃が巡る話
昔々ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に向かいました。
お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃が「ドンブラコ、ドンブラコ」と流れてきました。
お婆さんはその大きな桃を家に持ち帰りました。……
皆さんもご存じ「桃太郎」の冒頭部分である。
この後、桃から生まれた子供は、桃太郎と名付けられ鬼退治に向かう訳だが、実はこの話には知られざるエピソードがある。
お婆さんは洗濯場の河原から、大きな桃を一個、家に持ち帰った訳だが、我々は如何したものか、流れてきた桃がこの一個だけであると、勝手に思い込んでいる。
バイアスがかかっている訳だ。
ところが実際には、この時川を上流から下流へ流れて来た桃は幾つもあったのだ。
その幾つかの中の一個がお婆さんの家に持ち帰られたのに過ぎない。
お婆さんが無欲であった為、一個を川より岸へ引き上げるのが精いっぱいだった為、桃は傷み易く大きな桃の一個でさえ食べきれそうにないと考えた為……。事情は幾つも考えられるが、真相は不明だ。
兎に角、複数の大きな桃の中の一つが桃太郎の桃であった訳である。
更に補足すれば、実はこの話は、本邦オリジナルのものではない。
明治時代に初等教育のテキストとして、新たに政府が用意した、謂わば新「日本昔話」なのである。
そうである以上、勿論オリジナルが存在する。大英帝国、大ブリテン島のイングランド、ベドフォードシャーに伝わる民話が元になっている。
そしてこの日本の「桃太郎」引用元の話は、サクソン人の時代の話になるのだが、謂わば元ネタだけに、大筋は似たような逸話である。
勿論オリジナルは、主役が「桃太郎」の筈もなく、アングロサクソンの修道士、「ベーダ 」(Bede the Venerable) 、或いは「ベドフォード」という地名の由来とされるサクソン人のリーダー「ベダ」 (BEDA) の出世譚が基本となっている。
なお、ジョージ・ルーカス監督は、この「ベドフォードシャー」という地名からベーダー卿のイメージを膨らませたことは有名な話である。詰り、ベーダー卿という名前、フォース、マスクから漏れ出るシャーシャーいう吐息、それらから連想されたイメージからベーダー卿と言うキャラクター像を固めたというのである。
因みに、桃の流れた川はグレートウーズ川 (River Great Ouse) である。ご存じの通り、イングランドで4番目に長い川だ。
また、近隣地域により、幾つかの多少異なる派生バージョンが存在する。
その中で、先述した川を流れる桃の複数あったという根拠となる、特に有名な話を下記に簡単に紹介する。
ある日、長いながいグレートウーズ川の彼方此方の河原で洗濯をしていた者のうち、上流から流れて来た桃を拾い上げ、それを口にした4人の処女が懐妊した。
軈て生まれた4人の赤児は夫々ロブ、サイモン、ルーク (トム) 、マットと名付けられ、軈て4人は高校で出会い、桃生まれという同じ出自、境遇を持つことから意気投合し、バンドを結成することとなる。
そして2015年、2ndアルバム「Automatic」をリリースし、全英アルバムチャートの6位に昇りつめ、その存在を世に示した。
このバンドこそ、後のオルタナロック / ポストハードコアバンドの "Don Broco" である。
バンド名の由来は、オフィシャルには他の理由が語られ、事実は隠されているが、「ドンブラコ」という川を流れる時の擬音から来ているということは、ファンの間では知られた話だ。