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鳥居の前

犬の像といえば渋谷が有名だろうか。当たり前かもしれないが、犬の像があるのは、何も渋谷に限った話ではない。海外に目を転じればスコットランドのエジンバラもそう。渋谷と同じく忠犬の像がある。犬の像といえば忠犬というのが相場なのかといえばそういうものでもない。

台東区蔵前に神社がある。嘗ては石清水八幡宮といい、蔵前の八幡様と呼ばれた。
江戸時代には境内で雷伝為右衛門など錚々たるメンツが相撲をとっていたという、大相撲の聖地のひとつなのだそうだ。
それよりなにより、この神社が殊に有名なのは古典落語の舞台としてだ。

蔵前神社である。

境内にはブロンズで拵えた一匹の茶色い犬の像がある。大層立派なものである。傍には札が立っていてご丁寧に謂れが書かれている。

はい。

札曰く、古典落語「元犬」に因んでいると。

いや、茶色いですよ……

よもや知らない間抜けは犬だけに居ぬと思うが、「元犬」と言えば白という名の白い犬だ。ここ蔵前神社に鎮座するのはブロンズの茶色い犬。なんでブロンズなんだよ。大理石とか漆喰で鏝絵にするとかあるだろ。いってえぜんてえ何処のどいつだい? ここに茶色い犬据えた間抜けは!

ああ粋じゃねえなぁ。嫌だねぇ。あたしゃあこうゆうの嫌いだね。大っ嫌い。

「元犬」に茶色い犬は居ぬ。なんつって。

……こうゆうのも嫌いだね、はい。申し訳ない。

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