歯の健康はストレスと関係する?歯から始まるちょっといい話。
日常生活のストレスが口腔健康に与える影響は?
昨年から今年にかけての研究発表で、「日常生活のストレスが口腔健康に与える影響」が27万人もの大人数を対象にしたものがありました。
この研究では、ストレスがどのくらいあるかをスコアで分けて、それぞれに口腔上の健康問題があるのかどうかを調査しています。
その結果、ストレスがない人には口腔上の健康問題がある割合が2.1%であるのに対し、ストレスのスコアが最大級の人では口腔上の健康問題がある割合は15.4%にも達していました。
ちなみに、この研究でストレスとしたのは以下のようにあらゆる場面でのものです。仕事のストレスだけではありません。
ストレスの種類
・自分自身のこと(仕事、勉強、病気、自由な時間、生活や住まい、目標など)
・家庭関連(家族との関係、妊娠・出産、育児、家事、子どもの教育、介護など)
・経済的な問題(収入、家計、借金)
・性の問題(恋愛、性、結婚・離婚)
・周囲とのトラブル(人間関係、いじめ・セクハラ)
・その他
「あまり噛まない」→「肥満」→「ストレス」
上記の研究では、「日常生活のあらゆるストレス」と「口腔の健康」は明らかに関係していることが明らかになったのです。でも、いったいなぜ?
ストレスが口腔の健康に影響を与えるメカニズムとして、日常の食生活が挙げられます。
食事中にあまり噛まずに飲み込む習慣は、肥満のリスクを高めることが知られています。
たとえば、女子大生を対象にした研究で、肥満はストレス要因となることが多く、結果的に心身の健康に悪影響を及ぼすと報告されています。
逆に、よく噛んで食べることは、食事時間が延びて満腹感が得られやすくなり、過食の防止にも繋がるため、肥満が抑制されストレス軽減に寄与する可能性があるのです。
よく嚙んで食べることが結果的にストレスを減らす手軽な方法の一つといえるなら、それは大学生などでも取り組みやすい生活習慣の改善策ですね。
歯を磨き虫歯を予防。それは身体や心の健康につながる。
子どもの頃の生活環境や親の学歴が、成人後の口腔健康に影響を与えるという研究もあります。特に、母親の学歴や家庭の生活環境が子どもの口腔健康に影響を与えることが指摘されていますが、それ以上に本人の学歴も重要な要因です。
学校教育を通じた健康教育が、階層間の健康格差を縮小する手段として有効であるとされています。つまり、幼少期からの適切な健康教育が、成人後の口腔健康を守るための土台を作るのです。
2016年に報告された「ライフステージによる日本人の口腔の健康格差の実態」を報告した相田潤らは、「健康格差を解消するには、社会的決定要因に左右されない方法や、社会的決定要因を考慮した方法が必要だと考えられている」と指摘しています。
その一例として、「学校における虫歯予防のための歯磨きやフッ化物洗口の実施は、学校が健康により良い環境となり、家庭でそれらを行う時間や経済的な余裕がない子どもでも恩恵を受けることができて健康格差の縮小につながる」としています。
なるほど。歯を磨いてキレイにしておくことは、虫歯予防の先にある、身体や心の健康につながるということですか。
歯から始まるちょっといい話でした。
参考)
Aoki et al. J Epidemiol.;34(1):16-22, 2024.
長谷川竜之介ほか,日本健康心理学会 第36回記念大会プログラム セッションID: P4-19
片瀬一男ほか編著「健康格差の社会学 社会的決定因と帰結」ミネルヴァ書房, 2022年
相田潤ほか 口腔衛生会誌 J Dent Hlth. 66; 458–464, 2016