古豪エバートンに誕生した現代型ファンタジスタとチームを支える2人のアフリカ人戦士(プレミアリーグ第11節ウェストハム戦レビュー)
11月10日のウェストハム戦、スコアレスドローで終わったこの試合。一見活躍することなかった背番号10番の新たな可能性や、運動量豊富な中盤に見れる重要な役割を紐解いていく。
この試合の一番の見どころはエバートン左ハーフ、セネガル代表インディアイとウェストハム右サイドバック、ワンビサカのマッチアップだっただろう。インディアイは今季マルセイユから加入した新たなエバートンの背番号10番だ。彼の持ち味はやはり背負った状態からでも瞬発力を駆使して一人剥がせる、ネイマールを彷彿とさせるドリブルだろう。その魅力的なドリブルでグディソンパークを歓声で埋め尽くさせる彼が、10番を背負っていることに異論を唱えるエバトニアンはいないだろう。
そんなインディアイと守備的サイドバックの代名詞ともいえるワンビサカのマッチアップはこの試合を見ているすべての人が注目していたと思う。ウェストハムはワンビサカで遅らせ、味方の戻りを待って数的優位を作り、試合が終了するまでインディアイに決定的な仕事をさせなかった。
しかし試合を通してエバートンのチャンスは右サイド、デンマーク代表リンストロムからではなく、インディアイから生まれていた。得点には繋がらなかったがらなかったとはいえ、エバトニアンからの彼への期待感と信頼はこれからも厚くなっていくだろう。
更に私は彼にまた別の期待を寄せている、現代型ファンタジスタの誕生だ。現代、サッカー選手には様々なタスクが与えられている。サイドバックにはビルドアップにおいて指揮を執るように期待され、センターフォワードには組み立ての参加が期待されている。つまり、文字通り何でもできるような選手がトレンドなのだ。しかしロナウジーニョをはじめとするファンタジスタは例外だった。観客をわくわくさせるようなプレーを見せてくれる代償を求める人はいなかった。しかしエバートン監督、ショーン・ダイシは違った。ファンタジスタであるインディアイにも同ポジションであるマクニールやハリソンらと同じように守備のタスクを求め、彼もそれに応えた。彼はファンタジスタでありながら、リードしている際も守備に走り、ハードワークをする。彼がこの活躍維持するのなら、現代サッカーにおいて絶滅危惧種となったファンタジスタが再び受け入れられ、現代型ファンタジスタというスタイルとなって復活するかもしれない。
前半八分、ウェストハムのコーナーキックをクリアし、五分五分となったボールをリンストロムが奪取、セネガル代表ゲイエにボールが渡るとドリブルでスピードを上げる。ゲイエはボールをドリブルで運んだ後、逆サイドを走るマリ国籍のドゥクレにスルーパスを送る。結果として、ドゥクレのシュートは戻ったサマビルにブロックされるも、カウンターを完結することができた。
このカウンターは元々、コーナーキックをクリアした後、五分五分となったボールに対するゲイエのプレスから始まった。ゲイエはリンストロムがボールを奪いきった後も走りを止めることなくカウンターに繋げた。今期のゲイエは昨季とは異なり、守備面だけでなく攻撃面でも活躍しているという印象を受ける。
カウンター時、守備時のポジションから最前線まで駆け上がってくるドゥクレも素晴らしかった。これほど走ってくれるトップ下の選手はプレミアリーグ全体で見ても数えるほどしかいないだろう。この光景は昨季からも見られ、ブライトン戦では同じような形で逆サイドを駆け上がるドゥクレにクロスが上がり、ボレーシュートで仕留めるというシーンがあった。
今季、ドゥクレはボール保持時の雑さからベンチを温める試合が増えている。しかし試合に出た際の存在感とゴールへの期待感は別格で、やはりエバートンの大黒柱は彼なのだと思い知らされる。
ゲイエとドゥクレ、この二人のアフリカ人戦士は互いに30代に突入しており、機動力が一番の武器である二人にとって今シーズン限りでさえプレミアの舞台で戦えるという保証がないことがエバトニアンの悩みであろう。
この男にも触れないといけないだろう、イングランド代表正ゴールキーパー、ジョーダン・ピックフォードだ。ここ数年は持ち前のロングキックだけでなく、正確なミドルパスも駆使してチームのビルドアップに貢献している。そんな彼は今節もエバートンを救った。87分ウェストハムのショートカウンターから、ダニー・イングスにボックス内からシュートを打たれるも右手でセーブ。選手が密集していて視界が悪い中のセーブ、流石としか言いようがない。
さらにこの被カウンターの場面で戻ってきている選手にも注目したい。シュートを打たれる前のプレスバックにはインディアイ。シュート後のボックス内には途中出場の左ハーフ、ジャック・ハリソンの姿がある。これぞダイシフットボール、攻撃的な選手も献身的に守備に参加するエバートンの魅力の一つだ。
94分には再びボックス内からイングスにシュートを放たれる。ボールはブロックをしにいったタルコフスキーの股下に当たってコースが変わりながらエバートンゴールに向かって行く。しかしここもピックフォードが体が流れながらも左手を残してセーブし、コーナーキックに逃れた。このセーブにはウェストハムのボーウェンも頭を抱えて信じられないと言った表情だ。
こうしてエバートンはまたしてもピックフォードに救われ、勝ち点を積み重ねることができたのだ。
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