クラマラス 26話 (長編小説)
メンバーに聞いてもらう。弾き語りの形で。
昨日、谷岡さんの言葉で爆発した思いを書き記したものだ。
「なんだか、すごい曲ですね」
大原が言ってくれた。
「うん、なんか心が打たれた」
「葛西さんの今の心の中ですか?」
浦野と新谷が聞いた。
「うん、それもあるし、北野さんの気持ちかもしれないし。みんなのそれぞれの思いかもしれないし」
「だから、響くのかもしれないな」
浦野が言ってくれた。
「ありがとう」
「これで完成?」
「うん。でももうちょっと手直しをしたい」
「わかった。大丈夫。それは葛西に任せるよ」
形になった。北野さんにも聞いてほしいな。
浦野の携帯電話の通知音が鳴る。
「あ!葛西!北野さんが部活出てるって」
「え?そうなの!?」
「そうらしい」
「・・・ん?なんで浦野さんがそんなこと知ってるんですか?」
確かになんで浦野が知ってるんだろう。
「・・・なんでも良いじゃん。ほら、葛西行ってこいよ」
「なんで?」
「え?」
「北野さんが部活に復帰したら邪魔しちゃ悪いよ。それよりそうやって話を変えようとしても駄目だからな。浦野、なんで北野さんが部活に復帰したのを知っているのか吐きな」
「いやいやいやいや、たまたま偶然、筒井さんの連絡先を知っているから。送られて来たんだよ」
「ん?」
「ほら、だって葛西って北野さんの連絡先を知らないじゃん。それで吹奏楽部とはこれまで葛西と北野さんの間で連携があったじゃん。それをもっと上手く簡単に俺の方からも連携を取りたくて筒井さんの連絡先をね、業務上仕方なくだよ、仕方なく」
「何をそんなに必死になってるんですか?別にそこまで連携は取らなくても大丈夫でしょ?」
新谷はそう言う。僕たも同じ気持ちだ。浦野は必死に誤魔化そうとしているがもうみんなが浦野の気持ちを知っている。なんか虚しいぞ浦野よ。
僕は部活の帰り道。いつものように北野さんと帰り、部活に出た事を尋ねた。
「部活復帰したんだってね」
「え?なんで知ってるの?」
「浦野から聞いた。浦野は筒井さんから聞いたって」
「あぁなるほど・・・まだね。ステージに立てるかはわからないけど、それでも『やってみたいな』って昨日思ったんだ」
「そうか、凄いね、一歩踏み出せたんだ」
「二歩も三歩も下がっての一歩だけどね」
「でも進んだことには違いない。それは凄いことだよ」
「うん、ありがとう凄い事だよね。私は凄い事をしたのかな?・・・葛西くんは?曲書けた?」
「うん、出来そうだよ。後は今日メンバーの前で歌ってみた時に感じたことから変えた方がいいって思ったところを変えていく」
「そうか、お互いに次に進めたって感じ?」
「そうだね、次の一歩がどうなるかわからないけど、やってみようよ」
「うん。恐れずにね」
次の日から僕たちはそれぞれの場所で練習を始めた。