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嵐の夜に②(短編小説)
自分を捨てて誰かに尽くしてしまい最後は傷つき私の前で泣く。そんな美緒に過去に何があったのか聞きたく、私は尋ねた。
「私ね。
そう言って美緒の話が始まった。
「わかってるの、私が何故こうなのか、私の親は仲が悪くて・・・いや仲が良かったのかな?わからないけど。でも私は家族のことを愛してるんだよ。私の父親はなんか大きい会社の重役でいつも出張に行ったり、家に帰ってきてる時でも飲み会があるって言って遅く帰ってきたり。お母さんはそれに何も文句を言わずに私たちを育ててくれた。私が小学校低学年くらいの時から父親がねよく浮気をしていた。お母さんはねそれを知っていて激しく怒ってた。『あんたなんか殺して、私も死んでやる!』って私たちの事も殺して一家で心中するって。私は嫌だったなぁ死ぬのは。でもそんなことにはならなかった。良かったと思った。次の日にはお母さんは父親と仲良くしていて、私たちと一緒に朝ごはんを食べて会社に行って、昨日のことは無かったようになっていた。そんなことが何度も続いたんだ。お母さんは私たちに何も言わなかったけど、何か2人の中であったんだろうなって・・・」
ここまで黙って聞いていたがなんだそれは。それは歪だ。
「美緒?美緒のお母さんは美緒のお父さんと別れたり、浮気をしたことに対して何か罰のようなものを与えたりしなかったの?」
「・・・うん、そんなことは無かったよ。お母さんは父親のことを大好きなんだから」
「美緒は?」
「うん、私も家族のことを愛してるよ」
「それで?」
「お母さんは少し体調が崩れてそれから私たちに色々言ってくることが多くなった。なんかね例えば物を落とした時にはすごく叱られた。頭を叩かれた事もあったなぁ・・・でもね、そのあとすごく謝るの『ごめんね、私には美緒が一番大切で愛してるから厳しくしてしまったの』ってそれが嬉しかった。だから私はお母さんが嫌だと思うことは絶対にしないって思ってきた」
「あの、ちょっと待ってさっきから『私たち』って言ってるけど、もしかして姉妹とか兄弟がいたの?」
「え?言ってなかったかな?2つ上に姉がいるよ」
大学時代からの付き合いで今年で7年近くになる。そんな話初めて聞いた。
「全然初耳なんだけど。そのお姉さんは今どうしているの?」
「・・・わからない。私が大学に進学した頃から家に帰ってこなくなっていたから」
この家庭は私の想像を絶する程の窮屈さを持っている。それは多分虐待と言われるようなもので、父親も母親も美緒に対して虐待行為をし続けてきたんだ。美緒の姉はそんな家庭が嫌で逃げ出したんだ。でも美緒はまだ囚われている。
「美緒、家族のことで何か困ったことがあるなら私に教えて欲しい」
「え?う〜んそうだなぁ・・・来月お母さんの誕生日なんだけど、誕生日プレゼント思いつかないんだよね、何かない?」
「そんなことじゃなくて!」
つい、大きな声を出してしまった。
「ごめん、大きな声を出すつもりはなかったんだ。ごめんね。でもね美緒多分美緒も心の奥底でわかってることだと思うんだけど、美緒のご両親は仲が悪いと思うよ。お母さんは働いているの?」
「いや、ずっと専業主婦してる。憧れてるんだよねぇ私も」
そうか、専業主婦をしていた母親は父親の浮気を知って別れたくても娘2人を連れシングルで生きていくのに困難さを感じたのかもしれない。だから別れるより父親を許しておく方を選んだ。その結果の歪みは全て美緒や美緒のお姉さんの元に向かったのか。
「美緒、私はね美緒のお母さんはお父さんと別れたほうがよかったと思うよ」
「は?なんでそんなこと言うの?」
「ごめんね、でも多分美緒のお父さんの浮気に対して毅然とした態度で別れを切り出して美緒たちに『これが罰です』と示したほうがよかった思うんだ。」
「なんでよ、里奈にだから話したのになんで里奈はそんなこと言うの?私たち家族のことをそんなに言うなんて酷いよ!」
「ごめん!でもね!」
「でも何?!」
「でも・・・美緒さっきから父親って。お母さんのことはお母さんって呼んでるのに、父親のことは父親って呼んでる・・・それって心の奥底では父親に対して距離を置きたいと思ってるからでしょ?『父親があんなことをしなければお母さんだって、私に厳しく関わる事もなかったかもしれない』って思ってるんだよ」
「そんなこと!・・・そんなことない!。私は家族を愛してるんだ」
「それは美緒がそう思いたいからじゃない?本当は愛したいんだって」
「私は、そんなことない。私は家族を愛してるんだよ」
美緒はこのままでは壊れてしまうかもしれない。私には何が正しいのかわからない。このまま話をしていっても良いのか。全部やめて謝ったほうがいいのか。
「美緒、私はね、美緒に自分を大切にしてほしいと思っている。お母さんが自分を犠牲にして美緒たちの生活を守ったのはとても尊い事だと思う。でもそのおかげで美緒は苦しい思いをした。美緒とお母さんの人生は別物なんだよ。お母さんと同じことはしなくてもいいだ。美緒の価値は美緒自身が決めていいんだよ」
「私は・・・」
そう言いながら美緒は途方に暮れた表情になった。
「美緒、私ね・・・
そう、今度は私が話す順番だ。