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クラマラス 1話 (長編小説)

放課後、特に感慨は無い。授業が終わってそれぞれ部活動をしている時間、僕は?

 部活動はしていない、帰宅部ってやつだ。しかし暇な生徒は駆り出されて、資料をホッチキスで止める作業をやらされていた。黙々と流れ作業をし、帰ろうと思った。

「あ、忘れ物・・・はぁ、めんどくさ」
 僕は忘れ物を教室に取りに行く。

 教室に入る。一番端の窓側、窓と窓の間の壁の所。そこが僕の居場所だ。

 ここは嫌いだ、せっかくの窓側なのに外を見られないなんて全く残念だ。そんなことを考えながら歩を進める。

 ふと教室の後ろのロッカーに置いてあるアコースティックギターに目が奪われた。そう言えば今日軽音部に所属しているクラスの女子が持ってきて休憩時間に弾いていたっけ、下手くそだったけど一生懸命さとみんなと楽しく歌っていた明るい音色が印象的だった。

 意識はそれに持って行かれ、体はロッカーの前に。
手はアコギのネックを握っていた。
「全く、これは病気だな」なんて苦笑する。ギターを弾いて見たくなる病、ギターを持ってみたくなる病、言ってしまえば依存症なのかもしれない。

 そのまま近くの席に腰掛けて弾いてみる。一応周りに誰もいないことを確認し余り大きな音にならないように注意して弾いてみる。とりあえずの手癖のようなもので弾く。同じギターなのに弾く人によってこんなにも音が違うものなんだなと愕然とした。

 僕のギターの音は寂しい、いや、虚しいかな。もういい、早く帰って自分のギターを弾こう。僕は家路を急いだ。


 衝撃を受けた。4月、寒い日もあれば暑い日もある。こんな気まぐれな気候が好きだ。僕は3年生になっていて体育館では新入生に対する部活動紹介をしていた。いつもと特に変わらない行事。ただ何か慌ただしそうに生徒会の人たちが動いていただけだった。

 楽しみにしていた軽音部はあまりよろしくはない。もうちょっと見てくれてる人を考えた選曲にしたらいいのに、こんなのは自己満足だ。
 
 帰り。それはいつものようにギターを弾きたい欲の為、家路を急ごうとしていた時だった。校門前、吹奏楽部が集まって演奏を始めた。呆気にとられその場を動けずにいた。女子が大きな声で話しだす。

「部活動紹介では演奏出来なくてごめんなさい。今日のためにしっかり練習してきたのに、事情がありまして、演奏出来ませんでした!ただそれで終わりになってしまうのは本当に悔しいのでここでやっちゃいたいと思います!」

 そう言って吹奏楽部は演奏を始めた。その演奏は今まで聞いたどの音楽よりも清々しく芯の強さを持っていた。特にソロのトランペットさっき演説していたあの子が吹いている。なんでこんな音が出せるんだろう?そんなことを思っていたらいつの間にか音が止んでいた。

 先生が止めさせていた。すごすごと撤去していくのを茫然と見ていたら、さっきのソロの女の子が

「聞いてくれたんだ!ありがとう!吹奏楽部とっても楽しいよ!ぜひ見学でもいいから見にきてね!2号館4階の音楽室だよ」

 と一年生の子に声をかけていた。ちょうど人1人分間を開けて立っていた僕にも演説の子が何かを喋りかけようとしたのだが、何故だか驚いた表情で固まってしまった。
 
 口を開きかけたが先生の「北野!お前が首謀者か?」の怒声にかき消されてしまい、北野と呼ばれた女子は先生の方に走っていってしまった。「なんだよ?」と思いながらも今日はいい曲が書けそうだと確信を持って家路についた。



 あの人だって思った。後ろ姿しか見えなかったけど何故かわかった。あぁ・・・帰ってしまった・・・
「おい、聞いてるのか?」
「あ、はいすみません」
「お前はなんでこんなことをした?」
「だってせっかく練習したのに発表できないなんてもったいなかったんですもん」
「それなら定期演奏会とか文化祭とか発表できる場所はあるだろう」
「でも今じゃなきゃダメだったんです」
「だからなんでだ?」
 そう岩野先生が言ってる後ろで吹奏楽部の顧問の滝野先生がやってきた。
「岩野先生、ありがとうございます、ここは私が預かります」
「しかしですね・・・わかりました。顧問の先生に預けます。お願いします」
 岩野先生は滝野先生に弱い、多分好きなんだろう。

 吹部のみんなが言っている。中にはそれが『気持ち悪い』とか、『うける』とか言っている人がいるが、誰かが誰かを好きになるって当然のことなんだと思う。滝野先生はいい先生だ。惚れる気持ちもわかる。
「北野さん、この事件はこの間のことが原因?」
「はい、まぁそんなところです」
「みんな納得してくれてたはずだったんだけど」
「そうですね」
「北野さんは納得出来てなかった?それなら言ってくれれば良かったのに」

 この先生はいつもこういう感じだ、民主主義ってやつだろうと思うけど、みんなが同じ方に向くなんてことが本当にありえるのだろうか 。

「先生はあの時にコントラバスがいなくなってはバンドとしてはまとまりがなくなる。だからどうするかをみんなに聞いてそれで演奏をしないってことになりました。それを先生がフォローしてくれていたのも知っています。でも。」
「わかりました。そこまでわかってしたことならきっと意味があなたの中にあったのでしょ?」
「はい」
「無理に聞き出そうとはしないわ。教えてくれるとありがたいけどね、それは黙っててもいい」
「はい、ごめんなさい」
 先生の理解が胸に刺さる。 先生の深呼吸が聞こえた 。

「さぁもうこれで事情聴取は終わりです。で、どうだった?演奏してみた感想は?」
「はい、やっぱり外で演奏するのは気持ちがいいです。ただ、コンバスが無いのは心許ないです」
「そうね、これで一年生入部してくれればいいんだけど」
「そうですね」
「今日は片付けをしてもう帰りなさい」
「はいわかりました。失礼します」

 帰り道、私はトランペットのことと、コンバスのいないバンドのことと、それからあの日見た後ろ姿と今日見た顔を脳味噌の中で合成しながら作り上げた彼のことを考えながら家路についた。

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