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スパイラル(短編小説)(ショートショート)
「え?そいつ誰?」
「あ〜友達?」
「いやいやいや友達?2人で?」
「だよ?友達とも2人で居酒屋くらい来るでしょ?」
「・・・今日、仕事遅くなるって言ってなかった?」
「あ〜そうだねぇ・・・」
「俺、外そうか?」
彼女とは2年と少しの付き合いになる。最近はお互い仕事が忙しくてすれ違うことが多かった。今日はうちに来ると言っていたのに突然「仕事が遅くなるから今日は無理」と連絡があって、仕事なら仕方ないかと「了解」とメッセージを送る。暇だから居酒屋で1人呑もうと思って立ち寄ったのだがこういうことだ。
「いやいやいや貴方もいてください」
「ちょっと彼は関係ないでしょ?」
「関係ないことはないでしょ」
「あぁやっぱ俺外れるわ」
「いや、だからこの状況がどういうことか説明してくれないと!」
「だから!友達同士で飲みにきたんだって!」
「仕事で遅くなるっていうのは!?」
「そりゃ・・・仕事仲間だから今日はとも君家に行かないことになったし、仕事の相談をしようと思って」
「仕事仲間?今、友達だって言ったよね?」
「あー!だから仕事仲間で友達なんだって!」
なんなんだこいつは、嘘をつくならもっとマシな嘘をつけよ。
「貴方は梨奈に彼氏がいるって知って2人で居酒屋に来たんですか?」
「え?え〜と・・・」
梨奈の顔を見てどう答えるか考えるなよ。この仕草でもう決まったじゃないか。
「・・・もういいです。さようなら」
「ちょっと待って!とも君!私浮気してないからね!」
何を言ってるんだこいつは・・・
「あぁそうですか、もういいです。さようなら」
もう疲れた。僕はそう言って席を外そうとした。
その時突然声が聞こえた。
「え?なんで?」
そんな男性らしい低い声が僕の後ろから聞こえる。店員さんの威勢の良い声とお客さんの雑談、テレビの音でごちゃごちゃな居酒屋の中で間違いなく僕たちのテーブルに向かって放たれる声。彼女の方を見る。驚きで表情が固まっていた。隣の仕事仲間で友達らしい彼を見る。多分僕と同じ表情をしている。
僕は後を振り返った。
そこにいたのは男女のペア。
?????
「え、なんで・・・」
梨奈が驚愕の声を上げる。
男女のペアは女の方がみるみる顔を強張らせ、男の方は途方もない表情をしている。
「最悪!信じてたのに!」
梨奈が叫んだ。
僕はもう何がなんだかわからない。
「違うんだ!」
そう男女ペアの男が叫ぶ。
「『違う』って何よ!」
隣の女が叫ぶ。
「信じてたのに!」
そう言って梨奈は泣き出した。
僕は多分僕と同じ心境であろう梨奈の隣に座っている男性に目をやる。彼もどうしていいかわからず。視線を向けた僕の目を見て目で訴えていた。『これは何?』と。
僕だって知ったことか!
「もういい!やっぱり信じた私がバカだった!」
梨奈はそう言って立ち上がり、隣の男を突き飛ばし簡単に倒れた彼からできた隙間を縫って居酒屋から走って出て行ってしまった。
僕は言葉をかけることなど忘れ今の状況を全く受け止められずにいる。
「私も行くわ」
そう言って男女ペアの女の方も居酒屋から出て行ってしまった。
「ちょっと待てよ!」
そう言って男女ペアの男の方は女の後を追って出て行ってしまった。
僕と名前を存じ上げない初対面の彼と2人きりになってしまい、僕たちは全く処理しきれない一連の事をどうにか処理しようと静かに座っている。
「あの・・・」
彼が声をかけてきた。
「どういう事なんでしょうか?」
知るかよ!と思う。しかし気持ちはわかる。もう自分だけでは処理しきれない。
「僕にもよくわかりません」
「え〜と貴方は梨奈の彼氏なんですか?」
「だったはずなんですど、貴方は?」
「・・・俺も彼氏です」
「そうですか・・・でも多分梨奈のあの様子ではさっきのあの男が」
「やっぱりそう思います?あの男が本命ですよね?」
「そう思います。僕たちは浮気相手って事ですか?」
「そういうことになりますね」
最近仕事が忙しいと言っていたのも3股していたからなのか。
「でも。梨奈の本命には別に彼女がいましたよね?」
「いましたね」
「なんなんですか?」
「なんなんですか?」
謎にシンクロしてしまった。多分こういう時は偶然のシンクロを笑うのだろうが僕たちはそんな余裕もなければそんな間柄でもない。
「・・・え?一緒に酒呑みます?」
「・・・呑むわけないでしょ」
「ですよね」
僕たちは居酒屋を後にした。
何も食べぬまま飲まぬまま居酒屋を後にし街灯に照らされた夜道を歩きながら思う。・・・『あいつ行動範囲が狭すぎだろ、なんで浮気相手とよく行く居酒屋被せてんだよ』と