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商店街②(短編小説)(ショートショート)


私は母親に連れられて家から近くの行くことの無い商店街に来た。ここでは謎のコミュニティが形成されているようで私はちょっと興味が出てきていた。

「あら、伊藤さん娘さん?」
「そうなんですよ山田さん、真衣挨拶は?」
「あ、こんにちは」
「こんにちは〜」

この人もお母さんのことを知っている。なんなのだここに来ると色んな人から声を掛けられる。恥ずかしもあるが心地は良い。

「そういえば昨日、そこのご主人体調崩したらしくて、入院したんですって」
「え?そうなの?確かにちょっと前からお店休みがちだったからねぇ心配ねぇ」
「本当よねぇ。それでね・・」

長話モードに突入か。しかし『そこの』と指差されたお店は呉服店だ。『ザ・おばちゃん』の服が売られている。お母さんはまだそんな『ザ・おばちゃん』みたいな服は着ておらず、私と同じようなサッパリとしたファストファッションに身を包んでいるのでこの服屋さんとは縁がないように思えるのだが・・・しかしそのことを問おうとしても母は謎のおばちゃんと話し込んでしまっていて私が入り込む余地はない。あ〜暇だな。

私はこっそり母から離れて商店街を探索することにした。一応『ぶらぶらしてくる』とメッセージは送っておこう。

商店街は思ったよりも横幅が広く、思った通りに寂れていた。開店してるお店と開店しているお店の間2件くらいはシャッターがしまっていてまさにシャッター商店街を呼ぶにふさわしい様相を呈している。

「は〜さびれてんねぇ」

そんなことを独言てみる。

「あれ?真衣?」

「え?なに?」
私はちょっと頭の中がパニックになった。こんな場所で母ではなく私の名前を呼ばれる?私はこんな商店街に知り合いでもいたのか?いやいないはずだ。私を呼んだのか?それとも違う『まい』?

その声の方に恐る恐る振り返ってみる。人違いだったらとんでもなく恥ずかしいのであくまで偶然振り向いたように演技をしながら。

「やっぱり真衣じゃん!」

「え?・・・真里ちゃん?・・・え?何やってんの?」
「え?何って、バイト」
「へ?真里ちゃんバイトしてたの?」
「してたよ、知らなかったの?」
「うん、知らなかった」
「ひどいなぁ」
「ごめん、え?でもどこで?」
「そっち行ったとこのカフェで」
「へぇ・・・」

真里ちゃんは中学から一緒で今も同じ高校に通っている。学科が違うので2年生にもなればそれぞれの学科にそれぞれのコミュニティが出来て疎遠になってしまっていたのだが。

「真衣のお母さんうちのお店、よく来るよ」
「え?!うそ、まじで?」
「うん、よくコーヒーとケーキのセット頼んで食べてるよ」
「はぁ?全く、私には『甘いもの食べすぎると太るぞ』とか脅すくせに」
「おばさんに似てる〜」
そう言って真里ちゃんはケラケラ笑った。待て、私は母のモノマネなんてした覚えはない。

「・・・うちの母親とよく話するの?」
「うん、するよ。あ、今買い出しの途中で戻るところだからお店にこない?」
「あ〜う〜んでも〜」
「・・・まさかお金持ってない?」
「あ〜はい、そのまさかです」
「ウケる。いいよ後でおばさんに貰うから」

え?そんなに真里ちゃんとうちの母は仲良しなのか?

「うちの母と仲良いの?」
「と言うより常連さんだからね、仲良いとは違うかもだけど関係性としては仲良い部類なのかな?」
「ん?ちょっと意味わからん」
「だね」

私たちは真里ちゃんのバイト先のお店に向かいながら話をした。

「ねぇ真里ちゃん、この商店街ってみんな仲良いの?」
「う〜ん、仲良いって言うより、この商店街古いじゃん?だからお店のひともお客さんもみんな顔見知りみたいな感じであんまり区別なく接してるんだよね」
「あ〜なるほど」
「しかも寂れてるから商店街の組合?みたいなので皆んで盛り上げよう!ってなってるらしい」
「へぇ・・・全然盛り上がってるように見えないけど・・・」
「そうだよねぇでもね私が働いてるカフェはこの春からオープンしたお店でちょっとずつ若者も商店街に戻ってきてるらしいよ」
「そうなんだ」
「そうなんだって真衣もでしょ?」
「え?あー私は違うよ、私はお母さんにくっついてきた」
「・・・暇なの?」

痛いところをつく。

「・・・うん、暇なの」
真里ちゃんはまたケラケラ笑った。歩きながらお腹を抱えて下を向いているのでちょいと危ないなと思っている。

「戻りましたー」

真里ちゃんは元気よく扉を開けてカフェに入った。
扉を開けた途端『カランカラン』と鳴る謎の金属が揺れるのを見ながら私も後について店内に入った。コーヒーはあまり好きではなく店内に充満するコーヒーの匂いにくらくらしながらもどことなく甘い香りやまだ新しい建物の匂いに心が弾んだ。木の板を組み合わせたような壁に天井にはくるくると回る金色のプロペラ、太陽の光が差しこみ、これまた木の感が強いテーブルの艶を柔らかく演出している。

「あー真衣適当に座ってて。何飲む?」
「え、あ、そうだね」
真里ちゃん、バイトなのにどこかオーナーのような振る舞いをしているが大丈夫なのか?

「じゃぁ、こ・・」

「なんだ!来てたんですね!」

突然真里ちゃんの声で私の言葉はかき消された。

「真衣!おばちゃん来てるよ!」

「は?」

お店の一番奥、窓から差し込む光が上手いこと陰になっている場所に私の知ってる人がいた。

「お、お母さん・・・」

母は何故か「ニヤリ」と笑った。


〜続く〜

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