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止まれ(ショートショート)

「『止まれ』って言葉強すぎない?」

「は?そんなこと考えたことないけど」

「だって命令だぜ?『止まれ』って」

「いや、そうだけど危ないから命令口調になるじゃん。目の前を歩いている赤の他人に横から車が接近してきたら『止まれ!』って叫ぶでしょ?」

「むしろ叫ぶ?『止まれ!』って?」

「叫ぶだろ」

「僕だったらその状況に驚いてしまって固まってしまうかもなぁ」

「おい、目の前を歩いている赤の他人を見殺しにするなよ」

「う〜んそれでも『止まれ!』って言うのは言い辛いと思う」

「じゃあなんならいいんだ?・・・『止まって!』なら少し和らいでいると思うけど」

「あ〜それなら目の前を歩いてる赤の他人に対してあなたの事ですよってはっきりと分からせた方がいいんじゃない?」

「例えば?」

「『そこの方止まって!』かな?」

「『そこの方』って言うと誰なのか分からないんじゃない?」

「あぁなら『あなた!そこのあなた!?そこの黄色いネルシャツを着ておられるあなた?止まって!』」かな?」

「黄色いネルシャツ?・・・」

「うん、『あなた!そこのあなた!?そこの黄色いネルシャツを着て、ベージュの長ズボンを履いておられるをそこのあなた?止まって!』」

「黄色いネルシャツにベージュの長ズボン?・・・」

「うん、『あなた!そこのあなた!?そこの黄色いネルシャツを着て、ベージュの長ズボンを履いて腕にはアップルウォッチみたいな四角い腕時計をつけておられるそこのあなた?止まって!』」

「あぁあのスポーツする用のな、スマートウォッチな」

「そう『あなた!そこのあなた!?そこの黄色いネルシャツを着て、ベージュの長ズボンを履いて腕にはアップルウォッチみたいな四角い腕時計をつけて、ふんわりとしたパーマを当てたボブヘアで年齢に負けないって気概が伝わるがあえて若作りしようとせず自分の年齢に合わせたおしゃれに気を遣っているおられるそこのあなた?止まって!』」

「なんで『ハルメク365』の特集みたいな言い方?黄色いネルシャツ着てるんだろ?」

「そう『あなた!そこのあなた!?そこの黄色いネルシャツを着て、ベージュの長ズボンを履いて腕にはアップルウォッチみたいな四角い腕時計をつけて、ふんわりとしたパーマを当てたボブヘアで、年齢に負けないって気概が伝わるがあえて若作りしようとせず自分の年齢に合わせたおしゃれに気を遣っていて、ちゃんと2ヶ月に1回はトリミングに連れて行っているわんちゃんのお散歩をしておられるそこのあなた?止まって!』」

「あぁ、犬の散歩してたのね」

「うん『あなた!そこのあなた!?そこの黄色いネルシャツを着て、ベージュの長ズボンを履いて

「あの!!・・もういいですか?・・・もうその辺でいいですか?・・・お願いします」

「え?まだネルシャツの下には白と黒のボーターのシャツを合わせて色の取り合わせにも気を遣っている、これが私のワンちゃんの散歩スタイルよって体全体で表現しているそこのあなたって」

「もうやめて〜わかったわかったから〜。頼みます〜もうやめてください〜わかりました〜」

「・・・わかった・・・しかしあれだな。そんなに長いと言い終わる前に車にぶつかるな」

「『寿限無』かよ」

「は?なんて?」

「いえいえ。なら目の前を歩いている赤の他人に危険が迫ろうとしている時になんて言ったらいい?」

「『おい!どこ見て歩いてんだよ!止まれ!』だな」

「いや1番、辛辣・・・」

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