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合わない2人①(短編小説)(連作短編)(ショートショート)

 まずい、このままではまずい。そろそろ結婚をしないと子どもを産むまでのタイムリミットが来てしまう。
 私たち女性には子どもを産むという機能が備わっている。しかしそれはいつでも産める訳ではなく、30代後半くらいから段々と妊娠しにくくなるのだ、もちろん今の技術なら40歳を過ぎても妊娠出産ができるのだが、やはり私は今のうちに産んでおかないと出産後の子育ての期間を考えると体力がもたないと考えている。

 「ねぇ?私そろそろ結婚に向けて真剣に考えたいんだよね」
日曜日私は職場の同期の彩とランチをしていた。目の前には緑と黄色と赤色が爽やかなサラダとクリームパスタが置かれている。

「へぇそうなんだ?」

「そんな他人事みたいに、彩だって同い年なんだから危機感持ったら?」

「なんで?」

「なんでって子どものことを考えると今の歳がボーダーでしょ?」

「あのね、穂香。そりゃ子ども欲しいならそうなのかもしれないけど考えてみなよ、今行動を起こす、どんな行動を起こすのか知らないけど、それでいい人見つけてそこから恋愛して、結婚して子ども産んでって何年かかると思ってんの?」

「わかんないけど・・・でもどうやったって今動かなきゃならないじゃない!」

「わかったわかった応援するよ」

「うん、で、どうすればいい?」

「は?・・・は?考えてないの?」

「うん・・・だってずっと仕事忙しかったし」

仕事が忙しかったのは事実だ。でもその仕事が楽しかったと言うのもある。
目の前に座っている彩とは切磋琢磨しながら10年働いてきた。『女性なんて』といまだに言われるような業種で実力でそんな人たちを黙らせてきた私たちはとても輝いていたし、これまでの時間を誇りに思う。

「ならマッチングアプリでもやってみれば?」

「やってるよ」

「あ、そうなの?」

彩はそういうところが鈍い。基本的に他人には興味がない人だ。それが頭に来ることもある、同期なのになんでこの子は私に興味を持たないのか?とでも今ではこのくらいの距離感が心地よく感じている。

「そうだよ、3人くらいと会ったけどなんか全然ダメで上手く噛み合わないんだよね。この間なんて初めて会ったその日にホテルに誘ってくるような人でさ」

「なにそれ?最悪」

「そう、だから段々とマッチングアプリが嫌になってきた」

「ところでさ、なんで結婚したいの?」

「は?なんでって。さっき言ったじゃん」

「うん、聞いたけどそれは妊娠適齢期の話でしょ?穂香はなんで結婚したいの?一般論じゃなくて穂香の理由」

そんなのある訳でない。子どもは欲しいと思ってきた。子どもが欲しいなら今の段階で出会って恋愛して結婚しておかないとダメだから結婚したいのだ。

「・・・わからない」

「結婚ってさ子どもを持つための手段じゃないよね?子どもを持つことを考えるなら別に結婚しなくてもいいい訳だし、というか穂香仕事好きだよね?私も好き。女性が子どもを産むってことを考えるとどうしてもそこでキャリアがストップするよ。止まるだけならいいけど、落ちていくかもしれないしこの国は産休・育休終えて子育て真っ最中の中社会復帰しても以前のようなキャリアを続けていくことは難しい。そんな状態で穂香に子どもか仕事か選べる?」

「そんなこと考えたよ!考えてわからない。だってそうじゃない?やってみなけりゃわからない」

「私はね、仕事が好き。こんな女性に対して不遇な状態の業界ではあるけどそれでも実力を示ればそれでいいってこの仕事が好き。業界がそうなだけであってうちの職場はみんなそれぞれ尊重し合えてるし、私はそれで十分」

「でもそしたら彩結婚できなくなるよ」

「うん、それならそれでいいよ」

「子ども産まないと将来どうなるのよ?」

「そもそも子どもを産むっていう選択肢をずっと狭めてきたのが今の世の中じゃない?それで少子化?とか人口減少?とか言われてもそんなの知らないよ。大丈夫安心して私が子どもを産まなくても世界の『ヒト』は絶滅しないから。私が穂香に考えて欲しいのは自分のしたいことと自分の理想をイコールにすることだよ」

「それでも私は子どもが欲しい」

続く。

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