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いつもの場所(短編小説)(ショートショート)(超ショート)

「またねぇ」
「また明日ね」

 そんな声が聞こえる。私が最後に声を掛けられたのはいつだろう。

もう忘れてしまった。

 こんな私でも好きな時間がある。太陽が赤く輝きそして沈んでいくそんな時間。

 小学校の前を通る。生き生きとした子どもの姿に心を打たれる。
 しばらく見ていた。誰も私には気づかないのだから大丈夫。

 歩道に出てみた。忙しなく走る車はそれぞれの想いを乗せて走る。共通しているのは家に帰ろうとする思い。
 横断歩道を渡ってみた。大丈夫私に気づく人はいない。

 長く影が伸びている。まるで何かを求めるように伸びる影は他人同士がくっついてしまう。希求のように感じる。
 私はそれをじっと眺めた。大丈夫私の影は混ざらない。

 私は立ち止まる。いや正確には後から引っ張られる方が正しい。もうこれ以上は進めない。この先には何があったっけ?そんなことを考えながら私は戻る。

 遠くへ行きたかった。振り切ろうとしたけどダメだった。
 あの先へ行きたい。でもあの先は記憶に無い。

 私はいつもの場所をぐるぐる回っている。
 いつもいつも同じ場所を回っている。
 破れた服を見に纏う。
 おでこからは唯一温かさを感じる。視界が少し悪い、頬から顎にかけて濡れているような不快感を感じる。

 私はいつもの場所をぐるぐる回っている。
 何をしたらいい?
 どうしてこうなった?
 誰がこうした?
 何故私が?
 わからない・・・
 私はずっと。ここにいる。

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